日本時間の昨日発表された6月13日付米ビルボードソングチャート(集計期間:5月29日~6月4日)では、アリアナ・グランデの新曲「Hate That I Made You Love Me」が首位初登場を果たしました。
アリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」はストリーミング2360万、ダウンロード70,000およびラジオ1890万を記録。同曲の首位初登場についてはTalk of the ChartsのXアカウントも最終予想にて首位に据えていましたが、予想精度の高さで知られるこのアカウントが発信した構成3指標の数値は実際の結果とほぼ合致しています。
(Talk of the Chartsによるポスト(→こちら)より。なお当該ポストでは100位までの順位予想が公開されています。)
一方でTalk of the Chartsは、6月13日付米ビルボードソングチャートの予想にてアリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」が初期段階(Early Predictions)では3位(予想ポストはこちら)、中間予想(Midweek Predictions)では2位(ポストはこちら)と位置付けていました。

そしてTalk of the Chartsは、アリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」が集計期間最終日に27,000DL以上のデジタルダウンロードを記録したとアナウンスしています。これはリリースから6日目までに記録した数値に近い水準とのことです。
Ariana Grande’s “hate that i made you love me” nearly doubled in digital song sales over the final 24 hours of the tracking period, selling over 27,000 digitally in the U.S. on Thursday. pic.twitter.com/GPPbtItNjw
— Talk of the Charts (@talkofthecharts) 2026年6月6日
今回はアリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」が首位に至った経緯を考えると共に、米ビルボードに対するチャートポリシー(集計方法)の見直し提案を記します。
6月13日付米ビルボードソングチャートにおけるアリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」の構成3指標動向は以下の通り。弊ブログでは米ビルボードによる記事を意訳し、紹介しています。
アリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」はストリーミング2360万(同指標3位)、ダウンロード70,000(同指標首位)およびラジオ1890万(同指標25位)を記録。なおミュージックビデオは6月1日に解禁されています。
(記事にはありませんが、1月31日付以降の米ビルボード各種チャートに対しYouTubeはデータを提供していません。)
ダウンロード指標のうち、55,000はデジタル分。そのデジタルではオリジナルバージョンに加えて“Ari Lyric Draft from Bed”、"Bad News Montage"、“Live from Rehearsal”、“Melody Pass”という各種バージョン、さらにアカペラおよびインストゥルメンタルの計7バージョンが登場しています。フィジカルにおいてはオリジナルバージョンとアカペラを収録した"Fluffy Tail Gray"、およびオリジナルバージョンとインストゥルメンタルを収録した"Dandelion White"がCD、レコードおよびカセットテープで販売。そしてストリーミングサービスではオリジナルバージョンおよび"Bunny Hop Montage"バージョンが配信されています。
・【海外ビルボード】アリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」、米でキャリア10曲目の首位に(6月9日付)より
一方で、筆者が調べた限りでは米ビルボードの記事と一部が異なります。もっといえば、重要なことが記事に"書かれていない"という疑問を抱くに至っています。
アリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」はアルバム『Petal』(7月31日リリース)からの第1弾シングルとして、6月13日付米ビルボードソングチャートの集計期間開始時と同じ5月29日金曜午前0時(東部標準時)にリリースされています。
一方で、6月13日付米ソングチャートの集計期間内にリリースした動画は上記ミュージックビデオ、リリックビデオ(→こちら)および公式オーディオのみ。またサブスクサービスで解禁されているのは一部サブスクサービスを除きオリジナルバージョンバージョンに限られています。
"一部サブスクサービスを除き"と記したのは、アリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」にてSpotifyでは"Bunny Hop Montage Version"、Apple Musicでは"Bad News Montage Version"と称した動画が用意されているため。米ビルボードによる1月31日付以降の各種チャートにてYouTubeがデータ提供を取り止めたことで、SpotifyやApple Musicを介してエクスクルーシブな動画を公開するという手法が一部歌手で採られており、アリアナもそれに倣ったものとみられます。
一方で、ダウンロード指標の増加に大きく寄与したのが8つものバージョンの存在です(米ビルボードの記事では7つと紹介されています)。

(Hate That I Made You Love Me - Wikipediaより。)
アリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」は6月2日にアカペラおよびインストゥルメンタル版、翌3日に"Live from Rehearsal"版、そして集計期間最終日となる6月4日に"Melody Pass"、"Ari Lyric Draft from Bed"、""Music Video Edit, Extended"、"Guitars Only"および"Stripped"版をリリースしており、オリジナル以外に8バージョンが登場しているのです。
これらリミックスバージョンの存在がダウンロード指標の押し上げにつながったといえますが、それを加速させたのが"ダウンロードのみ/ストリーミング未解禁"という手法でしょう。そしてもうひとつ、オリジナル版以外の8バージョンはすべて東部標準時の6月4日23時59分までの販売…つまりは6月13日付米ビルボードソングチャートの終了時にて販売を終えていることから、駆け込み需要を喚起したことが想起されます。
(Team ArianaのXアカウントによるポスト(→こちら)より。)
ブログエントリー執筆時点で58万を超えるフォロワーを抱えるTeam Arianaの公式Xアカウントによる発信が、駆け込み需要を促したと考えるのは自然なことでしょう。そして、そもそもなぜダウンロード配信を終了させる必要があるのでしょう。リミックス版の質が高いと自負するならば尚の事です。
Ariana Grande's "hate that i made you love me" has occupied the 8 of the top 10 spots on the US iTunes. pic.twitter.com/wkmwxpFTSV
— Chart Predictions (@ChartPredicts) 2026年6月5日
このダウンロード施策が功を奏し、アリアナ・グランデは「Hate That I Made You Love Me」の様々なバージョンを上位に送り込むことに成功。そして集計期間最終日での売上増加、さらには総合首位初登場につながっています。しかしながら翌週は急落する可能性が否定できないことは、同種の施策を採った曲の直後の動向から想起可能です。なお様々なバージョンはすべて、おそらくは69セントで安価販売されていたとみられます。
Ariana Grande’s “hate that i made you love me” has been discounted to $0.69 on iTunes. pic.twitter.com/OphnmlrJ9X
— Talk of the Charts (@talkofthecharts) 2026年5月30日
さて、アリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」における各種施策は、今年の米ビルボードソングチャートで首位初登場、もしくは急伸し首位に立った曲で散見されたものです。直近ではオリヴィア・ロドリゴ「Drop Dead」の首位初登場においても、サブスクサービスでの動画公開や追加バージョンのダウンロード販売のみ(サブスク未解禁)、安価販売が行われています。
そして上記エントリーでも述べたように、アリアナ・グランデが採った施策はテイラー・スウィフトやBTSも、今年実行しています。テイラー・スウィフト「Opalite」は初登場ではない形で首位を獲得していますがダウンロードオンリーのリミックスを配信、またBTS「SWIM」では少し内容が異なりますがオリジナルバージョンの音源は共通しながらジャケットが異なるダウンロード専用版("Alternate Cover")を用意しています。
テイラー・スウィフト、BTS、オリヴィア・ロドリゴそしてアリアナ・グランデはいずれもユニバーサルミュージックに所属しており、おそらくはユニバーサルミュージック内にて米ビルボードソングチャートの成功事例が共有されているものと考えます。ファンダムが多い且つ熱量が高い歌手でなければ施策の実行は難しいかもしれませんが、米チャート制覇という事例は実際に複数生まれています。
音楽チャート分析者として、果たしてそれでいいのかという思いを率直に記します。
翌週に首位をキープできなくとも、もっといえば急落したとしても、首位獲得の事実があれば時間経過に伴いその事実だけが(首位獲得のプロセスは忘れられていくとしても)残るようになります。とはいえそのような施策が果たして健全だといえるのだろうかというのが、厳しくも私見です。この見方は以下の考えに基づくものです。
音楽チャートの施策は、コアファンに過度な物理的または精神的(もしくはその双方)の負担を強いるものでなければ自由だというのが私見です。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2025年11月2日
ただし他の歌手の作品と条件を揃えることが大前提であり、デジタル未解禁やアルバムでの単曲ダウンロード禁止等、制限を伴うものには強い違和感を抱きます。
米ビルボードソングチャートで首位初登場が難しいのは、構成指標のひとつであるラジオが上昇しにくいことが背景にあります。ラジオ指標は保守的ともいえる一方、社会的ヒット曲が残りやすいというのも特徴として挙げられます。そして、この指標(の基となるチャート)で高位置にて初登場を果たすことは極めて稀です。
ゆえにデジタル指標群を充実させることは理にかなってはいるのですが、現在はストリーミングの数値が以前ほど高くはありません。先述したようにYouTubeがデータ提供を取り止めているゆえ尚の事です。そこでダウンロード指標の拡充を多くの歌手が行う傾向にあるのですが、その際に"複数のバージョンをリリースする"、そして"ストリーミングサービスには解禁しない"という姿勢が目立ってきています。
ただし所有指標は一過性であり、注目度の高い曲はストリーミングにおいても登場2週目に大きく後退する傾向にあります。一方でラジオは上がり方がゆっくりなためデジタル指標群の減少を補完できず、初登場等で首位を獲得した曲の翌週における後退につながるのです。実際、テイラー・スウィフト「Opalite」は4位、BTS「SWIM」は2位、オリヴィア・ロドリゴ「Drop Dead」は4位に後退しており、首位獲得からのトップ10内連続エントリーは順に5週、4週および4週にとどまっています。
そして、いくらデジタルで安価販売をしたとして、その購入には必要以上の負担を強いさせることになります。ファンダムの物理的、精神的な疲弊を招く可能性を踏まえると、やはり健全とはいえないのではないでしょうか。
来週は映画『トイ・ストーリー5』に用いられているテイラー・スウィフト「I Knew It, I Knew You」が首位初登果たすと言われていますが、同曲もオリジナルバージョンをリリースした後、アコースティックバージョンおよびピアノバージョンの2種を、共にダウンロードのみでリリースしています。この点からは、このような施策が今後もユニバーサルミュージックを主体に続くものと受け止めています。
Taylor Swift Releases Digital Acoustic & Piano Versions of ‘Toy Story 5’ Song ‘I Knew It, I Knew You’https://t.co/MhcJARZXoW
— billboard (@billboard) 2026年6月7日
テイラー・スウィフトはこれまでも、このような音楽チャート施策に最も意欲的な歌手でしたが、それが米ビルボードにおける様々なチャートポリシー(集計方法)の変更をもたらしたと捉えています。ともすれば現時点でもチャートポリシー変更について議論しているかもしれない米ビルボードに対し、この半年でのテイラー・スウィフトをはじめとする施策およびその結果を踏まえて以下の内容を提案します。
米ビルボードソングチャートのチャートポリシーについては、① ダウンロード指標のウエイトを下げる、② ストリーミング未リリースバージョンをカウント対象から外す、③ 初日0時以外にリリースされたバージョンをカウント対象から外すという3点を提案します。特に②においては、音楽的に意味を持つはずのオリジナル以外のバージョンが単なる音楽チャート施策という位置付けに格下げされていると感じるゆえ、強く勧めます。
そして各サブスクサービスでのみ動画解禁する状況が増えている状況から、④ YouTubeのデータ提供を復活させる、という点についても強く提案します。この点は(追記あり) YouTubeがビルボードへのデータ提供を終了へ…声明発表のタイミング等も踏まえた上で考えることについて(2025年12月18日付)等で紹介しており、YouTubeの稚拙な態度が最大の問題と考えますが、米ビルボードも意地になってはならないと考えます。
最後に。今回の提案を"推す歌手が不利になりかねない"等の理由で非難する方がいらっしゃるかもしれません。実際、以前提案した筆者をテイラー・スウィフト嫌いと決めつけた方がいらっしゃいました。自分はどの歌手のファンでも、またアンチでもなく、チャートの健全化を願い提案しています。このままでは首位という意味合いが薄れ、形骸化しかねないと考えるゆえの発信です。
むしろコアファン、そしてコアファンの中で音楽チャートに意識的な方々の集合体であるファンダムが、現状のチャート結果をきちんと分析し、考慮することが必要と考えます。たとえばアリアナ・グランデの場合、「Hate That I Made You Love Me」がキャリア10曲目の首位獲得作品となりますが、近年の首位曲の多くが1週でその座から離れていることはきちんと考慮する必要があるはずです。
<米ビルボードソングチャート アリアナ・グランデによる首位獲得曲>
・「Thank U Next」(2018年11月17日付以降 7週) (首位初登場)
・「7 Rings」(2019年2月2日付以降 8週) (首位初登場)
・「Stuck With U (with ジャスティン・ビーバー)」(2020年5月23日付 1週) (首位初登場)
・「Rain On Me (with レディー・ガガ)」(2020年6月6日付 1週) (首位初登場)
・「Positions」(2020年11月7日付 1週) (首位初登場)
・「Save Your Tears (with ザ・ウィークエンド)」(2021年5月8日付以降 2週)
・「Die For You (with ザ・ウィークエンド)」(2023年3月11日付 1週)
・「Yes, And?」(2024年1月27日付 1週) (首位初登場)
・「We Can't Be Friends (Wait For Your Love)」(2024年3月23日付 1週) (首位初登場)
・「Hate That I Made You Love Me」(2026年6月13日付 1週) (首位初登場)
・【海外ビルボード】アリアナ・グランデ「Hate That I Made You Love Me」、米でキャリア10曲目の首位に(6月9日付)より
このことは、アリアナ・グランデのコアファンとライト層で乖離が生じていることのひとつの証明と考えます。ならばライト層を確保し、ストリーミングやラジオという接触指標群でロングヒットを目指すべく動くことが重要でしょう。ライト層はコアファンに昇華し得る存在ゆえ、その確保は必須です。
そしてもうひとつ。ラジオは保守的ゆえ軽視していいという見方もあるかもしれません。ならば、ラジオ業界全体に対し新曲をより素早く流すことを訴求することがまずは重要でしょう。ラジオ指標首位曲の数値を見る限りこの指標も全体的にシュリンクしていると考えれば、新曲においては実はチャンスのはずです。