イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

自民党総裁出演動画が9日で1億回再生突破…問題の背景、および音楽チャートにおける動画反映方法について

音楽チャートを追いかける者として、自民党総裁による動画が早々に1億回再生を突破したことは異様と呼んで差し支えないと考えます。この件はいくつかのメディアが発信していますが、以下の指摘に強く納得した次第です。

ITジャーナリストの三上洋氏は「他の自民党の動画を見ても、2桁、3桁数字が違う。何らかのブーストがかかっている、単純明快にわかるのは広告でしょう」と指摘。「YouTubeやその他のSNSの広告に貼り込むことで再生回数を上げることは可能」とした。

三上氏は根拠として、同じ時期に挙げられた高市氏の他の動画の数字に着目。「2本が850万回再生(4日正午)、他の2本が480万回(同)と数字がほぼ揃っている。それぞれが同じシリーズ。ぴったり数字が揃うということはあり得ないので、こちらも広告として流しているでしょう」と推測した。広告費は「単純に言って、1億回表示する分でかなりの金額」とした。

 

広告展開が大きく関わったとみられる今回の1億回再生突破についてですが、これを踏まえて"再生数ランキングは全く信用できないものになる"との声を耳にしています。しかしその考えは必ずしも当たっているとはいえません。というのも、このブログにて以前このような発信を行ったためです。

 

3年前、JO1「SuperCali」のYouTubeでの再生回数がビルボードジャパンソングチャートの動画再生指標に反映されていないのではという疑問を機に、調査した結果を上記エントリーにて掲載。その際、『ミュージックビデオが広告としてYouTubeで流れていること、その広告再生分がYouTubeの再生回数にカウントされていること、その一方でビルボードジャパンでは広告再生分が反映されていないということ』が判明しています。

ゆえに『ミュージックビデオ発信側がYouTube側に広告費を払っていれば、(一定のターゲットは決めつつ)不特定多数に広告を打ち30秒以上再生された際、再生回数として加算される仕組み』が想起できるのですが、一方でビルボードジャパンは『適正に判断されたアクションのみ再生としてカウント』することから、それが調査対象曲におけるYouTubeカウンターと動画再生指標との差につながったと結論付けています。

(『』内は上記ブログエントリーより。なおエントリーにおいてはいただいた声も調査の参考になりました。あらためて、この場を借りて感謝申し上げます。)

 

この結果を踏まえ、当時のブログエントリーではこのように記しました。

そうなると、YouTube再生回数に広告展開分がカウントされていることが問題ではないかという新たな疑問も浮かんできます。広告費をいただいているからカウント対象とするというのがその理由ならば、YouTube営利企業であることを良くも悪くも認識させられたと感じています。

 

JO1「SuperCali」、ミュージックビデオ再生回数とビルボードジャパン動画再生指標との乖離の理由を探る(2022年10月21日付)より

YouTubeにて音楽関連動画を広告展開した際、その再生回数はYouTube自体ではカウントされる一方でビルボードジャパンでは対象外となります。敢えて強い言葉を用いるならば、YouTubeの再生回数は金銭である程度購入可能と形容でき、音楽チャートにおいては不可と解るでしょう。ゆえにYouTubeの再生回数カウンターを過度に信じるべきではなく、ただしその見方を音楽チャートにも当てはめるのは違うというのが私見です。

(ビルボードジャパンには【Billboard JAPAN Chart】よくある質問 | Special | Billboard JAPANというページがあります。その中の『YouTubeについて』という項目を、是非ご参照ください。)

 

 

余談ですが、YouTubeは今年に入り、米ビルボードへのデータ提供を取り止めています(ビルボードジャパンでは提供が継続)。その背景には米ビルボードのチャートポリシー(集計方法)変更があり、YouTubeはその変更を時代遅れと形容していましたが、自身にも有料会員向けサービスがあり、また再生回数カウンターに問題があることがあらためて分かった以上尚の事、YouTubeの姿勢を正しいとみなすことは難しいものと考えます。

ちなみにYouTubeが米ビルボードへのデータ提供を取り止めた後、テイラー・スウィフト「Opalite」のミュージックビデオがYouTubeで公開されない事態が発生しています。公開先はSpotify有料会員、そしてApple Music(無料会員制度なし)のみであり、こちらは音楽チャートのカウント対象に。テイラー側のYouTube未公開理由は厳密には不明ながら、今後はYouTubeでの公開を後回しにするという施策が増えていくかもしれません。

(なお「Opalite」ミュージックビデオはYouTubeで明日公開となる模様です。詳しくはテイラー・スウィフト NewsのXアカウントによるポスト(→こちら)をご参照ください。)

 

 

先程『YouTubeの再生回数は金銭である程度購入可能』と記しましたが、冒頭の記事に話を戻せば、今回の自民党総裁メッセージ動画の億超え再生にはどれだけの予算が投じられているかを考える必要があるはずです。『1億回再生は、例えば人気アーティストYOASOBIの大ヒット曲「アイドル」が35日で達成』(冒頭の記事より)という点からも、今回の再生回数増加速度は異様であり、そして多額の資金投入が推測されます。

音楽関連動画についてはビルボードジャパンがYouTubeの再生回数を適正に判断していますが、政治関連動画においてはYouTubeで表示される再生回数のみが判断基準と成りかねません。特に、自民党総裁を推し活的な意味合いにて支持する人々には、異様と呼べる数値であっても前向きな材料として受け止める可能性が考えられます。

 

公選法は候補者個人による有料のネット広告を禁じるが、政党は選挙運動用サイトなどに直接リンクする広告なら認められている。中央大の中北浩爾教授(政治学)は「SNSは政治や選挙を相当ゆがめており、看過できない。ルールの適正化について議論すべき時だ」と指摘した。

高市首相動画、異例の1億再生 SNS「広告」、疑問の声【2026衆院選】:時事ドットコム(2月4日付)より

YouTubeの再生回数が収入につながること、YouTube等に虚偽やヘイトスピーチが蔓延していること、そしてそのような攻撃的動画の人気が高いゆえに再生回数が増加し収入に…という悪循環を考えれば、上記記事におけるルールの適正化、もっといえば厳格化は必須でしょう。しかしながら今回の選挙で与党が勝り、大勝したならば尚の事、これらが放置されてしまうのではないかと危惧しています。