先週米ビルボードが発信したコラム、ビルボードジャパンが翻訳版を公開したこともあり音楽チャート分析者の間で話題となっているようです。
米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”のTOP40からラップ曲が消失、1990年以来初 https://t.co/07p6EAm1Ba
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年10月31日
元々の記事はこちら。今回の状況について、米ビルボードは【米ビルボードによるリカレントルールの”強化”】【テイラー・スウィフト『The Life Of A Showgirl』収録曲の上位進出】【ヒップホップの勢い後退】等を理由に掲げています。そして最後に挙げた要因について支持する見方も散見されますが、この点への自分の見方は週内公開のエントリーにて記します。
今回は、米ビルボードによるリカレントルール”強化”について復習します。強化の結果を掲載するとともに、矛盾と呼べる状況についても紹介します。
米ビルボードは10月25日付が2026年度初週となり、そのタイミングでリカレントルールを強化しています。同日付ソングチャート速報記事の最後にその強化実施の旨が掲載され、弊ブログでは速報記事翻訳版の掲載前に別エントリーで紹介しました(米ビルボードソングチャート、2026年度初週にリカレントルールを強化したことについて(10月21日付)参照)。そしてビルボードジャパンも、その部分の翻訳記事を用意しています。
これまでチャートを下降している楽曲は、チャートイン52週経過後に25位以下、または20週経過後に50位以下にランクダウンした時点でHot 100から除外されていた。今後は、以下の新しい基準が適用される。
・78週経過後に5位以下に下落した場合
・52週経過後に10位以下に下落した場合
・26週経過後に25位以下に下落した場合
・20週経過後に50位以下に下落した場合
米ビルボード“Hot 100”リカレント・ルール改定、2026年度チャートより適用 https://t.co/J2djfyD76A
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年10月21日
※ 記事における『Hot 100』は、米ビルボードソングチャートを指します。
ではこの強化により、チャートはどう動いたでしょう。
<10月25日付米ビルボードソングチャート
リカレントルール抵触に伴いチャートから外れた曲>
・テディ・スウィムズ「Lose Control」(10月18日付米ビルボードソングチャート 17位/通算112週在籍)
・ベンソン・ブーン「Beautiful Things」(25位/89週)
・レディー・ガガ & ブルーノ・マーズ「Die With A Smile」(22位/60週)
・シャブージー「Good News」(34位/46週)
・ケンドリック・ラマー & シザ「Luther」(38位/46週)
・モーガン・ウォーレン「I'm The Problem」(31位/36週)
・ベンソン・ブーン「Sorry I'm Here For Someone Else」(46位/32週)
・モーガン・ウォーレン「Just In Case」(33位/29週)
・ソンバー「Undressed」(37位/27週)
・ビッグXザプラグ & ベイリー・ジマーマン「All The Way」(47位/27週)
・フエルサ・レジーダ「Marlboro Rojo」(74位/21週)
※ Chart PredictionsによるXのポスト(→こちら)参照
今回のリカレントルール強化には、歓迎する声がみられます。特にテディ・スウィムズ「Lose Control」やベンソン・ブーン「Beautiful Things」は2024年度の年間ソングチャートでトップ3に入った曲であり(下記ポスト参照)、長期滞在し過ぎていること、またそのような作品をヒット曲と呼ぶことへの違和感が歓迎の形になって表れたものと考えます。
The Top 10 #Hot100 songs of 2024 on the @billboardcharts! 📈
— billboard charts (@billboardcharts) 2024年12月13日
Tap here to see all of the latest year-end charts: https://t.co/NkUGJ9ZIRx pic.twitter.com/MOLS0JTzh6
ロングヒット曲への違和感を抱くことは確かに重要ですが、ならばこれら作品を覆すほどの新たなヒット曲が生まれていなかったことについて考えることも必要でしょう。またロングヒット曲は音楽ファンやラジオ業界の継続的な支持の結果と考えるに、リカレントルール強化への支持はそれらの否定につながる可能性は念頭に置くことが大事です(その最低限の敬意がないゆえ、例えばラジオ不要論が登場するものと思われます)。
そして、リカレントルール強化を支持する方が、次に挙げる状況をどう捉えているかが気になります。
<10月25日付米ビルボードソングチャート
リカレントルール抵触の条件を満たしながらチャートにとどまった曲>
※ 最新11月1日付における動向も掲載しています。
・ビリー・アイリッシュ「Wildflower」(10月18日付米ビルボードソングチャート 69位/通算63週在籍→10月25日付 50位→11月1日付 47位)
・テイト・マクレー「Revolving Door」(49位/26週→10月25日付 38位→11月1日付 リカレントルール適用)
・シャブージー & ジェリー・ロール「Amen」(100位未満→10月25日付 88位/23週→11月1日付 85位)
・モーガン・ウォーレン「20 Cigarettes」(94位/21週→10月25日付 89位→11月1日付 リカレントルール適用)
※ Chart PredictionsによるXのポスト(→こちら)参照
一定週数ランクインした曲が一定順位を下回った場合にチャートから外れるというリカレントルールは2026年度になってその週数や順位が強化されたという形ですが、米ビルボードでは『これらの基準を下回っていても、特定のケースでは楽曲がチャートに留まることが認められる』としています(『』冒頭の翻訳記事より)。ただし、その”特定のケース”については上記4曲において明確にされていなと記憶しています。
たとえば上記4曲が年度をまたぐタイミングで勢いが高まったゆえ、米ビルボードが特定のケースとみなしリカレントルール抵触を避けたのかもしれません。ただ個々のケースに対する説明がない限り、音楽チャートへの違和感は拭い去れないでしょう(”温情が入っている”等と思われかねません)。そしてそのような矛盾に対し、リカレントルール強化を支持した方ほどスルーせず、きちんと指摘することは必要ではないでしょうか。
”ヒップホップのトップ40脱落”を採り上げる前段階として、まずはリカレントルール強化における実際の結果を紹介しました。周囲の環境をひとつずつ把握した上で、ヒップホップの状況について紐解いていきます。