イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米津玄師「IRIS OUT」の特大ヒットにつながった”発信の徹底”と、その結果を踏まえた2つの改善提案について

米津玄師「IRIS OUT」においては既にいくつもの記録が生まれています。そのうちデイリー200位までの順位および再生回数が可視化されるSpotifyでは、日本における最新9月22日付にて同曲がデイリー最高再生回数記録を更新しています。

日本におけるSpotifyの特性については別エントリーにてお伝えしますが、この記録達成は楽曲自身の力、強力なタイアップの他にも様々な背景が考えられます。そのひとつについては「怪獣」「革命道中」そして「IRIS OUT」でも…音源の事前公開で"渇望を作ること"が重要に成っている件(9月22日付)にて紹介していますが、今回は”発信の徹底”について記します。

 

 

米津玄師さんが所属するREISSUE RECORDSでは、「IRIS OUT」の記録達成時におけるアナウンスを徹底している印象です。また米津玄師さん本人による発信も、数自体は少ないながら行われています。

(ふたつのポストのうち前者は9月21日付、後者は9月15日付における記録を踏まえてのものですが、後者において米津玄師さんが引用したポストの表現は正確ではありません。この点は後述します。)

このような発信は大きな意味を持ちます。記録達成を迅速に発信すること、そしてその達成に対し素直に感謝の意を述べることは、歌手とコアファンとの関係性を密なものとし、その記録の意義深さを高める効果があります。

 

加えて、ともすれば未だ存在するかもしれない”音楽チャートに懐疑的”な歌手の姿勢も変えていくかもしれません。チャート分析を行うと”チャートがすべてではない(から意味がない)”という声を稀に耳にしますが、聴かれ続ける作品がロングヒットするようになった現在ではいわば”質と量”が以前よりもリンクする傾向にあります。そして海外の歌手をみるとチャート施策、そして感謝の意の発信に積極的なことが解ります。

デジタル時代にあってはフィジカルメインの時以上に中長期的な利益を得られやすくなったと考えます。強力な作品の存在が過去曲も押し上げ、歌手自体のステータスが上がることでその歌手の活動基盤をより強固なものにできるのならば、それに越したことはありません。

(音楽チャートがすべてではないと考えるならば質に対してスポットが当たるよう動くべきであり、その点において(エントリー基準が音楽チャートのランクインではあるものの)今年初開催されたMUSIC AWARDS JAPANの存在が大きな意味を持つと捉えています。)

 

感謝の意を述べることの重要性は、米レコード協会(RIAA)から「KICK BACK」(2022 テレビアニメ『チェンソーマン』オープニングテーマ)がゴールド認定を受けた際の米津玄師さんによる発信からもみえてきます。メディア露出の少ない米津さんによるYouTubeでの動画公開は認定の重みを実感させ、映画「劇場版『チェンソーマン レゼ篇』」公開直前の認定ゆえ尚の事、「IRIS OUT」への注目度を高めることにつながったといえます。

 

YouTubeといえば、米津玄師さんは公式YouTubeチャンネルにて「IRIS OUT」の公式オーディオも用意しています。ブログ執筆時点で800万近い再生回数を誇るこの動画の成果からは、サブスクやYouTubeを徹底することの重要性が見て取れます。

米津玄師さんのサブスク解禁は、他の歌手より早いとはいえませんでした。デジタルに未だ明るくない歌手が少なくないのが日本の音楽業界の現状ですが、デジタルをきちんと解禁するようになった米津玄師さんがその活用を徹底するようになったことが今回の記録達成につながったと考えていいでしょう。実際、「IRIS OUT」はデジタルのみを対象データとする米ビルボードのグローバルチャートでも上位初登場を果たしています。

 

 

最後に。今回のエントリーで述べた”発信の徹底”について、気になったことや改善が必要と考える点を2つ記します。

 

ひとつは、正確な情報が伝わっていないということ。先述した米津玄師さんのポストにて引用されたREISSUE RECORDSの発信内容は不正確であり、正しくは『デイリー歴代最高記録はCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が2024年3月16日付にて記録した746,630回再生であり、REISSUE RECORDSの発信は配信初日における記録』となります(『』内は米津玄師「IRIS OUT」の初速に注目…一方で記録発信時の表現等が気になったことについて(9月18日付)より)。

また昨日発信分の表現も正確とはいえず、勝手ながら補足させていただきました。

加えて、REISSUE RECORDSの記録達成アナウンスには数時間から1日近いタイムラグが生じています(日本のSpotifyデイリーチャートは22時以降に更新)。”情報は正確に伝える” ”素早く共有する”そして”音楽チャートをきちんと理解する”ことが重要だというのが自分の見方であり、この点は米ビルボードによるGlobal Excl. U.S.(Global 200から米の分を除く)にて「アイドル」が初制覇を果たした際のYOASOBI側の発信から学べるはずです。

 

そしてもうひとつは、先述したように日本でデジタルに明るくない歌手が未だ少なくないということ。サブスク解禁を(意図的にか)行っていない歌手が多く、その歌手のみならず日本のコンテンツ全体への信頼度を下げかねないと危惧します。

米津玄師「IRIS OUT」が主題歌に起用された映画「劇場版『チェンソーマン レゼ篇』」は海外で順次公開されますが、同作品に挿入歌「刃渡り2億センチ(全体推定70%解禁edit)」を提供するマキシマム ザ ホルモンはサブスク解禁をほぼ行っていません(挿入歌情報はこちらに掲載)。

マキシマム ザ ホルモンはテレビアニメ版『チェンソーマン』第3話のエンディングテーマに提供した「刃渡り2億センチ」の”TV edit”と称した短尺版をアニメ放送直後にサブスク解禁するも、現在は削除されている模様です。そして「劇場版『チェンソーマン レゼ篇』」は既に公開されながら、その挿入歌は未だ解禁されていません。

 

サブスク未解禁歌手の姿勢は尊重すべきかもしれず、また日本でサブスク非解禁にこだわる歌手がいることは(納得できないとしても日本のデジタル姿勢の遅さ等を踏まえた上で)理解できるかもしれません。しかしながらサブスク解禁が基本的となっている海外にてこのような日本の音楽作品のサブスク未解禁の多さ、非解禁にこだわる歌手の存在はどう受け止められるでしょう。日本のエンタテインメント作品が海外に波及することのブレーキに、信頼を損ねることに成りかねないのではというのが厳しくも私見です。

米津玄師さん自体もサブスク解禁は早くはありませんでしたが、解禁しそれを徹底しているからこそ「IRIS OUT」の特大ヒットにつながっていることは音楽業界全体が理解すべきであり、それを基に非解禁にこだわる歌手への説得に当たることを強く願います。