ビルボードジャパンは今週月曜、下半期初週のソングチャートおよびアルバムチャートから”リカレントルール”を適用するとアナウンスしました。
今回導入するリカレントルールでは、日本独自のマーケットバランスを考慮し、対象曲のストリーミングポイントを一定の割合で減算する。<Hot 100>においての対象は通算52週チャートインした楽曲、<Hot Albums>は通算26週チャートインした楽曲を対象とする。
Billboard JAPANチャート、リカレントルールを2025年度下半期チャートより導入https://t.co/jwsAorQU9Z
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年6月2日
この新ルール適用について、弊ブログでは上記アナウンスを踏まえて採り上げましたが((追記あり) ビルボードジャパンが下半期よりリカレントルールを導入へ…現時点での私見を記す(6月2日付)参照)、その翌日RealSoundにコラムを寄稿しています。
ビルボードジャパンは本日、リカレントルールを初めて適用したソングチャートを公開しました。今回はその動向を紹介し、私見を記します。
リカレントルールにおいてどのくらいの減算処理になるかは蓋を開けてみなければ分かりませんでした。そこで今回発表されたチャートを基に作成したストリーミング表を、まずは掲載します。
なおビルボードジャパンの記事で述べられている『ストリーミングポイント』については、たとえばソングチャートにおいてはストリーミング指標の基となるStreaming Songsチャートでの獲得ポイントを指すと考えられます。Streaming Songsチャートでは今回、リカレントルール適用対象となったMrs. GREEN APPLE「ライラック」が首位を獲得していますが、指標化の際に減算処理が施され、同指標は19位に後退しています。
当週のStreaming Songsチャートにて50位以内にランクインし、リカレントルールが適用された曲の中で総合50位以内に残ったのはMrs. GREEN APPLE「ライラック」「ケセラセラ」およびVaundy「怪獣の花唄」の3曲のみ。総合ポイントの前週比は5割から6割となっており、多くの適用曲はこの範囲にて減少したものと考えられます。
また、当週のStreaming Songsチャートで50位以内にランクインし、リカレントルールが適用された曲に絞ったストリーミング表も作成。該当する18曲のうち総合トップ20入りを果たしたのはMrs. GREEN APPLE「ライラック」のみとなり、一方で100位以内から脱落したのは5曲あります。これにより新たなランクインや再浮上曲が登場することになり、ルール適用が”新陳代謝”の側面を持ち合わせていることがここから解ります。
さて、リカレントルールという名のチャートポリシー変更はソングチャートでは初となりますが、実は他の指標では減算処理が既に存在します。たとえば再生キャンペーン採用に伴いStreaming Songsチャートを制した場合、他のサブスクサービスと大きく乖離していれば指標化時に減算処理を行うことになっています。ただ対象は同チャート首位曲に限られ、現在は該当する曲が出ていません。
またフィジカルセールスにおいては、Top Singles Salesチャートの指標化時に一定枚数以上の週間セールスに対し減算処理を行っています。この一定枚数という水準は徐々に低くなり、これによりデジタルヒットの可視化につながっています。ゆえに減算処理自体は存在しているのですが、今回の改定を”リカレント”と称したのは一定週数以上ランクインした作品に限定して適用するということが背景にあるものと捉えています。
さて、ストリーミング指標はロングヒット曲においてこれまで累計獲得ポイントの7割前後を占めていました。またこの指標は急落せず、緩やかに下がる傾向にあります。ロングヒット曲が上位に滞在し、膠着と呼べる状態になるのはそれが理由であることをまずは知る必要があります。
加えて、リカレントルールを適用された曲は基本的に、主要サブスクサービスにおける順位の乖離が小さいことが上記表から解ります。例えばLINE MUSICは再生キャンペーンに伴い、SpotifyはStationhead等により同サービス主体に強い曲が目立つ一方、そのような作品は基本的に他のサブスクサービスと乖離し、且つ下落幅が大きくなります。今回ルール適用された曲は満遍なくヒットする作品だということも、知ることが重要です。
今回のリカレントルール採用前、特定の歌手におけるチャート寡占が”ずるい”、また寡占によりチャートが”面白くない””つまらない”という声を耳にしていました。そのようなマイナスイメージを持つ言葉を仮に理解できたとして、まずは現に聴かれ続けている作品であることを理解することを願います。その上で、チャートをより活性化させるにはどうすべきかを考え、実行することのほうが健全でしょう。
たとえば日本ではそもそもストリーミングの浸透が他国に比べて十分ではないと聞きます。また新曲を、そのリリース週から聴く習慣もまた十分ではないということが、海外のチャートを追いかけるとみえてきます。それらを踏まえれば、ストリーミングの利用や新曲聴取に積極的に成ることが必要です。そしてその働きかけを、リカレントも含むルール全体の説明共々し尽くすことこそが、ビルボードジャパンの役割だと考えます。
さて、今回のリカレントルールを適用したならば、チャートの穴と呼べる状況についても改善することをビルボードジャパンに対し勧めます。たとえば先程申し上げたフィジカルセールス指標の減算処理については十分ではないと考え、以前から提案を行っています。
最近は一部歌手でフィジカルリリースから数週後にフィジカル販売施策を採ることが目立っています。
(中略)
しかし現在のチャートポリシーでは週間単位で一定枚数を上回ったフィジカルセールスに対し係数処理を行う一方、フィジカルリリースから数週後のフィジカル販売施策でセールスが急増した曲に対しては係数処理が施されません。この施策で上昇した曲は他指標が伴わず、ライト層やグレーゾーンとの乖離を生んでいる(コアファンの追加購入を施策の主体としている)以上、真の社会的ヒットとは呼び難いと考えます。
ただ、このようなフィジカルリリース後の販売施策を採る曲が、売上枚数の順位以上に指標化時の順位がより高くなっているのでは (中略)。この仮説が正しいならば、一定の売上枚数を超えた曲についてはその週以降、一定枚数を超えなくとも毎週の売上に係数処理を施すことが必要ではないかと考え、ビルボードジャパンにチャートポリシー(集計方法)の議論を希望します。
最新6月4日公開分のソングチャートでは、フィジカルセールスの上昇に伴い総合100位以内に返り咲いた曲が複数あるものの、他指標が伴っていません。ソングチャートではまだ多くはないものの、フィジカルリリース後のフィジカル販売施策の成果はアルバムチャートでみられることが多く、いずれソングチャートで増えていく可能性が考えられます。上記提案等、ビルボードジャパンに対し今一度希望します。
最後に。明日はビルボードジャパンアルバムチャートが発表され、こちらでもリカレントルールが適用されますが、対象作品はソングチャート以上に多い状況です。他方、アルバムチャートにおいてはストリーミング指標の基となるStreaming Albumsチャートが存在しないため、どのくらいの減算処理が行われるか、指標化前の順位はどうかが見えません。ビルボードジャパンにはStreaming Albumsチャートの新設を強く求めます。