(※追記(6月2日15時43分):内容を追加しています。)
(※追記(6月4日4時30分):RealSoundに寄稿したコラムのリンクを掲載しています。)
本日昼、ビルボードジャパンがソングチャート(Hot 100)およびアルバムチャート(Hot Albums)にリカレントルールを導入することを発表しました。導入は今週発表される下半期初週からとなります。
今回導入するリカレントルールでは、日本独自のマーケットバランスを考慮し、対象曲のストリーミングポイントを一定の割合で減算する。<Hot 100>においての対象は通算52週チャートインした楽曲、<Hot Albums>は通算26週チャートインした楽曲を対象とする。
Billboard JAPANチャート、リカレントルールを2025年度下半期チャートより導入https://t.co/jwsAorQU9Z
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2025年6月2日
この点への私見を記します。
米ではリカレントルールが導入されています。ソングチャートでは一定週数以上ランクインしている曲が一定順位を下回った際にチャートから外れるというもので、21週以上在籍の場合は50位未満、53週以上の場合は25位未満に後退した際適用されます。これはチャートの新陳代謝を目的にしていると伺っています。
翻って、ビルボードジャパンが新たに導入するリカレントルールではチャートから外すという仕組みを採用せず、ストリーミング指標の減算処理を適用する形を採用しています。とはいえ、最新5月28日公開分ソングチャートにおいて52週以上ランクインしている曲は実に3割(30曲)と多く、次回のチャートが大きく動くことは間違いありません。
<5月28日公開分ビルボードジャパンソングチャート 52週以上ランクイン曲>
・Mrs. GREEN APPLE「ライラック」(3位 59週)
・Mrs. GREEN APPLE「ケセラセラ」(18位 109週)
・Mrs. GREEN APPLE「Soranji」(19位 136週)
・Mrs. GREEN APPLE「青と夏」(20位 291週)
・Vaundy「怪獣の花唄」(22位 200週)
・Mrs. GREEN APPLE feat. 井上苑子「点描の唄」(23位 290週)
・Mrs. GREEN APPLE「僕のこと」(24位 180週)
・Omoinotake「幾億光年」(25位 70週)
・tuki.「晩餐歌」(28位 86週)
・Mrs. GREEN APPLE「ダンスホール」(31位 157週)
・Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」(36位 72週)
・back number「高嶺の花子さん」(38位 314週)
・Mrs. GREEN APPLE「インフェルノ」(39位 225週)
・YOASOBI「アイドル」(47位 111週)
・Mrs. GREEN APPLE「Magic」(51位 102週)
・back number「水平線」(52位 198週)
・Da-iCE「I wonder」(55位 57週)
・Mrs. GREEN APPLE「ロマンチシズム」(57位 128週)
・back number「花束」(68位 116週)
・Official髭男dism「Pretender」(77位 319週)
・優里「ドライフラワー」(81位 239週)
・back number「ハッピーエンド」(82位 152週)
・米津玄師「さよーならまたいつか!」(84位 59週)
・Official髭男dism「Subtitle」(86位 137週)
・藤井風「きらり」(87位 158週)
・Vaundy「踊り子」(89位 133週)
・米津玄師「Lemon」(92位 344週)
・King Gnu「SPECIALZ」(95位 77週)
そしてアルバムチャートに目を向けると、最新5月28日公開分では50位までにランクインした34作品がリカレントルール適用対象に。また次週が登場26週目となる作品が2つ存在することから、(50位までに関しては)7割以上が減算処理を施される形です。
<5月28日公開分ビルボードジャパンアルバムチャート
50位以内で26週以上ランクイン作品>
・Mrs. GREEN APPLE『ANTENNA』(4位 99週)
・Mrs. GREEN APPLE『Attitude』(6位 145週)
・Vaundy『strobo』(8位 145週)
・Vaundy『replica』(9位 79週)
・Number_i『No.I』(10位 35週)
・ちゃんみな『ハレンチ』(11位 26週)
・BAD HOP『BAD HOP』(12位 30週)
・藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』(15位 162週)
・優里『壱』(16位 149週)
・米津玄師『STRAY SHEEP』(17位 192週)
・back number『スーパースター』(18位 64週)
・back number『ユーモア』(19位 58週)
・藤井風『HELP EVER HURT NEVER』(20位 210週)
・back number『MAGIC』(21位 108週)
・XG『AWE』(22位 28週)
・米津玄師『LOST CORNER』(25位 40週)
・back number『アンコール』(27位 354週)
・back number『ラブストーリー』(29位 96週)
・King Gnu『CEREMONY』(31位 159週)
・King & Prince『Mr.5』(32位 48週)
・Mrs. GREEN APPLE『Unity』(33位 102週)
・米津玄師『BOOTLEG』(34位 209週)
・嵐『5×20 All the BEST!! 1999-2019』(37位 124週)
・Official髭男dism『Traveler』(40位 184週)
・YOASOBI『THE BOOK』(42位 178週)
・Official髭男dism『Rejoice』(43位 44週)
・FRUITS ZIPPER『NEW KAWAII』(44位 32週)
・ONE OK ROCK『Nicheシンドローム』(45位 207週)
・Official髭男dism『Editorial』(46位 101週)
・BABYMONSTER『[DRIP]』(47位 27週)
・Official髭男dism『エスカパレード』(49位 137位)
・マカロニえんぴつ『hope』(50位 26週)
※ ちゃんみな『Never Grow Up』(7位)およびロゼ『Rosie』(38位)は現時点で25週ランクインのため、次週以降適用対象となります。
アルバムチャートにおいてはリカレントルール適用対象が多い状況ですが、ストリーミング指標が追加された昨年最終週以降にロングヒット作品が多く生まれています。ゆえにその是正と考えられますが、ならばビルボードジャパンはストリーミング指標導入の段階でこの状況は想起できなかったのかと感じてもいます。
今回のチャートポリシー変更がどのように影響するかは、今週発表される下半期初週のチャートをチェックしなければ断言できないというのが私見です。ビルボードジャパンが謳う『日本独自のマーケットバランス』とは何か、『一定の割合で減算』の一定とはという点についてビルボードジャパンの説明が必要と感じており、特に計算方法については明示化しないゆえ尚の事、蓋を開けてみなければ解りません。
リカレントルールの導入についてはチャート分析者でも様々な声を耳にします。自分は以前は積極的な導入を推奨してましたが、たとえばストリーミングが浸透する米と異なり日本では新曲がリリース直後から聴かれているわけではないことを踏まえれば、新曲を聴く環境の醸成が何よりも大事ではないかと考えており、またグローバルチャートでの旧譜ランクインの多さも踏まえ、米方式の日本での導入には慎重な立場でした。
ゆえにビルボードジャパンの今回のチャートポリシー(集計方法)変更において、リカレントルールが米ビルボードのようなチャートから外れる形ではないという点については安堵しています。ただ先述したように計算方法が(合算ランキングの計算方法を開示するオリコンに比べて)みえにくいことで、どうなるか読めないというのが率直な私見です。
加えて、このような比較的大きな変更は新年度初週に行うほうがより良いのではと感じています。特に今回の影響を最も大きく受けるのはMrs. GREEN APPLEですが(先述したソングチャート52週エントリー曲の3分の1が該当)、彼らにおいては新譜展開時の訴求やメディア露出の多さ等で歌手パワーを高めたことが今の地位確立につながったと考えれば、長期エントリーは必然といえます。オールタイムチャートにも影響するゆえ、ビルボードジャパンにはこのタイミングでの導入理由についても説明が必要と考えます。
(Mrs. GREEN APPLEにおける新譜展開時の訴求やメディア露出の多さに伴うアーティストパワー拡大については、このブログで幾度となく紹介しています。そのひとつの結実が「ライラック」のロングヒットと昨年末以降のブーストと捉えており、その点はビルボードジャパンでもストリーミング53週連続トップ3入り…Mrs. GREEN APPLE「ライラック」の強さについて(5月11日付)にて紹介しています。)
さて、今回のチャートポリシー変更に伴い、新譜が上位進出する可能性が高まったといえるでしょう。そしてこのチャートを主な基準としてノミネートの前段階であるエントリー作品や歌手を決めるMUSIC AWARDS JAPANにも影響を及ぼすものと考えます。
先月開催されたMUSIC AWARDS JAPANにおけるノミネート、およびその前段階であるエントリー作品/歌手選定への疑問について記したエントリーを上記に。たとえば、その質の高さにてCDショップ大賞を受賞した柴田聡子さんおよび離婚伝説のアルバムがMUSIC AWARDS JAPAN最優秀アルバム賞ではエントリー段階にも入っていないことを紹介し、チャートに頼ることの限界について述べています。
ビルボードジャパンによる今回のチャートポリシー変更に伴い、MUSIC AWARDS JAPANにおいてはより広い作品や歌手が次回以降エントリーされるようになるかもしれません。ただ、仮にですがビルボードジャパンが今回のMUSIC AWARDS JAPANエントリー状況を踏まえてチャートポリシーを変えたのならば、若干の違和感を抱きます。音楽賞を意識した変更はチャート、音楽賞双方の独立性に疑問を抱かせるゆえです。
現時点での私見を記し、今週発表される下半期初週の動向を注視していきます。同時にビルボードジャパンに対し、リカレントルール導入に関するより詳細な説明を希望します。特に、今回の変更をストリーミングの強い特定の歌手を対象としたものと捉える動きが登場するかもしれないため、尚の事です。
チャートポリシー変更についての具体的な説明は、邪推を生ませないためにも必要です。同時に、新譜がリリースタイミングできちんと聴かれるようになること、そもそもストリーミングを日本でもっと普及させることが大事であり、そのためにたとえばチャート紹介番組を用意する、ポッドキャストを毎週発信すること等が必要でしょう。ビルボードジャパンだけでは限界があるかもしれませんが、しかし必須と考えます。
※追記(6月4日4時30分)
ビルボードジャパンのリカレントルール導入について、RealSoundに寄稿したコラムが6月3日夜に公開されました。そのリンクを掲載します。