イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『ミュージックステーション』が4週連続放送なし…その背景を分析し、提案を記す

日本の音楽番組が良い方向に変わっているとの評判を耳にします。

音楽ジャーナリストの柴那典さんは『CDTVライブ!ライブ!』(TBS 4月28日放送回)におけるKing Gnuのライブについて、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんは(柴さんの内容にも触れつつ)『BE:FIRST presents THE SHOW』(NHK総合 5月3日放送)について紹介。ちなみにNHKでは”NHK MUSIC SPECIAL”名義でのドキュメンタリーや、『Venue101』名義にて一組の歌手にスポットを当てたライブ番組も発信しています。

音楽番組が”ライブを魅せる”という方向に今後シフトしていくかもしれない中、一方で老舗音楽番組の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)は今週まで4週連続で放送がありません。番組の公式Xでは(リポストを除き)現時点でこちらの発信が最後となっています。

 

そこで、まずは『ミュージックステーション』の最近の放送状況をまとめます。

 

 

上記は2016年以降の『ミュージックステーション』放送回一覧表。長時間特番も通常回と同様に”◯”で表記し、VTR企画放送回はその旨を記載していますが、この表からいくつかの傾向がみえてきます。

ひとつは放送回数の減少。2017年以降は年30回前後の放送だった『ミュージックステーション』は2021年以降さらに減少し、一昨年および昨年は21回ずつとなっています。もうひとつは放送空白週について。年始回から年末回までのブランクは2019年以降最長4週となっていますが、たとえば2021年夏季はオリンピックの影響もあったと考えられるため、4週以上の空白がここ2年続けて発生していることには違和感を覚えます。

 

ミュージックステーション』年間放送回数の減少と反比例する形で、テレビ朝日全体の視聴率は好調に推移。世帯視聴率が2022年度以降3年連続で3冠を達成し、個人でも昨年度初の3冠に至っています。これは『報道情報番組が下支えし、ドラマやバラエティーも貢献』『サッカーW杯アジア最終予選などスポーツ中継も高視聴率』だったことが背景にあります(『』内は下記記事より)。

実際、今年4月3週目以降の金曜20時台は『世界フィギュアスケート国別対抗戦2025』(4月18日放送)、新幹線を特集した『タモリステーション』(4月25日放送)、『ザワつく!金曜日 & 石原良純のニッポン飛んで見た 合体3時間スペシャル』(5月2日放送)そして『マツコ&有吉 かりそめ天国』(5月10日放送予定)が組まれています。

ミュージックステーション』はリアルタイムの世帯視聴率で年末特番を除けば2桁に満たず、他の音楽番組も同様に高くないものとみられます(週間リアルタイム視聴率ランキング【ビデオリサーチ調べ】参照)。ともすれば音楽番組は”お荷物”と形容されかねないのですが、一方で見逃し配信では人気が高く、TBSはTVerでの見逃し配信記録達成の際に『CDTVライブ!ライブ!』の好調も一因として挙げています(下記記事参照)。

視聴率が高くない一方で見逃し配信は人気という状況を踏まえれば、コアファンの高い熱量を取り込むべく番組づくりを行うようになるのは自明かもしれません。NHKは視聴率にあまり囚われなくともよいゆえ番組制作が自由と思われますが、一方でTBSがノンストップライブという形を採ったのは、King Gnuのコアファンのみならず音楽(番組)のコアファンを取り込む点においても正解だったといえるのではないでしょうか。

 

 

他方、『ミュージックステーション』は見逃し配信が行われておらず、そのことも編成に影響しているかもしれません。それに加えて、放送回数の少なさに影響を及ぼしているのがMUSIC AWARDS JAPANの開催ではと捉えています。というのも、『ミュージックステーション』や『EIGHT-JAM』(テレビ朝日)の演出を手掛ける利根川広毅さんがMUSIC AWARDS JAPAN授賞式の総合演出ならびに出演歌手のブッキングを務めているのです(『日経エンタテインメント!』2025年6月号掲載のインタビュー記事にて判明)。

NHKでOAされる授賞式を民放の音楽番組制作者が手掛ける点からも、MUSIC AWARDS JAPANの本気度が解るでしょう。そしてその授賞式に向けて注力すると考えれば、『ミュージックステーション』放送回数の少なさや『EIGHT-JAM』5月4日放送回が未公開集だったことも理解できるかもしれません。また音楽賞候補作品や歌手のエントリーにおいて要となったビルボードジャパンのチャートを番組で採り上げたことにも納得します。

 

それでも『ミュージックステーション』放送回数の減少は、個人的には残念なことだと感じています。

僕が普段、音楽番組を作るうえで常に考えているのが、『音楽番組はテレビ局が得することを優先して作ってはいけない』『アーティストが世間から評価されるためのプレゼンテーションの場としてあるべきだ』ということです。

利根川さんのポリシーに納得する一方、仮にMUSIC AWARDS JAPANへの尽力が『ミュージックステーション』の放送回数低下の一因だとして、しかし番組をもう少し放送してよかったのでは、結果的にテレビ朝日が編成しないことで得をする形になってはいないかと感じた次第です。また、放送がないために歌手の新曲訴求が叶いません。その新曲が来年のMUSIC AWARDS JAPAN候補対象になる可能性があり、機会損失だと考えます。

 

 

MUSIC AWARDS JAPANにおいてはビルボードジャパンも深く関わっていますが、それゆえかチャート発表が遅延する出来事が幾度となく発生していました。音楽賞との掛け持ち、それも初開催ゆえ手探りであることから通常業務に支障をきたすことは理解できるとして、しかしその背景を知らない方には理解してもらうのが難しいのではと考えます。音楽番組や音楽チャートの進行が今後は疎かにならないことを願うばかりです。

 

最後に。『ミュージックステーション』に対し、TVerでの見逃し配信開始を強く望みます。利根川さんがMUSIC AWARDS JAPANの配信姿勢に感化されることを願うばかりです。