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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

最新チャートでほぼ完全制覇…トップアーティストチャート常勝のMrs. GREEN APPLE、その人気の背景

ソングチャートとアルバムチャートを合算したビルボードジャパンのトップアーティストチャート(Artist 100)、最新4月23日公開分ではフィジカルセールスを除く5指標でトップを獲得したMrs. GREEN APPLEが総合首位をキープしています。

最新のトップアーティストチャートではback numberが2位を獲得していますが、ストリーミングおよびカラオケ(共に2位)以外の指標は20位未満であることから、Mrs. GREEN APPLEが大きく引き離しているものと考えます。

 

今年度のビルボードジャパントップアーティストチャートにおいて、Mrs. GREEN APPLEは1週を除き首位をキープ。当週5指標を制したのはロングヒットが難しいラジオでも順位を上げたことが背景にあり、2024年6月26日公開分以来の記録達成となります。この2024年6月26日公開分は「コロンブス」のソングチャート登場2週目、そして当週は「クスシキ」の登場3週目に該当しており、新曲の存在が寄与したことが解ります。

Mrs. GREEN APPLE「クスシキ」はビルボードジャパンソングチャートで2連覇を達成し、当週はラジオ指標も初制覇。このラジオ指標はプランテックによるOAチャートを基に調査対象局の聴取可能人口等を加味して算出されますが、基となるOAチャートでは「クスシキ」が他を圧倒しています。

アニメ「薬屋のひとりごと」第2期 第2クールオープニングテーマとして4月4日よりテレビでも放映中の同曲。翌5日のリリースとともに開始されたラジオオンエアは、週明けより本格化していき前週チャート4位で初登場。リリースから3週目を迎えた今週、さらにオンエアは前週比193%増と加熱し、下位を大きく突き放す大量オンエアを獲得しての圧勝となった。

調査対象の90.3%となるステーション(FMでは全局)でのオンエア獲得、そしてリスナーのニーズを示すリクエストオンエア数も今週最多とさすが。文句なしの今週最も注目された楽曲となった。

 

このラジオ指標で強くなったことが当週のトップアーティストチャートにおける5指標首位の一因ですが、Mrs. GREEN APPLEはストリーミングにおいて2023年12月27日公開分以降常時首位となっているのみならず、動画再生は2024年11月20日公開分、カラオケは2025年1月8日公開分以降首位をキープしていることに注目です。

Mrs. GREEN APPLEは昨年末、『NHK紅白歌合戦』や『輝く!日本レコード大賞』をはじめとする地上波長時間音楽特番に多数出演したことがさらなるステップアップの契機になっています。「ケセラセラ」の日本レコード大賞受賞も大きいですが、その後も音楽番組に限らず積極的に露出を続けたことで(バラエティ番組含む)、いわば”お茶の間の(老若男女に認知された)歌手”に成ったことが大きいと捉えています。

2024年度の年間トップアーティストチャートを制したMrs. GREEN APPLEについては、昨年このように分析しました。このメディア露出の多さは昨年末から今年の初めにかけても同様であり、その点は紅白のインパクト、Mrs. GREEN APPLEの上昇…年末年始におけるSpotifyの動向を追う(1月8日付)等にて紹介しています。

そしてMrs. GREEN APPLEにおける取組の徹底も、トップアーティストチャートに影響していると捉えています。

Mrs. GREEN APPLEは新曲リリースの度にコンテンツカレンダーを用いてスケジュールを発信したり、ミュージックビデオの大台達成の度にアナウンスするなど訴求を徹底しています。この徹底はコアファンとのエンゲージメント確立につながると同時に、ライト層へのリーチにも有効に作用します。年間ソングチャートにランクインした曲の多くが前年度より上昇しているのは、作品の質等に加えて施策の影響も大きいはずです。

この徹底については、「クスシキ」における発信からもよく解るはずです。以下、Mrs. GREEN APPLEの公式Xアカウントによるポストから一部を紹介します。

 

いわゆる”弾いてみた”動画は、歌ってみたや踊ってみたに代表されるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の一種であり、一般の方が投稿した動画はビルボードジャパンソングチャートの動画再生指標にはカウントされずTop User Generated Songsチャートの対象となります。しかし”本家による”弾いてみた動画は動画再生指標の加算対象になると考えられるのみならず、観た方の意欲を掻き立てUGC等の増加を促すといえるでしょう。

本家による”弾いてみた”動画といえば、昨年の日本レコード大賞を受賞した「ライラック」によるこちらの動画にも注目です。難解なギターフレーズをイントロに据えながらもポップチューンとして成立させているという点もMrs. GREEN APPLEの評価を高めたと捉えていますが、その評価をより強固にしたのがこのような動画の公開ではないでしょうか。

 

ひとつの曲における様々な動画の公開がMrs. GREEN APPLEの動画再生指標を高める要因といえるでしょう。また動画の一定再生回数達成時にその達成アナウンスを徹底することで多くの方にその曲の人気が認知され、ストリーミングの安定にも寄与するはずです。加えて、曲の人気のみならず難解なメロディやファルセット等に挑みたいとする方の多さがカラオケ人気を高める要因と考えれば、これら指標で強いことに頷けます。

トップアーティストチャートでMrs. GREEN APPLEに勝るのはかなり難しいことではありますが、たとえば彼らによるコンテンツカレンダーや一定再生回数達成時のアナウンスといった発信、またミュージックビデオにとどまらない様々なタイプの動画を公開するという姿勢を採り入れることで、コアファンとのエンゲージメントの確立やライト層へのリーチにつながるというのが音楽チャートを分析する者としての見方です。

 

 

さて、Mrs. GREEN APPLEは新曲「天国」を今週金曜にリリースします。大森元貴さんがtimeleszの菊池風磨さんとダブル主演を果たした映画『#真相をお話しします』の主題歌についても、コンテンツカレンダーが公開されています。

この映画の宣伝として大森元貴さんが様々なメディアに出演していますが、この積極的な露出も”お茶の間の歌手”ならではといえるでしょう。加えて「天国」においては興味深い試聴会が開催され、音楽評論家や音楽メディアの間で話題になったのは記憶に新しいところです。音楽ジャーナリストの柴那典さんによるnoteを是非ご参照ください。

 

Mrs. GREEN APPLE「天国」は4月28日からを集計期間とする5月7日公開分のビルボードジャパンソングチャートにて初ランクインを果たすことが見込まれます。初週は集計期間3日分でどの位置に登場するか、そして「天国」の登場に伴いトップアーティストチャートをさらに盤石にしていくかに注目です。

そしてもうひとつ。「天国」は金曜リリースであり、5月17日付の米ビルボードによるグローバルチャート(日本時間の5月13日火曜発表予定)にて1週間フル加算に伴い初登場する可能性が考えられます(グローバルチャートについては米ビルボードによるグローバルチャートとは何か、そしてJ-POPの現在と課題とは (2024年5月更新版)(2024年5月19日付)参照)。Global 200で「クスシキ」に次ぐランクインなるか、気になるところです。

ただし一方では、そのGlobal 200をベースに日本市場分を除いた上で日本の楽曲を抽出したビルボードジャパンによるGlobal Japan Songs Excl. Japanにて、チャート開始から1年半以上経過しながらMrs. GREEN APPLEは週間20位以内に未だランクインしていません。「天国」は日本映画の主題歌ゆえ海外での認知は難しいかもしれませんが、この曲で海外人気を高めることができるかについて注視していきます。