昨年夏以降再開したこのエントリー、今年に入ってからタイトルを一部変更しています。前週の内容はこちら。
ビルボードジャパンソングチャートの動向を分析する者として、真の社会的ヒット曲とはロングヒットする、年間チャートで上位に進出する作品と考えます。週間単位で上位に入るのは好いことですが、他方で所有指標が極度に強い曲は加算2週目に、また接触指標が所有指標的な動きをなぞる曲(主にLINE MUSIC再生キャンペーン採用曲)はキャンペーン終了後に指標が大きく後退し、総合でも急落することが少なくありません。
この急落は毎週のようにみられます。ソングチャートのトップ10は多いときで5曲程度が毎週入れ替わり、ロングヒットするか否かが極端に分かれる状況です。主にライト層の支持が反映されるストリーミング指標がロングヒット曲では強い一方、急落する曲はコアファンとライト層との乖離が大きいのですが、これらを1週分のチャートの順位およびポイントのみで判断することは、現状では難しい状況です。
そのため、このブログエントリーではビルボードジャパンに対しチャートポリシー(集計方法)の改善も提案していますが、あくまで自分なりのと前置きしつつもチャートの見方を提示したいと考えたのがエントリー再開の理由です。
<2025年4月9日公開分 ビルボードジャパンソングチャート
前週初めてトップ10入りした作品の、前週および当週におけるCHART insight>
※CHART insightの説明
[色について]
黄:フィジカルセールス
紫:ダウンロード
青:ストリーミング
黄緑:ラジオ
赤:動画再生
緑:カラオケ
濃いオレンジ:UGC (ユーザー生成コンテンツ)
(Top User Generated Songsチャートにおける獲得ポイントであり、ソングチャートには含まれません。)
ピンク:ハイブリッド指標
(BUZZ、CONTACTおよびSALESから選択可能です。)
[表示範囲について]
総合順位、および構成指標等において20位まで表示
[チャート構成比について]
累計における指標毎のポイント構成
4月2日公開分 1位→4月9日公開分 31位
当週におけるストリーミング等動向表はこちら。
乃木坂46「ネーブルオレンジ」は前作「歩道橋」(フィジカルセールス加算2週目において総合1→49位、ポイント前週比19.4%)ほど下落幅は大きくないものの、当週においてもストリーミング指標が300位未達により加点されなかったことがランクダウンの幅を拡げています。
フィジカルセールスがハーフミリオンを突破したAKB48「まさかのConfession」がストリーミング指標を獲得できず当週3位にとどまった点、そして「まさかのConfession」を上回ったHANA「ROSE」がデジタルのみで総合首位に立ち、且つポイントのおよそ半分をストリーミング指標で占めていることは一昨日のエントリーにて紹介しました(上記参照)。このことを踏まえれば、サブスクが如何に重要かがよく分かるはずです。
さて今年度リリースされたアイドルやダンスボーカルグループの楽曲の中で、timelesz「Rock this Party」はヒットしていると断言して差し支えないでしょう。
当週はミュージックビデオ公開効果が薄れたこともあり総合9→18位と比較的大きく順位を落とすものの、トップ10内には現時点で通算4週に渡りランクイン。加えて、「Rock this Party」と同時リリースされたデジタルコンピレーションアルバム『Hello! We're timelesz』は初登場から2連覇を果たし、最新チャートまで4位以内をキープ。ストリーミング指標は初登場から3連覇、且つ現在もトップ3入りを続けています。
オーディションを経てメンバーを増員した新生timeleszにとってデジタル解禁が大きな追い風になっていることは間違いないのですが、しかしながらニューアルバム『FAM』は現時点でデジタル解禁しないことが昨日アナウンスされています。
『※『FAM』のデジタル配信は現段階で予定されておりません。』
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2025年4月11日
この一文は極めて重要ですね。#timelesz、そしてともすれば #STARTOENTERTAINMENT のデジタル姿勢を反映したものといえるでしょう。 https://t.co/PBu6i9s3eJ
・ALBUM『FAM』2025.6.11 Release! - Over The Topより
(ブログ執筆段階におけるキャプチャ画面を貼付。問題があれば削除いたします。)
timelesz『FAM』がデジタル配信をしない可能性は、実は予想できたことではあります。
「Rock this Party」ミュージックビデオはYouTubeで2番を割愛して公開、全編は『FAM』初回限定盤Aに同梱する映像盤でのみ確認可能とする形を採っています。STARTO ENTERTAINMENT所属歌手はミュージックビデオのYouTube公開時にフルではアップしない傾向があり、「Rock this Party」を短尺版で公開した時点で旧来の事務所の手法、さらにはフィジカルセールス優先の姿勢を示していたと捉えていいでしょう。
しかしながら、ビルボードジャパンのチャートでtimeleszが好成績を収めることができたのはデジタル解禁ゆえです。ビルボードジャパンは時代に即してチャートポリシー(集計方法)変更を続けたことで現在では社会的ヒット作品の鑑と成っていますが、特にストリーミングの上位安定が現在では大きく影響します。timeleszはオーディション後ながらデジタル解禁したことで、オーディションの熱量を反映させることができています。
オーディションの熱量はフィジカルセールスも動かしながら、その動きが大きくないことを2月のエントリーで紹介しています。加えてデジタルだからこそ、追加メンバー決定から「Rock this Party」リリースに至るまでの期間を短くすることができたはずです。フィジカル以上にデジタルが(コアファンへ昇華可能な)ライト層を増やし、且つリーチが可能と考えれば、『FAM』でのフィジカル優先には強い疑問を覚えるのです。
timelesz『FAM』でのデジタルアプローチに関する違和感は昨日Xにて表明していますが、その中でこちらの発信はともすれば大げさに映るかもしれません。
#timelesz のチャートヒットは、デジタル配信があったからこそだと断言可能です。だからこそ『#FAM』のデジタル配信が予定されていないことはtimeleszにとってのみならず、STARTO ENTERTAINMENTにとって、そして日本の音楽業界全体においても成長の足踏みとなりかねないと考えます。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2025年4月11日
しかしながら、Snow Manによるサブスク解禁手法(ベストアルバム『THE BEST 2020 - 2025』に限っての解禁)は、timeleszが新曲以外に『Hello! We're timelesz』に限って解禁したことを想起させます。
音楽チャート上でのtimeleszの好成績がSnow Manサブスク解禁の背中を押し(た可能性)、そして他のサブスク未解禁歌手もその手法で追随することで日本の音楽業界がデジタルを重視するようになるという可能性を、『FAM』のリリース手法は止めかねないと危惧します。
さて、先程はtimelesz「Rock this Party」について、『当週はミュージックビデオ公開効果が薄れたこともあり総合9→18位と比較的大きく順位を落とす』と記しました。直近でミュージックビデオが話題を集めた楽曲の、動画フル加算2週目における動画再生指標の順位は米津玄師「BOW AND ARROW」、サカナクション「怪獣」共に1→3位と推移しながら、timelesz「Rock this Party」は2→14位となり下落幅が大きくなっています。
ともすればアイドルの作品はコアファンとライト層に乖離があるゆえ初動とそれ以降とに差が生じると捉えられかねませんが、先述した短縮版であることが「Rock this Party」においてコアファンの継続視聴につながらない要因かもしれません。また『FAM』初回限定盤Bに同梱する映像盤に同曲のダンス動画を封入していることで、この曲のYouTubeにおける追加展開(ダンスビデオの公開等)ができにくくなっている可能性もあります。
音楽チャートにこだわりすぎる形での施策は健全と言い難いものの、どの歌手も大なり小なり施策を遂行しており、音楽チャートを意識しない歌手はいないといえます。そしてデジタルの充実はロングヒットを呼び込み、コアファンが増えることで歌手活動の長期化にもつながるでしょう。timeleszは「Rock this Party」で追加施策を打つことが重要と考えますが、フィジカルへのこだわりがそれを止めているならば機会損失でしょう。
今回のエントリーでは乃木坂46「ネーブルオレンジ」の動向以上に、timelesz『FAM』におけるデジタル未解禁を主題に据えましたが、アイドルやダンスボーカルグループのデジタルヒットは日本の(特にフィジカルセールスに長けた)アイドルやダンスボーカルグループ、その運営側のデジタルへの意識を高める、最終的には日本の音楽業界を前向きに変えることにつながると考えるゆえの主題化です。timelesz側の変化を願います。