イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

リニューアル後の動向から考える、"ビルボードジャパンアルバムチャートでのヒットの8段階"

ビルボードジャパンは昨年最終週より、アルバムチャートにストリーミング指標を導入しています。

ストリーミング指標が組み入れられてから9週が経過したビルボードジャパンアルバムチャートにおける、ストリーミング指標上位20作品の推移は上記の通り。今回はこの傾向を踏まえ、【ビルボードジャパンアルバムチャートでのヒットの8段階】という表を作成しました。構成3指標の動向は今回紹介する各段階に必ずしも当てはまらないかもしれませんが、しかしこの8段階に集約される傾向にあるものと捉えています。

 

なお今回の各段階における代表作品について、アルバムのトレイラー(プレビュー)やCM動画、ビルボードジャパンのCHART insight、およびデジタル解禁済の場合はSpotifyのリンクを掲載しています。プレビュー動画が用意されていない場合はアルバム収録の代表曲を掲載しています。CHART insightについては下記説明をご参照ください。

※CHART insightの説明

 

[色について]

黄:フィジカルセールス

紫:ダウンロード

青:ストリーミング

 

[表示範囲について]

総合順位、および構成指標等において20位まで表示

 

[チャート構成比について]

累計における指標毎のポイント構成

 

 

第1段階は、フィジカルセールスと他指標、特にストリーミングとが最も乖離しているために総合アルバムチャートでのランクインが短い状況。加えてストリーミングが未解禁ならば、どんなにフィジカルセールスが強くとも総合ランクインは短期にとどまります。初週フィジカルセールスがミリオンに達したSnow Manのベストアルバムは、デジタルほぼ未解禁のためにトップ10入りが1週にとどまっています。

(それでも『THE BEST 2020 - 2025』は高いフィジカルセールスに伴い現時点でも100位以内にエントリーしていますが、これは稀な事例だと考え第1段階に据えた次第です。)

 

第2段階は前段階を基礎としながら、フィジカルリリース後のフィジカルセールス施策を用意することで総合チャートで瞬間的に再度ランクインする状況を指します。これはK-POP歌手主体にみられる傾向ですが、ストリーミング指標組み入れ以降はフィジカルセールスが再上昇しても総合アルバムチャートでの浮上度合いは大きくなくなっています。またこの施策がデジタル指標群を刺激することはほぼないといえます。

 

第3段階は前2つとは異なり、季節を彩る、またイベントに関連したヒット曲を収録した作品がストリーミング主体に伸びることで総合アルバムチャートにも波及する例。ストリーミング指標組み入れ以降の代表例がマライア・キャリー『Merry Christmas』(1994)です。

サブスク時代に入りクリスマス関連曲が世界のソングチャートを席巻するようになりましたが、その代表曲である「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」を収録した『Merry Christmas』はビルボードジャパンのアルバムチャートで1月1日公開分にストリーミング指標15位、総合ではチャート発足以降最高となる19位に達しています。ただ、季節が終わると急落するのも特徴です。

(上記CHART insightは2025年1月1日公開分が最終週となります。)

 

第4段階はストリーミング主体にヒットした曲が収録され、アルバムチャート初登場時に上位進出を果たす状況。tuki.『15』には昨年度の年間ソングチャートでストリーミングそして総合ソングチャートでも2位を記録した「晩餐歌」が含まれており、アルバムチャートでは初の1週間フル加算となった1月22日公開分でストリーミング15位、総合14位に達していますが、翌週以降はなだらかに後退しています。

 

第5段階は、注目を集めることに伴う上位進出。"No No Girls"オーディションの最終審査を経て、その最終審査で楽曲が使用されたちゃんみなさんのアルバムが上昇。中でも『ハレンチ』(2021)は、1月22日公開分ビルボードジャパンアルバムチャートにてストリーミング指標が初めてトップ10入りし、総合でも7位に。双方共に最新週まで5週連続でトップ10入りを果たしています。

 

第6段階は最新アルバムが安定して聴かれているという状況。アイドルやダンスボーカルグループというジャンルにて特にストリーミングが安定しているのはBE:FIRSTであり、セカンドアルバム『2:BE』(2024)はストリーミング指標が40位前後で推移、総合でも同様となっています。他方、ファーストアルバム『BE:1』(2022)はストリーミングが加点されるも100位未満となり、総合では100位以内に返り咲いていません。

(CHART insightは総合および各指標の順位において20位まで、また101~300位は表示されるものの、21~100位については有料会員のみが確認可能です。折れ線グラフにおいてBE:FIRST『2:BE』ではストリーミング指標の動向が表示されず、一方で『BE:1』において表示されているのはそれが理由です。)

 

第7段階は第6段階をベースとしながら、過去作品も聴かれ続けているという状況。ストリーミング指標組み入れ後のビルボードジャパンアルバムチャートではVaundyさんも2作品がトップ10入りを続けていますが、何よりもMrs. GREEN APPLEの強さが際立ちます。最新2月19日公開分においては『ANTENNA』(2023)が首位に返り咲き、且つ『Attitude』(2019)が2位に入ったことでワンツーフィニッシュを達成しています。

『Attitude』がストリーミング指標ではじめて2位に到達したのは1月8日公開分にて(集計期間:2024年12月30日~2025年1月5日)。『NHK紅白歌合戦』をはじめとする多数のメディア露出や「ライラック」のレコード大賞受賞が過去作への注目度上昇にもつながっており、ダウンロードのみならずフィジカルも安定して売れ続けている点からは新規ファンが増えていることが想起可能です。

 

フィジカルセールスが強ければ(10万枚台後半を記録すれば)デジタルが強くなくとも総合首位に立ちやすい一方で翌週急落する、そしてデジタル未解禁ならば下落幅は大きくなるという分析を、下記エントリーにて紹介したばかりです。Mrs. GREEN APPLE『ANTENNA』がリニューアル後のビルボードジャパンアルバムチャートにおける理想形だと考えれば、ストリーミングの重要性がよく解るはずです。

 

第8段階は第7よりも第6段階のステップアップ版といえるでしょう。現時点ではこの段階に当てはまるチャート動向を示した作品はないかもしれませんが、最新2月19日公開分ビルボードジャパンアルバムチャートにてストリーミングが初の1週間フル加算に伴い上昇、総合でもトップ3入りしたCreepy Nuts『LEGION』が、3月12日のフィジカルリリースに伴い総合チャートで首位を獲得できる可能性は十分あると考えます。

 

 

以上、【ビルボードジャパンアルバムチャートでのヒットの8段階】を紹介しました。

 

ストリーミング指標が組み入れられたビルボードジャパンアルバムチャートにおいては、ヒット曲が複数収録されているアルバムが最も強いといえるでしょう。注目を集めるタイミングで上位進出する可能性も、所有指標のみだった時代に比べれば高まると言えます。

近年は音楽チャートも強く意識したファンダムによる聴取行動が徹底されることで、ストリーミングが安定し総合チャートでも上位を維持する作品がアイドルやダンスボーカルグループのジャンルで出てきていると感じますが、新曲登場時に聴取先が新曲に移行し、過去作品が置いていかれる可能性も考えられます。ファンダムが聴き続けることも重要ですが、いずれコアファンに昇華し得るライト層を増やすことが重要でしょう。

ストリーミングではMrs. GREEN APPLEがあまりに強い状況ですが、たとえば彼らはYouTubeでの再生回数が一定数を上回った際に画像付ポストにて記録達成の旨を必ず発信します。それがコアファンとのエンゲージメントを高め、ライト層にも記録が浸透していくのです。メディア露出の多さも自身の作品をより広く伝えることに貢献していると考えれば、彼らから学べることは沢山あるはずです。