(※追記(1月3日16時10分):"日本レコード大賞 過去10年における大賞受賞作品 およびビルボードジャパン年間ソングチャート制覇曲"一覧表にて、2021年の受賞作品をDa-iCE「I wonder」と記載していましたが、正しくはDa-iCE「CITRUS」でした。つきましては訂正した表を貼付しています。心よりお詫び申し上げると共に、ご指摘くださった方に感謝申し上げます。)
日本レコード大賞が昨日開催され、Mrs. GREEN APPLE「ライラック」が大賞を受賞しました。Mrs. GREEN APPLEは2年連続の大賞受賞です。
Mrs. GREEN APPLEが「日本レコード大賞」2年連続受賞の快挙(写真8枚)https://t.co/nUWyWBMGUN#日本レコード大賞 #MrsGREENAPPLE
— 音楽ナタリー (@natalie_mu) 2024年12月30日
Mrs. GREEN APPLEの「#ライラック」が
— Mrs. GREEN APPLE (@AORINGOHUZIN) 2024年12月30日
「第66回 輝く! #日本レコード大賞」にて、
日本レコード大賞を受賞いたしました🏆
楽曲に出会ってくださった皆さま、
本当にありがとうございます🪻˖*
2025年は
MGA MAGICAL 10 YEARSを
一緒に駆け抜けましょう💫
#MrsGREENAPPLE pic.twitter.com/6Pbdj1VmCW
さて受賞結果とは別に、日本レコード大賞は今年も悪い意味で変わらなかったというのが厳しくも私見です。昨年はこのような指摘を行っています。
【審査委員の構成における著しい偏り】やそれに伴う【透明性の低さ】、【対象期間等の曖昧さ】【アルバム部門の廃止】等に代表される音楽賞そのものの歪さ、そしてどんなに安住紳一郎アナウンサーが巧い方だとして大賞発表者として起用することや、日本レコード大賞のX公式アカウントが"@TBS_awards"であるという【TBS色の強さ】も含め、日本レコード大賞自体はほぼ何ら変わっていないと断言していいでしょう。
厳しい物言いは以前から提案しながら状況が好転しなかったゆえの使用でしたが、今年においても改善はみられなかったというのが自分の見方です。
まずは【審査委員の構成における著しい偏り】について。今年は審査委員の変動が少なくなかったものの(昨年については日本レコード大賞は変わらず…自省がみられない音楽賞の問題点と、音楽業界への願いを記す(2023年12月31日付)参照)、今年もジェンダーバランスを著しく欠いたものであることは変わりません。また審査委員は23→21名に減っていますが、その理由も明らかになっていません。
今年の #日本レコード大賞 審査委員21名を確認すると、その名前からほぼ全員、いやおそらくは全員が男性であると考えられます。これではさすがに偏りが生まれると言われてもおかしくないでしょう。米グラミー賞の変化とは真逆の動きです。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
#日本レコード大賞 審査委員21名の顔ぶれはこちら。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
(敬称略。名前の横は所属先を記します。)
委員長
・富澤一誠 (評論家)
副委員長
・安藤篤人 (東京新聞)
・中本裕己 (夕刊フジ)
(続く)
#日本レコード大賞 審査委員21名の顔ぶれ。(続き)
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
(敬称略。名前の横は所属先を記します。)
・飯尾史彦 (スポーツニッポン)
・飯島太郎 (RKB毎日放送)
・石井健 (産経新聞)
・石森勝巳 (TBC東北放送)
・出雲志帆 (RCC中国放送)
・清川仁 (読売新聞)
・小菅昭彦 (時事通信)
(続く)
#日本レコード大賞 審査委員21名の顔ぶれ。(続き)
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
(敬称略。名前の横は所属先を記します。)
・近藤正規 (東京中日スポーツ)
・島﨑勝良 (東京スポーツ)
・高橋誠司 (報知新聞)
・田村隆行 (HBC北海道放送)
・西本龍太朗 (毎日新聞)
・野畑圭司 (デイリースポーツ)
(続く)
#日本レコード大賞 審査委員21名の顔ぶれ。(続き)
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
(敬称略。名前の横は所属先を記します。)
・細井麻郎 (CBC)
・松本久 (日刊スポーツ)
・三浦敏彦 (MBS毎日放送)
・山下伸基 (サンケイスポーツ)
・吉田俊宏 (日本経済新聞) 以上
21名の審査委員のうち女性はRCC中国放送の出雲志帆さんのみと思われます。このジェンダーバランスの欠落は米グラミー賞と大きく異なります。
米グラミー賞は2010年代後半、大きく変わっています。
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
『主要部門の投票権を持つレコーディング・アカデミーの会員は高齢白人男性ばかりとされてきたが、近年はダイバーシティを意識した増員が行われていると報じられている。』https://t.co/R6ZrlYl6zb#日本レコード大賞 とは異なる動きです。
グラミー賞が批判され改善に向かったのとは全くもって異なる動きであり、そもそも女性の地位や権利の向上に取り組むという世界の流れと逆行します。
【対象期間等の曖昧さ】については番組冒頭にて、2023年10月以降に発表された全ての音楽ソフトが対象、またそれ以前であっても年度内に顕著な実績を挙げた作品を対象にしていると紹介しています。しかしながらそのアナウンスがTBSや日本作曲家協会のホームページにて、審査委員の顔ぶれ共々紹介されていないことは曖昧さと受け取られておかしくありません。
(なお、"音楽ソフト"という表現はフィジカルを指すと思われておかしくのではとも感じています。)
【アルバム部門の廃止】に関していえば、2024年は関連賞が復活してはいるものの、宇多田ヒカルさんのベストアルバム『SCIENCE FICTION』に特別アルバム賞が、松本孝弘さんのカバーアルバム『THE HIT PARADE II』に企画賞が贈られた一方でオリジナルアルバムに関する賞はありませんでした。アルバム賞をきちんと用意しないことは日本レコード大賞がオリジナルアルバムを軽視するといっても過言ではないはずです。
加えて、今年も司会を担当した安住紳一郎アナウンサーがどんなに進行等が巧いとしても、TBS社員を大賞発表者として起用することや、日本レコード大賞のX公式アカウントが"@TBS_awards"であるという【TBS色の強さ】は、音楽賞の客観性を削ぎかねません。大賞候補作品には複数のTBSドラマ主題歌が挙がっていましたが、そのドラマのVTRを用いることもその客観性に疑問を抱かせるものと考えます。
以上の点から、日本レコード大賞はやはり悪い意味で変わっていないと断言して差し支えないでしょう。
その日本レコード大賞ですが、近年はストリーミングヒットを大賞に選出する傾向が強く、今年はMrs. GREEN APPLE「ライラック」が大賞に。この受賞は納得できるというのが私見です。
ヒット規模では「ライラック」がCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」に及ばないとはいえ、ビルボードジャパンによる2024年度年間ソングチャートでは5位にランクイン。上記表の黄色表示は集計期間中のランクイン作品を指しますが、「ライラック」が仮に2024年初めのリリースだったならば総合順位はOmoinotake「幾億光年」を上回ったかもしれません。
無論、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」の特大ヒットを踏まえ、今回の受賞は「Bling-Bang-Bang-Born」が適切だったという声も聞こえてきます。しかしながら日本レコード大賞が必ずしも特大ヒット曲を選んでいるわけではないことは考慮すべきです。
ストリーミング指標の影響度が高まったこと、また2017年以降にフィジカルセールス指標に係数処理を施すようになったことで、ビルボードジャパンソングチャートは社会的ヒット曲を示す鑑となっています。それでもビルボードジャパン年間チャート制覇作品と日本レコード大賞受賞作品はリンクしているとは言い難く、この点からもMrs. GREEN APPLE「ライラック」の今回の受賞は納得できるはずです。
他方、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が最も社会的にヒットしたことはビルボードジャパンのみならず様々な年間チャートでも自明ゆえ、日本レコード大賞の選定に納得できない方は少なくないでしょう。ならば「Bling-Bang-Bang-Born」と同種の動きをみせたYOASOBI「アイドル」が昨年は大賞候補にもなっておらず作曲賞のみ、また歌手として特別国際音楽賞を受賞した(にとどまった)ことも疑問視する必要があります。
Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が日本レコード大賞を逃した要因は2点あるのではないでしょうか。ひとつ目は審査委員の偏り。ほぼ男性であるのみならず、たとえば委員長の富澤一誠さんは現在73歳、副委員長のひとりである中本裕己さんは61歳です。高齢の方がヒップホップを聴かないもしくは重視しないというのはステレオタイプの見方かもしれませんが、しかし柔軟性を欠く可能性は十分考えられます。
そしてもうひとつ、大賞よりもそれ以外の賞を獲得したほうがパフォーマンス時間が増えるという事情が挙げられます。基本的に大賞候補作品の歌手が他の賞を受賞することがほぼない日本レコード大賞において(その仕組みも問題ですが)、大賞や新人賞にノミネートされた歌手はその披露が1曲に限られる一方、今年は特別賞のGLAYや浜崎あゆみさんが複数曲を披露、Creepy Nutsも(大賞との合算で)2曲披露できています。
となれば、歌手側にとっては大賞を受賞できないとしても特別賞のほうがより良いと考えるのは自然なことかもしれません。Creepy Nutsは今回生放送には出演していませんでしたが、ともすれば大賞を取れないことを察知していたのかもしれません。
(ただ、生放送に参加できないから大賞は渡せないと日本レコード大賞側が判断したならば大きな問題です。その可能性は低いだろうとして、しかし賞の透明性が低い以上はこの疑いが晴れないと考えます。なお特別賞は今年6組が受賞していますが、Number_iのみパフォーマンス披露やVTR出演を果たしておらず、この理由についても気になります。)
Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が日本レコード大賞受賞を逃す可能性については、今年のノミネート判明後に私見を述べています。
今年の日本レコード大賞ではOmoinotake「幾億光年」やDa-iCE「I wonder」等も受賞の可能性は十分ありますが、そこに日本レコード大賞におけるTBS色の濃さが反映されることは否定できません(2曲ともTBSドラマ主題歌に起用されています)。またCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」の受賞可能性が高いとして、審査委員が今年もほぼすべて中年以上の男性であるだろうと考えるに、審査委員が柔軟な音楽の聴き手であるか疑問に感じてしまいます(審査委員の顔ぶれは昨年のエントリーで紹介しています→こちら)。
これらの考えは邪推と言われればそれまでです。しかし日本レコード大賞がMUSIC AWARDS JAPANのようにポリシーを明確にしていないゆえ、懸念が浮かんでしまうというのが率直な私見です。
そして昨日はこのようなことをつぶやいています。
そして来年5月に初開催される #MUSICAWARDSJAPAN においても、投票は #日本レコード大賞 と大きく異なります。こちらの記事では男女比は不明ながら、様々な立場に属する5,000人以上が投票メンバーであることが紹介されています。https://t.co/1RAKSBxW2s
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
#MUSICAWARDSJAPAN のホームページが今月開設されましたが、その冒頭にて『各分野の音楽関係者より構成される5,000名以上の投票メンバーにて厳正なる投票を行ない、受賞作品/アーティストを決定する音楽賞』と明記されています。https://t.co/ha5dOjvPbg
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
#日本レコード大賞 #レコード大賞 に納得できない方、もしくは納得はしているもののその審査方法等に釈然としない方には是非とも、5月に初開催される #MUSICAWARDSJAPAN を注目していただきたいと思います。https://t.co/1RAKSBxW2s https://t.co/C6uYgqE8vc
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
MUSIC AWARDS JAPANは今月中旬に投票概要を発表。審査委員のジェンダーバランスは不明でも様々なカテゴリーの在籍者が投票メンバーに名を連ねることで、日本レコード大賞の問題である【審査委員の構成における著しい偏り】、【対象期間等の曖昧さ】【アルバム部門の廃止】等音楽賞の歪さ、そして【TBS色の強さ】(放送局のカラーの強さ)はクリア可能ではと考えます。とりわけMUSIC AWARDS JAPANが【透明性】において以下の内容を掲げるのは、日本レコード大賞との差別化ゆえと捉えています。
賞の発足発表に先駆け、昨日10月21日に都内で説明会が行われ、村松俊亮氏(CEIPA理事長、日本レコード協会会長)、野村達矢氏(「MUSIC AWARDS JAPAN」実行委員会委員長、日本音楽制作者連盟理事長)、稲葉豊氏(「MUSIC AWARDS JAPAN」実行委員会副委員長、日本音楽出版社協会会長)が登壇し、記者陣の質問に答えた。
(中略)
国内に存在する音楽賞との違いについて尋ねられた野村氏は、「アーティストが参加し、アーティストが投票権を持っていること」と回答。投票メンバーの構成比も公表する旨を明かし、透明性をもって投票および選考を進めていくと言葉に力を込める。
野村達矢さんはMUSIC AWARDS JAPANの実行委員会委員長ですが、日本レコード大賞にも実行委員会が存在し、こっちのけんとさんに最優秀新人賞の盾を贈呈した水森英夫さんが実行委員長を務めています。しかし現時点において、水森さんの日本作曲家協会における肩書は修正されていません。ホームページの非充実、そして修正の問題もまた、日本レコード大賞への疑問を高めるに十分です。
日本作曲家協会のホームページに会員一覧名簿があり、水森英夫さんも掲載されています。ただし現時点での肩書(所属団体)は"日本レコード大賞(TBS)実行副委員長”となっています。https://t.co/BgTClXkDHQ pic.twitter.com/ES7OVH1O84
— Kei (ブログ【イマオト】/ポッドキャスト/ラジオ経験者) (@Kei_radio) 2024年12月30日
MUSIC AWARDS JAPANは国際賞という位置付けゆえか(上記音楽ナタリーの記事にて野村達矢さんが『国内に存在する音楽賞との違い』について回答していることが記載されています)、新設賞が日本レコード大賞とは比較できないかもしれません。しかしMUSIC AWARDS JAPANが成功裏に終わるならば、日本レコード大賞は自省と自浄を行わなければ説得力はますます下がるでしょう。