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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードアルバムチャート新記録樹立のStray Kids、内容からみえてくるK-POPの課題と改善提案

最新12月28日付米ビルボードアルバムチャートはStray Kids『HOP』が首位に初登場。これによりStray Kidsは、米ビルボードアルバムチャート史上初となる6作連続での首位初登場を成し遂げています。

一方で、この記録を掘り下げると別の側面がみえてきます。

 

 

Stray Kids『HOP』が最新12月28日付米ビルボードアルバムチャートを初登場で制したその大きな要因は、フィジカルセールスの好調です。

『HOP』は、今週の集計期間(2024年12月13日~12月19日)にセールスが176,000(セールス・チャートでも1位に初登場)、ストリーミングが10,000(1,483万回再生)、トラックによるユニットは1,000をそれぞれ記録して、累計187,000ユニットを獲得した。

高セールスを記録した本作は、パッケージと特典の異なる7種類のCDがリリースされていて、それぞれ公式ウェブサイト、Barnes & Noble、Walmart、Targetなどで販売されている。今週の週間セールス176,000枚のうち、171,000枚がそれらCDによる売上枚数で、残りの5,000枚はデジタル・ダウンロードだった。

ビルボードアルバムチャートはデジタルおよびフィジカルのアルバムセールス、単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)、およびストリーミング(動画再生含む)のアルバム換算分(SEA)という3つの指標で構成されます。複数種発売等に伴うフィジカルセールスの伸長が総合チャートでの瞬発力につながる一方、中長期的にはSEAの上位安定が大きく作用します。

こちらは12月28日付米ビルボードアルバムチャートと集計期間を同一とする、HITS Daily Doubleによる最新アルバムチャート。米ビルボードとは順位に多少の変動はあるものの、こちらでもStray Kids『HOP』が首位を獲得しています。一方で獲得ユニット数に占めるセールス(グラフでは"Pure"と表記)の割合が、他の9作品より突出していることが解ります。

 

先述のとおり、ストリーミングのアルバム換算分(SEA)における上位安定がロングヒットにつながり、年間チャート上位進出の鍵となります。また首位獲得の翌週における順位キープの点でも、SEAは欠かせない存在です。下記は2022年度以降の米ビルボードアルバムチャート首位獲得作品一覧ですが、翌週の動向においてStray Kidsの5作品(紫で表示)は、2週目にトップ10内をキープしてもユニット数の前週比は低いことが解ります。

最近ではK-POP歌手による米ビルボードアルバムチャート制覇も増えており米ビルボードも別途一覧記事を用意しているのですが(→こちら)、上記表にて水色で示した作品(ただし初登場での首位獲得作品は歌手名およびタイトルを黄色で表示)における登場2週目のユニット数前週比は全体的に低く、首位獲得時のユニット数全体に対するSEAの割合の低さと連動しているといえます。

そして米ビルボード年間アルバムチャートにおいて、Stray Kidsのアルバムは高位置に達しているとは言い難い状況です。2023年度は『5-Star』が82位に、2024年度は『ROCK-STAR』が123位および『ATE』が139位に入っているものの、2022年度の週間チャートを制した2作品は年間単位でランクインしていません。

(ちなみに米ビルボードでも年間チャートは閲覧できるのですが、2023年度以前は米ビルボードの有料会員にのみ公開される仕様となっています。音楽チャートは音楽文化的側面も果たすと考えれば尚の事、米ビルボードの方針を歓迎することはできません。)

 

 

K-POPというジャンルが世界で注目され、韓国以外の国や地域で開催される音楽賞ではK-POP部門も設立されています。米ビルボードのアルバムチャートで上位進出を果たす機会が増えたのは、コアファンの拡大やそのコアファンの熱量の高さ、そして作品の複数種リリース等が大きく影響しているだろうことが、ユニット数全体に占めるセールスの大きさ、特にフィジカルの強さから見て取れます。

ビルボードによるグローバルチャートでもK-POPのランクインは目立ちますが、他方米ソングソングチャートではグローバルほどK-POPは強くありません。複数の首位曲を輩出したBTSはダウンロードが大きく寄与していますが、そのダウンロードはチャートポリシー(集計方法)変更も相まって影響力が下がっています。そしてK-POP全体ではストリーミングやラジオという接触指標がまだまだ強くはないといっていいでしょう。その状況下ではK-POPが真に広く米社会に浸透したとは言い難いと考えます。

一般投票で選ばれコアなファンの熱量が反映されるアメリカン・ミュージック・アワードと異なりグラミー賞は会員投票で決まる以上、彼らにリーチさせる必要があります。レコード会社等の働きかけも必要かもしれませんが、今の音楽チャートが接触指標群のヒットを重視する傾向ならばストリーミングやラジオでヒットを持続させ、会員およびその周囲にヒット曲であるとの認識を抱かせていかないといけなかったはずです。

 

 

Stray Kids『HOP』の次週の動向を注視すると共に、K-POPの歌手そしてコアファンの方々が米でもっと認知浸透させるにはどうするかをきちんと考え、動く必要があるというのが厳しくも私見です。

Stray KidsをはじめとするK-POP歌手の作品は今後も、米ビルボードアルバムチャートで一時的に上位進出を果たすことでしょう。重要なのはフィジカルセールス施策を採ったとしても接触指標群でヒットさせること、ライト層の支持を得て広く社会全体に浸透させていくことです。コアファンによる高い熱量にライト層による熱の持続が加われば、K-POPはより強いジャンルに成るはずです。