イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2025年度の集計開始日に、ビルボードジャパンへの改善提案をまとめる

ビルボードジャパンは本日が2025年度各種チャートの集計期間初日となります。これはビルボードジャパンが最新のポッドキャストにて2024年度年間チャートを12月6日金曜に発表するとアナウンスしており、そのスケジュールから逆算した上で算出したものです。なお、年間チャートは例年どおり午前4時に解禁されると思われます。

今回は2025年度初回チャートが12月4日水曜に発表されるのを前に、ビルボードジャパンの各種チャートに対する改善提案をまとめます。なお今回の提案は2024年度集計期間初日に行った内容に準じます(2024年度の集計期間開始日に、ビルボードジャパンへの改善提案をまとめる(2023年11月27日付)参照)。また、この改善提案は毎週金曜掲載しているCHART insightからヒットを読むカテゴリーのエントリーを踏まえています。

 

 

ビルボードジャパンへの改善提案>

 

 

(1) ソングチャート 各指標の変更

① フィジカルセールス指標のウエイト減少、および係数処理適用方法の見直し

ビルボードジャパンソングチャートにおけるヒットの理想形はストリーミングや動画再生といった接触指標群が高水準で安定し、総合チャートでロングヒットに至ることです。所有指標は持続力に欠けるものの、瞬間的には上位進出に寄与します。

2024年度においても所有指標、その中でもフィジカルセールスがストリーミングと乖離することが目立つ印象です。そのような曲が上位進出した場合、音楽チャートに精通していない方ほどオリコンとの差異を感じにくいかもしれません。フィジカルセールス指標のロングヒット曲との乖離を踏まえれば、ウエイト自体の減少は検討すべきと考えます。

加えて、リリースから時間が経過した曲が施策に伴いフィジカルセールス指標で再浮上し、総合ソングチャートでも上位進出するケースが目立っています。ただ、そのような曲のほとんどは他指標が伴っていません。

一定以上の週間セールスを記録した曲に対しビルボードジャパンがその超過分に減算処理を行うというチャートポリシー(集計方法)を適用した2017年以降、このチャートは社会的ヒット曲の鑑となりました。しかし一旦適用されるとその翌週以降は減算処理されないため、施策に伴うフィジカルセールス指標の再浮上がそのまま総合での再浮上にもつながります。そして中長期でみると、売上枚数と指標化後の順位が異なっています。

ゆえに、一定以上の枚数を売り上げた作品には翌週以降も減算処理を適用すべきと考えます。

 

② ストリーミング指標のカウント範囲拡大、および係数処理適用の導入

ビルボードジャパンはソングチャートにおいて、構成する指標は300位までを加点対象としています。ただこれではストリーミングヒットを拾いにくくなっているのではという見方が、これまでより強くなっています。

ストリーミング指標にデータを提供するSpotifyの、日本のデイリーチャート200位における再生回数はこの1年も上昇していることがグラフから読み取れます。ストリーミング全体の再生回数に占めるSpotifyの割合はおよそ2割であり、この上昇からサブスクユーザー全体の拡大も十分に想起可能です。

ユーザーの拡大は聴かれる曲の裾野を広げます。よってストリーミング指標300位に入らず加算されない曲が出てくることは、上記オリコンでの記録から見えてくるのではないでしょうか。ストリーミングが他の指標よりもポイント占有率が高いこともあり尚の事、ビルボードジャパンはこの指標だけでも加算対象範囲を500位まで拡大することを検討するよう願います。

 

次に、LINE MUSICに代表される再生キャンペーンを適用した曲全体への係数処理適用が必要と考えます。

現状ではストリーミング指標の基となるStreaming Songsチャートで再生キャンペーン適用曲が首位を獲得した場合にのみ、指標化の際に他のサブスクサービスとの乖離等を踏まえて係数処理が適用されます。しかしこの2年以上、施策を施した曲でStreaming Songsチャートを制する作品はありません。逆に言えば2位以下の曲は係数処理が適用されないため、総合チャートでの一時的な上位進出が可能となっています。

ストリーミングはロングヒットの要となる指標であり、歌手のファンではないが曲が気になるライト層の人気を示しますが、再生キャンペーンはそこにコアファンの熱量を過度に反映させるため所有指標のような急上昇と(企画終了直後の)急降下を招きます。この状況はCHART insightからヒットを読むエントリー掲載曲で未だ少なくなく、1週のチャートだけで真の社会的ヒット曲が可視化されにくい要因となっています。

 

もうひとつ、Stationheadの活用が目立ってきたことに伴い、コアファンの熱量が主にSpotifyに反映される傾向が高まったと感じています。StationheadはApple Musicも対象ながら、デイリー100位ではなく200位まで、そしてその再生回数が可視化されるSpotifyに、熱量がより注がれるのではと実感しています。そしてコアファンの熱量が強く反映された曲は、通常の動向と異なる動きが少なくありません。

無論施策はほとんどの歌手や作品において用意されているものの、それが際立った場合にはチャートポリシーの見直しが必要と考えます。ビルボードジャパンは適宜Stationheadの動向を確認し、Stationhead人気曲の他サービスとの乖離が目立ってきたならばSpotifyの再生回数に係数処理を適用すべきか議論する必要があるでしょう。

 

③ ラジオ指標のカウント対象範囲拡大、もしくは指標廃止の検討

ラジオ指標はプランテックによる全国31のFMならびにAM局のOAランキングを基に、各放送局の聴取可能人口等を加味して算出されます。一方でこの指標は放送局のパワープレイや番組ゲスト/コメント出演等の影響度が高く、総合チャートとの乖離が大きくなっています。元来ラジオは他指標以上にロングヒットが難しいのが日本の特徴ですが、その中でもパワープレイ選出曲等はその終了後の急落が目立つ状況です。

31局はいずれも都心部にある放送局であり、ともすれば地方局を加味することでOAランキングならびにそれに基づくラジオ指標のチャートは少しでも総合チャートに近い形になるかもしれません。それも踏まえ、たとえばradikoの対象局すべてを網羅することを視野に入れてもいいのではと考えます。

昨年のこの時期にはこのようなことを書きましたが、ラジオ指標は廃止も視野に入れる必要があるのではないかという思いが生まれています。

この指標はフィジカルセールスに次いで総合順位との乖離が大きいことが1つ目の理由。また最近ではラジオ指標にて1~2週ではなく長期エントリーを目指した施策も目立ち、一方ではその終了後にこの指標が急落する傾向も生まれています。ラジオがあたかも所有指標化していることを自然ではないと捉えているのが2つ目の理由です。

そして3つ目の理由は、ラジオ業界全体が旧態依然のままではないかという懸念に因るものです。

聴取率調査に対する疑問は以前から記していましたが、未だその調査方法がアナログであること、豪華ゲストやプレゼント企画等ドーピングと呼べる手法が当たり前に行われていること等、違和感は強いままです。またその聴取率調査期間中は直近よりも最近のヒット曲が多くかかる傾向であり、調査対象局の多くなさも相まって偏りが生まれているといえるでしょう。

ラジオ指標の基となるRadio Songsチャートの掲載がなくなったことで、ビルボードジャパンソングチャートにおけるラジオ指標の影響力は既に弱くなっていると感じるに十分です。無論ラジオという特殊性を考えれば加算対象からの排除が難しいのは承知で、しかし現行では一度排除について議論の場を設ける必要があるのではと感じています。

 

④ 動画再生指標のウエイト上昇

この点は昨年同様、各メディアのトレンドランキングとヒット曲との乖離が小さくないことを踏まえて提案しています。特に、”歌ってみた”や”踊ってみた”に代表されるUGC(ユーザー生成コンテンツ)やTikTokでの人気曲とビルボードジャパンソングチャートとに差が生じていることを、UGCの人気を示すTop User Generated SongsチャートやTikTok Weekly Top 20チャートから感じていることが、ウエイト上昇提案の理由です。

短尺動画についてはビルボードジャパンが米ビルボードの動向を参考にするとしていますが、その米では2025年度に入ってからもソングチャートの構成指標に含めていないことから、ビルボードジャパンでも米に倣い歌手側による公式短尺動画をソングチャート構成指標に引き続き含めないものと思われます。

ならば、ウエイト見直しの議論と同時に、ビルボードジャパンはソングチャートの内容をより広く流布するよう動くことを願います。好きな曲がより人気になるために、またその制作側に利益を与えるきっかけを作るという意味でも、長尺の公式動画やストリーミングの再生という接触行動の重要性を説くこと、またサブスク等の有料会員になることでチャートでも有利となること等を根付かせることが必要でしょう。

(ビルボードジャパンソングチャートのストリーミングや動画再生指標においては、有料会員の1回再生が無料会員のそれよりウエイトが大きくなるよう、チャートポリシーが設計されています。)

 

(2) アルバムチャートへのストリーミング指標導入

ビルボードジャパンは2022年度にてソングチャートからTwitter(現X)、ソングおよびアルバムチャートからルックアップという指標を廃止しました。これらはコアファンによるチャート押し上げを目的とした活動が反映されやすかったことも廃止の理由として挙げられ(以前のエントリーで紹介しています→こちら)、これにより現在のアルバムチャートはフィジカルセールスとダウンロードという所有指標のみとなっています。

一方でルックアップは、所有のみならず接触指標の意味も持ち合わせていたといえます。CDをパソコン等インターネット接続機器にインポートする際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を示すこの指標は、CDの実際の購入者数(ユニークユーザー数)のみならずレンタル枚数の推測を可能としていました。

レンタル店舗の減少等を踏まえればこの指標の廃止は自然なことですが、とはいえそのレンタル人気が把握できなくなったことで接触の意味を持つ指標がなくなったことになります。米ではストリーミングのアルバム換算分(SEA)が構成指標に含まれ、人気のアルバムはロングヒットするのみならずソングチャートともリンクする一方、日本ではアルバムとソングチャートとでヒットの乖離が際立つ状況です。

Spotifyにおけるアルバムチャートについては先述したStationheadの影響も加味する必要がありますが、2024年度のビルボードジャパン年間アルバムチャートでたとえばMrs. GREEN APPLE『ANTENNA』や『Attitude』がどの位置に来るかと照合した上で、チャートポリシーの変更可否を考える必要があるでしょう。

 

(3) グローバル関連チャートに沿った、日本のチャート集計方法のグローバル化

この点についてはまず、米ビルボードが2020年秋に新設したグローバルチャート(Global 200、およびGlobal 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.)について紹介した下記エントリーをご参照ください。

またビルボードジャパンは昨年9月にGlobal Japan Songs Excl. Japan、およびJapan Songs (国名)という二種類のチャートを新設しています(後者は現時点で9ヶ国が対象)。前者についてはグローバルチャートがベースとなっていること等について、下記エントリーにて解説しています。

この前提の下、以下の提案を記載します。

① リミックス等合算や集計期間統一等、海外に倣ったチャートポリシー変更
② グローバルチャート記事の翻訳公開

この二点は既に、Global Japan Songs Excl. Japan紹介時にも改善提案を実施。また前者については以前TOKIONへ寄稿したコラムでも詳しく記しています。

デジタルリリースは海外での発信とほぼイコールであり、米ビルボードによるグローバルチャートでは日本市場でのヒットもチャートに反映されます。YOASOBI「アイドル」は英語版をグローバルチャートの集計期間初日である金曜にリリースしたことも相まって、日本の楽曲として初めてGlobal Excl. U.S.を制しています。

一方でビルボードジャパンによるGlobal Japan Songs Excl. Japanは世界市場のうち日本の分を除いた上で日本の楽曲を抽出するというもので、それ自体強く意義のあることです。ならばその際に世界のトレンドも紹介することで日本の歌手の海外での施策立案等につなげられると考えますが、しかしながらビルボードジャパンは米ビルボードのグローバルチャート記事を、特筆すべき状況が発生した際以外は翻訳公開していません。

(※韓国メディアの動向については上記ポスト内リンク先のエントリーにて紹介しています。)

日本のメディアは歌手側のプレスリリースを基に記事は書くものの独自に追求する姿勢に乏しいという状況は、この1年間も変わっていません。年間チャート紹介についてはビルボードジャパンが翻訳記事を用意せず、チャート発表から4日近く経ってようやく「アイドル」の好成績が伝えられるという事態であり、明らかに遅すぎます。せめてビルボードジャパンだけでも、定期的な記事翻訳を希望します。

 

(4) 発信の重要性を自覚し、実践すること

① チャート更新や記事発信の定時化、および記事の精度向上
② チャート番組の用意

これは以前のエントリーにて示した内容がそのまま当てはまります。というよりも、2年前に挙げた3つの改善提案(管理の徹底、チャートポリシー変更および自問自答の姿勢を持っているかについて)は日頃から省みる必要があるものです。管理の徹底については昨年秋にほぼ毎週チャート記事が訂正されたこと、現在において水曜のCHART insight更新時間が遅れている(13時以降となる)こと等からも、十分ではないと感じています。

そしてビルボードジャパンには、チャートを紹介するレギュラー番組の用意を願います。ポッドキャスト不定期発信となっているのはチャートディレクターの礒﨑誠二さんを含むスタッフの負担を考えればやむなしとは思いますが、これをボランティア的なものではなくラジオ等外部の力を借りて業務化することが必要でしょう。”ラジオ等外部の力を借りて”と述べたのは、客観視する姿勢等を高めることにつながるためです。

 

定期的、そして定時での発信はチャート紹介のイベント化につながります。それによりチャートを、その仕組みも含めて自発的に確認する人が増え、チャートへの注目度は高まることでしょう。ビルボードジャパンが業界内での信頼度を高めていることは今夏の経済産業省によるレポート、また新設されるMUSIC AWARDS JAPANでの取扱からも明らかな以上、次は世間の認知度を高め、その世間から信頼を得る必要があるはずです。

このことが叶えば、発信への意識の向上、またたとえばスタッフの増強等へもつながるものと考えます。

 

 

 

以上、ビルボードジャパンに対する提案内容を記載しました。

 

音楽への接し方が時代に即して常に変わっている以上は音楽チャートが完全になることはありませんが、その中にあってビルボードジャパンは複合指標から成る音楽チャートでは最良といえるでしょう。その精度をさらに、そして常時高めていけるよう、ともすれば上記提案の中には違うものもあるかもしれませんがまずは議論や検討を進めることを願います。

 

最後に。自分の指摘はチャート管理者側にとって耳障りなものであるかもしれません。それでも批判と改善を続けるのは、チャートがより好い形に成ること、より認知されていくことを願うためです。好い部分はきちんと評価しながら違和感はきちんと言語化し改善提案を続けるというウォッチドッグ(監視)の役割を、今後も続けていきます。