今月に入りYahoo! JAPANニュース内コラムにて、先月創設がアナウンスされたMUSIC AWARDS JAPANを複数の方が採り上げています。
MUSIC AWARDS JAPANについてはこのブログでも紹介した上で、好感および懸念をまとめています。それでも同賞には、日本を代表する音楽賞に成り得るという期待感を強く抱いています。
というのも、日本を代表する音楽賞は今のところ存在しないというのが厳しくも自分の見方です。上記エントリーでも記した、昨年の日本レコード大賞における問題点はこちら。
【審査委員の構成における著しい偏り】やそれに伴う【透明性の低さ】、【対象期間等の曖昧さ】【アルバム部門の廃止】等に代表される音楽賞そのものの歪さ、そしてどんなに安住紳一郎アナウンサーが巧い方だとして大賞発表者として起用することや、日本レコード大賞のX公式アカウントが"@TBS_awards"であるという【TBS色の強さ】も含め、日本レコード大賞自体はほぼ何ら変わっていないと断言していいでしょう。
その日本レコード大賞、今年はどうなるでしょう。
日本レコード大賞は先週、各賞受賞作品および歌手を発表しています。
日本レコード大賞においては、ストリーミングヒットした曲がここ数年大賞に選ばれ続けていることを好い変化と捉えています。昨年の受賞曲であるMrs. GREEN APPLE「ケセラセラ」はシングルがフィジカルリリースされていないこともあり、フィジカル(主にCD)のリリースが重視されるわけではないことを示した点でも大きいといえるでしょう。そして今年もストリーミングヒット曲が複数、優秀作品賞を受賞しています。
・日本レコード大賞 歴代受賞者一覧 - 輝く!日本レコード大賞|TBSテレビより(2000年以降の大賞受賞曲を抜粋)
あくまで私見ですが、日本レコード大賞受賞曲に対する非難は少なくなっている印象です。これはストリーミングヒット曲、世間に認知されている作品が選ばれていること、そしてそのヒットを可視化したビルボードジャパンソングチャートが浸透してきていることが背景にあるものと考えます。
一方で、2023年度のビルボードジャパン年間ソングチャートを制したYOASOBI「アイドル」は、歌手自身が特別国際音楽賞を受賞しながら曲自体は優秀作品賞に入っていませんでした。そもそも特別部門と優秀作品賞の重複は同年におけるNewJeansの件から可能と考えますが、そもそも日本作曲家協会ホームページ内の日本レコード大賞要項内に特別国際音楽賞の説明がないことも気になります。
・日本レコード大賞 実施要項 - 公益社団法人 日本作曲家協会より
(※ 11月24日5時50分時点の表示内容を掲載しています。)
先に掲載した今年の受賞作品/歌手一覧には、「Bling-Bang-Bang-Born」が優秀作品賞に、Creepy Nutsが特別賞に掲載されています。ゆえに特別賞受賞歌手でも日本レコード大賞を獲得できる可能性はあるのですが、同じく特別賞を受賞したtuki.さんやNumber_iは曲がヒットしながらも優秀作品賞に含まれていません。ヒットと優秀作品賞受賞が比例するとは限らないものの、この数年の傾向を踏まえれば気になります。
<第66回日本レコード大賞 優秀作品賞受賞曲、
ならびに特別賞や新人賞等受賞歌手のヒット曲における
ビルボードジャパンのCHART insight>
※CHART insightの説明
[色について]
黄:フィジカルセールス
紫:ダウンロード
青:ストリーミング
黄緑:ラジオ
赤:動画再生
緑:カラオケ
濃いオレンジ:UGC (ユーザー生成コンテンツ)
(Top User Generated Songsチャートにおける獲得ポイントであり、ソングチャートには含まれません。)
ピンク:ハイブリッド指標
(BUZZ、CONTACTおよびSALESから選択可能です。)
[表示範囲について]
総合順位、および構成指標等において20位まで表示
[チャート構成比について]
累計における指標毎のポイント構成
・Da-iCE「I wonder」
・Omoinotake「幾億光年」
・山内惠介「紅の蝶」
・NewJeans「Supernatural」
・FRUITS ZIPPER「NEW KAWAII」
・Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」
・BE:FIRST「Masterplan」
・純烈「夢みた果実」
・JO1「Love seeker」
・tuki.「晩餐歌」
(特別賞受賞)
・Number_i「GOAT」
(特別賞受賞)
・ILLIT「Magnetic」
(新人賞受賞)
・こっちのけんと「はいよろこんで」
(新人賞受賞)
・ME:I「Click」
(新人賞受賞)
ビルボードジャパンは12月6日金曜に2024年度の年間チャートを発表することをポッドキャストにて明らかにしています(おそらくは午前4時の解禁と思われます)。手元の集計では現時点で年度内に22万ポイント以上を獲得しているのが7曲あるのですが、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」はtuki.「晩餐歌」のおよそ1.6倍ものポイントを獲得し、独走状態にあります。
この「Bling-Bang-Bang-Born」はいわば活用(TikTokやカラオケ等)での人気も相まって、今年最も流行した曲とも位置付けていいでしょう。ゆえにこの曲が特別賞のみならず優秀作品賞を受賞したのは自然といえるものの、年度内にビルボードジャパンソングチャートで22万ポイント超えを果たし、且つ昨年の日本レコード大賞では選ばれなかった曲のうち、「晩餐歌」が優秀作品賞を唯一逃していることには違和感を覚えます。
(tuki.「晩餐歌」は2023年9月末のリリースであったことが受賞を逃した要因かもしれませんが、その理論に基づくならば2019年の日本レコード大賞を受賞したFoorin「パプリカ」が2018年8月にリリースされていることは矛盾といえます。要は、受賞やノミネートの対象期間を明示するというポリシーが必要であり、MUSIC AWARDS JAPANにおいてはその点を当初から開示していることも信頼できると考える理由です。)
今年の日本レコード大賞ではOmoinotake「幾億光年」やDa-iCE「I wonder」等も受賞の可能性は十分ありますが、そこに日本レコード大賞におけるTBS色の濃さが反映されることは否定できません(2曲ともTBSドラマ主題歌に起用されています)。またCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」の受賞可能性が高いとして、審査委員が今年もほぼすべて中年以上の男性であるだろうと考えるに、審査委員が柔軟な音楽の聴き手であるか疑問に感じてしまいます(審査委員の顔ぶれは昨年のエントリーで紹介しています→こちら)。
これらの考えは邪推と言われればそれまでです。しかし日本レコード大賞がMUSIC AWARDS JAPANのようにポリシーを明確にしていないゆえ、懸念が浮かんでしまうというのが率直な私見です。
日本レコード大賞に必要なことを、先程引用した文章を用いて以下に記します。
【審査委員の構成における著しい偏り】を減らし、【透明性の低さ】を無くし、【対象期間等の曖昧さ】をきちんと説明し、【アルバム部門の廃止】を撤回する等音楽賞そのものの歪さを解消し、そしてどんなに安住紳一郎アナウンサーが巧い方だとして大賞発表者として起用することや、日本レコード大賞のX公式アカウントが"@TBS_awards"であるという【TBS色の強さ】も手放すことが、日本レコード大賞に求められます。
冒頭で紹介したコラムにて、田中久勝さん、柴那典さんは共にMUSIC AWARDS JAPANの”透明性”を採り上げています。この賞の推移を注視する必要はあるとして、自分はこの透明性が現存の日本レコード大賞にはほぼみられないと厳しくも断言します。またこの音楽賞の選定基準にTBSのCDTVオリジナルランキングがあるならば、このランキングもまたチャートポリシー(集計方法)が未開示ゆえ信頼できないと断言できるものです。
改善提案を経ても変わらなかった日本レコード大賞が根本から変わるには、TBSから離れることが前提かもしれません。MUSIC AWARDS JAPANに対し放送局が固定される可能性を懸念として挙げたのは、日本レコード大賞におけるTBS色の強さが背景にあります。邪推と言われればそれまでですが、ならばそのような邪推を想起させないようなポリシーの開示を、日本レコード大賞やCDTVオリジナルランキングに今一度求めます。