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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アルバムチャート速報発信が2日遅れた米ビルボードへ、チャートポリシー等の見直しを願う

ビルボードによるアルバムチャート、トップ10速報記事は日本時間の月曜早朝に公開されます。しかし前週9月7日付(集計期間:8月23~29日)については公開がおよそ2日遅れる形となりました。下記ポストの発信時刻は9月4日水曜午前1時28分となっています。

この事態に違和感を抱き、米ビルボードに対し進言させていただきます。

 

 

9月7日付米ビルボードアルバムチャート速報記事の延期は、サブリナ・カーペンター『Short N' Sweet』とトラヴィス・スコット『Days Before Rodeo』が僅差となったことが要因。実はこれまでも、僅差を基にした速報記事発信の遅延はみられました。

(2023年8月5日付アルバムチャートは、NewJeans『Get Up』と映画『バービー』サウンドトラックが"処理上の問題"により3日間延期。フォーブスは、2万ユニット差で首位デビューが予想されるNewJeansが、遅延の原因となった販売数のフィルタリングに伴い2位に落ちる可能性があると示唆していました。結果は(現地時間の)8月2日水曜に発表され、NewJeansは『バービー』サウンドトラックにわずか500ユニット差をつけて首位に初登場しています。)

 

※この点については米ビルボードの最新アルバムチャートが2日経っても公開されない異常事態に…その原因とは(2023年8月2日付)でも紹介しています。

※上記ポストはXアカウントのTalk of the Chartsが発信する、ここ数年の速報記事延期について紹介したこちらのポストから始まるスレッドの中のひとつです。

※ ( )内はGoogle翻訳、もしくはDeepL翻訳を用いた上で一部表現を訂正した、意訳的な翻訳となります。

 

ビルボードアルバムチャートにおいてはHITS Daily Doubleが予想を実施しています。今回紹介する9月7日付アルバムチャートにおいてはその中間段階にて、サブリナ・カーペンター『Short N' Sweet』がトラヴィス・スコット『Days Before Rodeo』に10万ユニットもの差をつけて首位を獲得すると紹介していました。

 

そして2日遅れて発信された速報記事にて、サブリナ・カーペンター『Short N' Sweet』が362,000ユニット、トラヴィス・スコット『Days Before Rodeo』が361,000ユニットを獲得し、わずか千ユニット差で前者が首位に立ったことが判明(なお別の予想担当者は600ユニット差と発言しています)。『Days Before Rodeo』の追い上げが凄まじかったのみならず、『Short N' Sweet』も予想を4万ユニット以上上回る形となりました。

 

 

しかし、速報記事の延期、そして2作品のユニット数上昇における背景には疑問を覚えるというのが、率直な私見です。

 

ビルボードはアルバムチャートやソングチャートの速報記事において、特筆すべき動きがあった作品についてはその背景(主に施策について)をきちんと記載しています。9月7日付米ビルボードアルバムチャートをビルボードジャパンが翻訳した記事をみると、今回の急伸につながった施策がみえてきます。つきましては記事の該当部分をキャプチャし、貼付します(問題があれば削除いたします)。

 

 

 

 

これをみれば、トラヴィス・スコット『Days Before Rodeo』が如何に追い込みをかけていたか、そしてそれを踏まえてサブリナ・カーペンターも追加施策を採ったかがよく解ります。そして、この経過および結果、また米ビルボードの速報記事延期を踏まえ、HITS Daily Doubleは米ビルボードを厳しく批判しています。

(先週の米ビルボードアルバムチャート(Billboard 200)における首位争いについて、HITS Daily Doubleは以下のように語っています。

「10年前にSoundCloudでリリースされたミックステープ(アルバム)はSEAがおよそ3万ユニットしかないにもかかわらず、業界内で最も人気の高いポップス歌手からチャート1位の座をあと一歩のところまで追い詰めたということは、現在のシステムがいかに破綻しているかを強調するだけです。」)

(「…チャート上で唯一意味を持つ1位を巡る争いは、ゲーマーがチートコードを使うようなその場限りのトリックに奔走するため、しばしば操作競争と化します。」)

 

※ 上記ポストで登場する"SEA"については後述します。

※ チートコードとは隠しコマンドを意味します(Weblio辞書より)。

※ ( )内はGoogle翻訳、もしくはDeepL翻訳を用いた上で一部表現を訂正した、意訳的な翻訳となります。

 

HITS Daily Doubleの発言にはひとつはっきりと反対したい点があるのですが、概ね賛同します。そもそもリリース日にデラックスエディションを出すことも健全とは言い難いのですがが(オリジナル版を買った方が損をするばかりでしょう)、ライバル作品を見越した集計期間後半の新バージョン追加投入や、購入可能時間を限定したリリース等がこれまでも目立っていました。

この施策を最も徹底している歌手のひとりはテイラー・スウィフトで間違いでしょう。最新作『The Tortured Poets Department』においてはイェー(カニエ・ウェスト)等ライバルを引き離すべく施策が行われています。発送時期を明確にしないまま予約販売した分をビリー・アイリッシュのアルバム『Hit Me Hard And Soft』リリース週に発送したのはその代表例であり、これら施策についてはブログで紹介しています。

テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』の収録曲はアルバム初登場週と同日付の米ビルボードソングチャートでトップ10を独占しています(【海外ビルボード】テイラー・スウィフト、史上二度目の米ビルボードトップ10独占達成(4月30日付)参照)。他方、アルバム収録曲で年間ソングチャート50位以内が見込めるのはポスト・マローンを迎えた「Fortnight」を含む2曲にとどまります。

 

 

ビルボードアルバムチャートはデジタルおよびフィジカルの売上に加えて、単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)、そしてストリーミング(公式動画含む)再生回数のアルバム換算分(SEA)にて構成され、SEAが多いほどロングヒットする傾向にあります。アルバムチャートで上位安定する作品と収録曲のソングチャート上位進出はリンクする傾向にあります。

アルバムチャートではそのSEAの存在感が大きいため、所有指標ばかりが強い作品は早々にランクダウンする傾向にあります。これはK-POP歌手に多いのですが、トラヴィス・スコット『Days Before Rodeo』においては最新9月14日付アルバムチャート(→こちら)で2→30位に急落したのみならず、登場2週目におけるユニット数の下落幅はこの10年で最大となる94.7%を記録したとチャート予想等関係者が発信しています。

それでも、所有指標を刺激する施策を歌手側は多く用いている状況です。(収録曲は同一ながら)複数のジャケットの用意、複数種の特典封入、ボーナストラックの異なる複数種の用意、販売時間や販売場所の限定といった手法は、コアファンの購入意欲を高めてもライト層には響きにくいものと考えます。そしてすべて手に入れたい、またチャートに貢献したいとするコアファンの物理的/精神的な疲弊にもつながるものと危惧します。

 

 

これらを踏まえれば、米ビルボードがチャートポリシーを変更することは必須でしょう。ざっと挙げるだけでも【(少なくとも)リリース週における追加投入分の未カウント化】【デジタルアルバムの歌手のホームページでの売上分の未カウント化】【カウント対象の種類の限定】等があります。またSEAやTEAは収録曲数に関係なく計算式が同じとなり収録曲数の多いほうが有利となるため【曲数に応じた分母の設定】も必須です。

そしてもうひとつ、米ビルボードはXのチャート専用アカウント(billboard charts)にて遅延のアナウンスを、また9月7日付アルバムチャートの速報記事にて遅延に関する謝罪を行っていません。【遅延に対する事前アナウンスおよび謝罪】はチャート管理者として最低限の責務だと考えます。米ビルボードが少なくとも議論することを願います。

 

 

最後に。HITS Daily Doubleによる米ビルボードへの批判について”概ね”賛同したことについてですが、このHITS Daily Doubleに対しては発言に宿る棘に以前から引っ掛かりを覚えており、今回も感じた次第です。以下、その点について自分が考え、ポストした内容を貼付します。なお、スレッド最初のポストにて引用したのは各種音楽チャートを紹介するchart dataのXアカウントによるものです。