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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

テイラー・スウィフトが米アルバムチャートで14週目の首位獲得…前週からのユニット数"倍増"を考える

日本時間の本日発表された8月17日付米ビルボードアルバムチャート(集計期間:8月2~8日)では、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』が首位をキープ。通算14週目の首位となった当週、獲得ユニット数は71,000→142,000と倍増しています(後述する記事では98%アップと紹介)。特にアルバムセールスが前週比606%アップと大きく伸びていますが、これは施策が大きく反映された形です。

(米ビルボードアルバムチャートはフィジカルおよびデジタル(アルバム単位)での売上に加えて、ストリーミング(動画再生を含む)のアルバム換算分(SEA)、および単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)が含まれます。なお、SEAおよびTEAの計算式における分母は収録曲の大小にかかわらず同一であることから、収録曲数が多いほうが有利になるといえます。)

ビルボードは施策の内容を記事できちんと言及する傾向にあり、最新チャートにおける『The Tortured Poets Department』についても紹介しています。

Poets’ album sales in the latest tracking week were bolstered by a number of drivers. The set was released in five new digital album variants via Swift’s official webstore for a limited time, each containing the standard album’s 16 songs, along with one exclusive bonus track for $4.99 each (one album contained a “first draft phone memo” version of “My Boy Only Breaks His Favorite Toys,” while the other four contained one live track each from recent stops during her The Eras Tour). In addition, for a limited time, the store restocked three previously available digital album variants with exclusive bonus cuts, and a signed CD edition. Her store also staged a brief sale pricing promotion, whereby 16 previously available physical variants of the album were all discounted by 13% (as 13 is Swift’s favorite number).

(『The Tortured Poets Department』の最新集計期間におけるアルバムセールスは、様々な要因によって強化されれています。テイラーの公式ホームページで5種類の新しいデジタルアルバムが期間限定でリリース、それぞれにスタンダードアルバムの16曲と異なるボーナストラック1曲が収録され4.99ドルで販売されています(「My Boy Only Breaks His Favorite Toys」の“first draft phone memo (初稿電話メモ)"バージョンが収録されたバージョンのほか、4つのアルバムにはライブツアー(The Eras Tour)での最近のパフォーマンス音源が1曲ずつ収録)。さらに公式ホームページでは期間限定で、限定ボーナスカットが収録されたデジタルアルバム3種類、およびサイン入りCDが再入荷したほか、テイラーのホームページでは短期間ながらセール価格キャンペーンも実施され、過去に発売された16種類のフィジカルアルバムがすべて13%引きとなっていました(なお"13"はスウィフトのフェイバリットナンバーです)。 

(※DeepL翻訳をベースに、一部表現を修正しています。)

複数種の新規投入、再入荷そして過去のフィジカルが安価販売されたことが、デジタル/フィジカル合算セールスの大幅アップにつながったことが解ります。

 

冒頭で紹介した表は、『The Tortured Poets Department』が初登場から12週連続で首位を獲得したことを振り返るエントリーにて掲載したものの最新版。ここでは週間2位獲得作品の表も掲載しているのですが、それをみればテイラー・スウィフトがアルバムセールスを大きく伸ばすことでビリー・アイリッシュやザック・ブライアンから首位の座を守ったことが見て取れます。そして当週の上昇も、また同様といえます。

最新8月17日付米ビルボードアルバムチャートでは、イェー(カニエ・ウェスト)とタイ・ダラー・サインによるコラボアルバム『Vultures 2』が初登場を果たしています。

The opening sales of Vultures 2 were aided by its availability across a widely available standard explicit edition, and a late-in-the-week-released clean edition (on Aug. 8). Ye’s official webstore also issued five additional explicit digital album variants on Wednesday (Aug. 7) and Thursday (Aug. 8), each containing the standard album’s 16 tracks, along with one exclusive studio bonus track per album. All digital albums on Ye’s webstore sold for $5 each. The Vultures 2 album, both clean and explicit, was also discounted to $4.99 in the iTunes Store in the tracking week.

『Vultures 2』の初週セールスは、広く入手可能な通常版、そしてクリーンエディション(8月8日リリース)の両方が入手可能であったことが寄与した形です。また、イェーの公式ホームページでは8月7日および8日に、スタンダードアルバムの16曲と各アルバムにつき1曲のエクスクルーシブなスタジオ(録音の)ボーナストラックを収録した、5種類のデラックスエディションをデジタルにて追加発売しています。イェーの公式ホームページではすべてのデジタルアルバムがそれぞれ5ドルにて販売。またiTunes Storeではアルバム『Vultures 2』のオリジナル(エクスプリシット)バージョンおよびクリーンバージョンの双方が、当週の集計期間中は4.99ドルにてディスカウント販売されていました。

(※DeepL翻訳をベースに、一部表現を修正しています。)

つまり、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』そしてイェー & タイ・ダラー・サイン『Vultures 2』の双方において、複数種リリース、週後半の追加投入、歌手の公式ホームページでの販売(強化)、そして安価販売が行われた形です。

 

 

今回の集計期間においては2作品共に、異なるボーナストラックを収めた4種をリリースしていますが、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』のリリースはイェー & タイ・ダラー・サイン『Vultures 2』の後だった模様です。

テイラー・スウィフトの新エディション投入を知った際、今回はライバルに勝るためのみならず別の意味も持つのではと考え、以下のポストを発信しています。

テイラー・スウィフトによるキム・カーダシアンへの批判については上記記事にて詳しく紹介されていますが、キムは既にイェー(カニエ・ウェスト)と別れています。テイラーがディスソングを今になって用意した理由は解りかねるものの、今回の施策投入(に伴う米ビルボードアルバムチャート制覇)を踏まえれば、首位を譲らないこと、その座を守ることでカニエ・ウェスト関連に勝りたいという思いが行動の背景にあると感じます。

 

ディスソングの意味等については、ケンドリック・ラマーとドレイクの対立、そして前者が後者を攻撃した「Not Like Us」のヒットを踏まえて以下のように記しました。

ディスは発し手のコアファンをより強力な味方とする一方、そのコアファンのみならず標的とした側を好まない者を強力なヘイターに仕立てる効果があります。そしてゴシップ好きな見学者(興味本位でその顛末を見てみたいという者)も増やすことでストリーミングの高水準につながったと捉えています。

周囲を強力な味方やヘイターに仕立てることからは、ディスの発し手が強力なストーリーをコアファンにもたらし、コアファンとの間でエンゲージメントを高める状況がみえてきます。他方、このことはストーリーに魅了された側の視野を狭くさせかねず、好きな歌手が誤った行動を採っていたとしても問題視しないことにもつながりかねません。最悪な事態が生じてしまう前に、コアファンこそ歯止めをかけることが必要でしょう。

ここでの"最悪な事態"とは歌手生命を絶たれる可能性がゼロではないだろうことを踏まえた表現であり、上記エントリー公開の半月前にはドレイク宅で銃撃事件が発生しています。こちらの記事に掲載された自宅と「Not Like Us」のジャケットの"共通点"から、曲の影響がゼロとは言い難いだろうというのが私見です。

そして『ストーリーに魅了された側の視野を狭くさせかねず』とも書きましたが、ライバルに首位を明け渡すまいと(ボーナストラックは異なるものの)デラックスエディションの購入を続けるコアファンは少なくないでしょう。それがコアファン自身の物理的疲弊につながる可能性もあると考えれば、歌手側が歯止めをかけること、そして音楽チャート管理者が実態に即したチャートポリシー(集計方法)にすることが必要と考えます。

無論これはテイラー・スウィフトだけではなく他のどの歌手に対しても提案すべきことですが、テイラー・スウィフトの影響力の大きさを踏まえれば、彼女ひとりが止めることで事態は大きく改善するはずです。