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ルミネイト、2024年上半期の米アルバム/楽曲動向を公開…主要チャートを確認する

現地時間の7月16日、ルミネイトが米における2024年上半期のアルバムおよび楽曲単位におけるデータを発表しました。

ポスト内リンク先からデータを取り寄せる必要がありますが米ビルボードでも記事になっていますので、今回はそちらを意訳する形で紹介します。

なお、今回の集計期間は2023年12月29日~2024年6月27日となります。これは米ビルボードによる2024年度年間チャートの集計期間(2023年10月13日以降)とは異なります。

 

ルミネイトは今年5月、ビルボードジャパンを運営する阪神コンテンツリンクとパートナーシップ契約を結んでいます。ルミネイトについては下記記事にて紹介されています。

世界200以上の国と地域の音楽デジタルデータを集計するルミネイトは、それらのデータを日本やアメリカなどのビルボードチャートに提供し、同チャートの重要な指標となっている。また、ルミネイトは法人向けにグローバルで音楽データを分析できるツール「LUMINATE」を提供しており、株式会社阪神コンテンツリンクは、本パートナーシップを通じて日本国内における同ツールの販売権を独占的に獲得した。

 

 

それでは、ルミネイトによる2024年上半期のデータをみてみます。

 

アルバム部門を制したのはテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』でした。今年4月19日にリリースされたこのアルバムが断トツのユニット数を獲得しています。

この"ユニット数"は米ビルボードアルバムチャートにおける計算方法と共通のもので、デジタル/フィジカルのアルバムセールスに加えて、単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)、およびストリーミングのアルバム換算分(SEA)が合算されます。TEAは10曲で1ユニットとして、またSEAは有料会員による再生が1,250回で、無料会員による再生およびビデオストリーミングは3,750回で、それぞれ1ユニットとして計算されます。

なお米ビルボードによるアルバムチャート、また今回のルミネイトにおけるアルバムの上半期動向において、ストリーミングには公式以外の動画で"歌ってみた"や"踊ってみた"に代表されるユーザー生成コンテンツ(UGC)によるストリーミング再生回数は含まれません。

テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』は2位のモーガン・ウォレン『One Thing At A Time』の2.6倍以上のユニット数を記録。内訳はアルバムセールスが247万、ストリーミングのアルバム換算分(SEA)が216万、および単曲ダウンロードのアルバム換算分が23,000となっています。なおSEAにおいては、デラックスバージョン収録の31曲におけるストリーミング総再生回数が28億2000万回を記録しています。

加えて、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』はデジタル/フィジカルのアルバムセールス、そしてフィジカルセールスのうちレコードのみにおいても、2位のビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』を大きく上回っています(前者は2.5倍以上、後者は6.2倍近く)。

 

2024年上半期において、アルバムの全ユニット数は5億2730万を記録。これは前年上半期(2022年12月30日~2023年6月29日 4億9110万ユニット)から7.4%上昇しています。なおルミネイトは今回の中間報告書にて計算方法の変更等を行ったこと等を掲載しています(詳細は記事原文をご参照ください)。

 

 

続いては楽曲部門。ルミネイトによる発表は米ビルボードソングチャートとは異なり、ストリーミング、ダウンロードおよびラジオの3つそれぞれの発表のみとなっています。

3つすべてにおいて、リミックス等別バージョンは合算されます。またストリーミングについては先述したアルバム部門とは異なり、ユーザー生成コンテンツ(UGC)を集計対象としています。このUGCは米ビルボードソングチャートや米ビルボードによるグローバルチャート、またビルボードジャパンソングチャートのストリーミング指標には含まれません。

ストリーミングを制したのはベンソン・ブーン「Beautiful Things」でした。2位のザック・ブライアン feat. ケイシー・マスグレイヴス「I Remember Everything」とは1140万回の差となっています。

2024年上半期においては前年同時期と比べて、ストリーミング再生回数は8%増加しています(2023年上半期は6165億回→2024年上半期は6658億回)。

(米ビルボードによるチャート専用Xアカウントではダウンロード部門のみポストが行われていないため、米ビルボードの記事よりキャプチャしたものを掲載。なお上記では"2023's"と記載されていますが、正しくは"2024's"です。)

ダウンロードを制したのはシャブージー「A Bar Song (Tipsy)」でした。こちらは2位のベンソン・ブーン「Beautiful Things」と19,000の差がついています。2024年度上半期は前年上半期に比べて10.9%減少しています(2023年上半期は6957万→2024年上半期は6196万)。

なおダウンロードについて、米ビルボードではフィジカルセールスも含みますがルミネイトのレポートでは言及がありません。ただし米ビルボードの記事ではシャブージー「A Bar Song (Tipsy)」にて『The top-selling digital song at the midyear point』と紹介していることから、おそらくはデジタルのみと思われます。

ラジオの単位はオーディエンスインプレッション(どのくらいのリスナーに曲が届いたか)であり、OA回数ではありません。2024年上半期はジャック・ハーロウが期間前にリリースした「Lovin On Me」が17億4300万を記録し首位に立っています。他方、昨年上半期を制したマイリー・サイラス「Flowers」は24億900万を記録していたことも記事にて紹介されています。

 

以上が今回の記事を意訳した内容となります。

 

 

最後に、楽曲部門における私見を記します。

 

ストリーミングでは、これまで強いと言われてきたヒップホップやR&B以上にカントリー、そしてロックテイストの強い作品が上位に進出してきている状況です。また黒人のシャブージーによるカントリー曲「A Bar Song (Tipsy)」が9位に入る等、発し手、受け手共にジャンルレスになってきたという印象があります。その中で、5月リリースのケンドリック・ラマー「Not Like Us」の6位到達はヒップホップの復権といえそうです。

 

ダウンロードはトム・マクドナルドが保守系政治評論家のベン・シャピーロと共演した「Facts」が8位に。銃規制やブラック・ライヴズ・マター等を断罪するという曲は米ビルボードソングチャートで16位に初登場を果たしています。実際、昨年は強固な保守派から支持を集めた曲が米ビルボードソングチャートを制する等の動きがあり、「Facts」はストリーミングも強くなれば同チャートトップ10入りの可能性もあったでしょう。

大統領選が行われること、また直近では暴力事件も発生した状況においては、群衆の熱量に伴いチャートを席巻する曲が今後登場するのではないかということを、昨年春のチャートアクションから想起しています。この点は注視する必要があります。

 

最後にラジオについて。こちらは2023年にヒットした曲も少なくなく、ストリーミングやダウンロードよりも動きが遅いといえるかもしれません。その中で今年「Espresso」や「Please Please Please」で大ブレイクを果たしたサブリナ・カーペンターによる、そのブレイク前にリリースした「Feather」が9位に入っていることは特筆すべきであり、ブレイクの萌芽は既に在ったということを思わせるに十分です。