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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンソングチャート、最新週におけるラジオ指標の傾向から感じたことについて

最新の7月3日公開分ビルボードジャパンソングチャートでは、ラジオ指標で興味深い動向が確認できます。

 

 

ラジオ指標を制したのはサザンオールスターズ「恋のブギウギナイト」でした。

7月3日公開分のビルボードジャパンソングチャートで12位に初登場した「恋のブギウギナイト」は、獲得した4475ポイントの半分以上がラジオ指標であることが上記CHART insightから解ります(同指標は黄緑で表示)。この指標は全国31のラジオ局におけるOA回数(プランテック調べ)を基に各局の聴取可能人口等を加味して算出されますが、元データの記事からは「恋のブギウギナイト」の人気がよく解ります。

7月期ドラマ「新宿野戦病院」の主題歌に決定している同曲は、デビュー記念日でもある6月25日の配信リリースに先行し、22日放送のJFN系列番組「桑田佳祐やさしい夜遊び」にて初解禁。その後、リリース日を迎え各局いっせいにオンエアが開始されると、結果、調査対象となる全FM/AM局でオンエアを獲得しての初登場首位となった。

オンエア総数は2位以下の1.3倍以上、また全国広範囲のFM/AM各局で確認されたリクエストオンエア数も下位のおよそ2倍と、今週ダントツで最も注目されての圧勝だ。今冬リリースが発表された9年ぶりのオリジナル・アルバムに向け、大きく狼煙を上げたかっこうだろう。

ラジオ指標はベテラン、そしてレギュラー番組を持つ歌手が強いことについては以前も紹介していますが(下記エントリー群参照)、今回もそれを踏襲した形といえます。

 

 

もうひとつ、ラジオ指標にて洋楽(K-POPを除く)が20位以内に6曲ランクインしていることにも注目です。

下記は第1~第3四半期におけるビルボードジャパンソングチャート、ラジオ指標上位20曲の推移。表において、K-POPを除く洋楽をオレンジ、男性アイドル/ダンスボーカルグループではSTARTO ENTERTAINMENT所属歌手(エージェント契約含む)を青、STARTO ENTERTAINMENT以外ではLDHを薄青、LDH以外を緑、K-POP男性アクトを紫でそれぞれ表示しています。

ラジオ指標20位以内における洋楽の占有率は当週が2月14日および6月12日公開分に並び2位タイの30%となっています。最も高いのは昨年12月27日公開分における40%ですが、これは集計期間がクリスマスイブまででありクリスマス関連曲が大挙上昇したため。またトップ10における占有率では当週が2月14日公開分と並び最多となる40%を獲得しています。

 

当週の上位進出曲には特徴がみられます。洋楽で2番目に高い位置につけたのは、2007年リリースのアヴリル・ラヴィーン「Girlfriend」でした。

アルバム『The Best Damn Thing』の先行曲で米ビルボードソングチャートを制覇、またたとえば『J-WAVE TOKIO HOT 100』(J-WAVE)で同年度年間2位に至ったこの曲は、アヴリルのベストアルバム『Greatest Hits』リリース(6月21日)に合わせて上位進出を果たしています。『多数番組にてアルバム特集やプレゼントキャンペーンが実施』されたことも上昇の背景にあると解ります(『』内は先述したプランテックの記事より)。

また当週はアリアナ・グランデ、ブランディ & モニカ「The Boy Is Mine」がラジオ指標12位に登場。ブランディとモニカによる米ビルボードソングチャートで13週首位を獲得した1998年リリース作品(YouTubeこちら)にアリアナ側が感化され制作した同名異曲に、そのブランディおよびモニカを招聘したのが今回上昇したバージョンであり、曲の後半には大ヒット版の片鱗も見て取れます。

(ちなみにアリアナ・グランデ、ブランディ & モニカ「The Boy Is Mine」の登場に伴い、弊ブログではプレイリストを作成しています。詳しくはアリアナ・グランデ版の源、ブランディ & モニカ「The Boy Is Mine」とその関連曲プレイリスト(6月26日付)をご参照ください。)

コールドプレイやサブリナ・カーペンター、そしてポスト・マローンがカントリージャンルに挑戦した新曲のランクインも注目すべきですが、2000年代の人気曲が再度上昇、またアリアナ単独のオリジナル版ではなくブランディとモニカを迎えたバージョンがトップ20入りしたラジオ指標(そして元となるOAチャート)からは、ラジオ局の回顧という傾向(志向)も見えてくると感じています。

 

 

さて、ラジオ指標で好調な作品は、一方ではストリーミング指標と差が生じている状況です。

サザンオールスターズ「恋のブギウギナイト」は当週ストリーミングが300位以内に入らずこの指標が加点されていません。なお、この指標はCHART insightにて青で表示されています。

サザンオールスターズ「恋のブギウギナイト」は主題歌に起用されたドラマの放送開始日(7月3日)ではなく、自身のデビュー記念日に解禁日を設定。映像作品タイアップ曲の大半が作品の放送や公開タイミングにリリース日を沿わせる現在の傾向とは異なる動きです。歌手側の記念日は重要ながら、今回のリリース日設定がコアファンと(ストリーミング指標を主に支える)ライト層との乖離につながった可能性もあるかもしれません。

また、ラジオ指標でトップ20入りした洋楽のうち、サブリナ・カーペンター「Please Please Please」以外はストリーミング指標が未加点であり、その「Please Please Please」も同指標100位未満の状況です。

 

社会的ヒット曲の最大のポイント源であるストリーミング指標をどう獲得するかが洋楽においても問われているというのは以前からの課題ですが、これは同時にラジオ局の課題でもあると捉えています。レコード会社のプロモーション媒体的役割を担うこと、ベテランの作品や過去のヒット曲を推すことと並行して、局側が心から素晴らしいと思う曲を流布し社会的ヒットに至らせんとする自負を高める必要があるとも感じています。

またOA曲のサブスクプレイリスト化を徹底し、ラジオリスナーの追体験という流れを作ることも必要と考えます。この提案を記したエントリーを再度掲載し、状況の変化を願っています。