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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

”洋楽が聴かれない”問題解決にも有効…日本の音楽作品のフィジカル金曜リリースを提案する

ビルボードジャパンが先月発表したコラムは、日本でK-POPを除く洋楽が聴かれなくなったことをデータで証明したといえるかもしれません。

これには音楽ジャーナリストの柴那典さんも『マジで英米の音楽に対しての興味が急激に減退しているのだな…』と反応されています(ポストはこちら)。事実、今年度のソングチャート(集計期間:2023年12月6日~2024年5月29日公開分)において1週でも100位以内にエントリーしたK-POP以外の洋楽に範囲を限っても、ランクインは10曲という状況です。K-POP歌手に客演参加した歌手の登場分を含めても14曲にとどまります。

 

他方、アルバムチャートでは今年度、トップ10入りしたK-POP以外の洋楽がみられます。ソングチャートではマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」のみがトップ10入りしており、その状況に比べれば好いといえるかもしれません。

たとえば世界的に大ヒットしたテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』は、4月24日公開分ビルボードジャパンアルバムチャートで5位に初登場して以降3週連続でトップ10入り。またビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』は5月22日公開分にて15位に初登場、総合ではトップ10入りを逃すもののダウンロード指標では8位に入っています。

しかしながら、これら作品は順位をもっと上げることができたのではと考えます。K-POPを除く洋楽は基本的に金曜リリースが多く、海外の音楽チャートも金曜が集計期間初日となっています。仮に日本の音楽チャートが海外にチャートポリシーを合わせ月曜を集計開始とすれば、K-POPを除く洋楽はチャート上で少しでも高い位置に登場して聴かれていることが可視化、またチャートを経由して聴かれるようになると思うのです。

(ちなみに先述したアルバムの国内盤リリース日はテイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』が4月20日土曜(実際のリリース日は4月19日金曜)、ビリー・アイリッシュ『Hit Me Hard And Soft』が5月17日金曜(実際も同日)となります。)

 

K-POPを除く洋楽の金曜リリースと海外の音楽チャートの金曜集計開始は相関関係にあり、同様に日本でのフィジカル水曜リリースと音楽チャート月曜集計開始が相関関係にあるといえます。後者についてはオリコンチャート - Wikipediaにおける集計方法欄にて記載されていますが、ビルボードジャパンの認知度が高まりデジタル時代となった現在でもフィジカルセールスに準ずる集計期間のままであることに疑問を抱きます。

 

 

日本の音楽業界におけるフィジカルリリースについて様々な声が出ていることも考慮し、このブログエントリーでは【日本の音楽作品のフィジカルリリースは金曜すべき】と提案します。

 

<日本の音楽作品のフィジカルリリースを金曜にすべきと考える理由>

 

① (K-POPを除く)洋楽が日本の作品と同時リリースされ、洋楽人気が高まる可能性がある

これは冒頭で触れた通りであり、ソングチャートにおいても人気が高まる可能性は十分考えられます。そしてこの変化は、日本の歌手の海外展開にもプラスに作用します。

 

② 日本とグローバル双方のチャートで施策をまとめることができ、上位進出が狙える

海外の音楽作品は基本的に金曜がリリース日であり、フィジカルは歌手のホームページでも販売されることが一般的です(なおフィジカルセールスは米ビルボードソングチャートではカウント対象となる一方、米ビルボードによるグローバルチャートでは加算対象外に)。一方で日本は水曜のフィジカルリリースが標準であり、デジタルリリースもそれに合わせることが多い状況です。グローバルチャートの概要は下記にまとめています。

日本では月曜のデジタルリリースが近年増えていますが、これはビルボードジャパンソングチャートをはじめとする日本のチャートで月曜集計開始が一般的であり、初週1週間フル加算に伴い上位進出を狙えるため。他方、海外のチャートは金曜集計開始が大半です。デジタルリリースは海外リリースとほぼイコールであるため、日本と海外の双方で初週の上位進出を狙う際には異なる施策を組まざるを得ないというのが現状です。

外市場は日本の数十倍あること等を踏まえれば、日本の音楽作品も金曜にリリースすべきと考えます。しかし日本のチャートでの好成績を逃しかねないという懸念から踏み出せない歌手は多いことでしょう。ならば、ビルボードジャパンが金曜を集計期間初日に設定すれば事態は大きく改善すると考えます。

 

ビルボードジャパンがグローバルチャートに集計方法を沿わせ、音楽業界を刺激する

ビルボードジャパンより長い歴史を持つオリコンでも月曜が集計期間初日に設定されていますが、これはフィジカルシングルのリリースと合わせていることが下記リンク先からも読み取れます。

しかしビルボードジャパンソングチャートはオリコンの合算シングルランキングと異なり、フィジカルセールス指標において一定枚数(当初30万以上だった枚数は現在では5万と推定)以上の週間セールスに2017年以降係数処理を適用。それにより、この指標の重要度は下がっています。実際、近年の年間ソングチャートは多くの方が納得いくものとなっているはずです。

またビルボードジャパンは昨秋Global Japan Songs Excl. Japanチャートを新設しましたが、これはグローバルチャートのひとつであるGlobal 200を基礎としており、金曜が集計期間初日となります。日本の音楽の海外人気の可視化等、世界に視野を拡げるのを目的に設立したならばGlobal 200の紹介が必要だと考えると共に、日本のチャートもグローバルチャートに倣ったチャートポリシー(集計方法)に変更する必要があるでしょう。

集計期間初日の設定とフィジカルリリース日が相関関係にあるならば、ビルボードジャパンの変化がフィジカルセールスの発売曜日を動かす可能性はゼロではないはずです。ビルボードジャパンの影響力が高まっていることを踏まえれば、ビルボードジャパン側が率先して決断することは必要だと考えます。

 

ビルボードジャパンが決断に至った場合にはチャート発表日を水曜から移動する必要が生じますが、ならば月曜の発表を勧めます。最善はオリコンが徹底しているような午前4時の発表ですが、そうなると出勤曜日の変更等も必要となります。ゆえに月曜夕方に定時で一斉発表し、火曜4時にフィジカルセールスのランキングを発表するオリコンより前にアナウンスすることが好いでしょう。

 

④ 週末のリリースにより、フィジカル取扱店舗の来客増加を見込める

CDを中心とするフィジカル取扱店舗は減少、また縮小していますが、今年リニューアルしたSHIBUYA TSUTAYAの存在が、同チェーンに限らず店舗運営における大きな指針を示すのではと考えます。

生活者はただ店頭に並んだコンテンツに出合いたいのではなく、体験を通じて共感し、その結果として消費行動に移りたい。そんな姿へと価値観が変化していく事実に気づいたという。

(中略)

そこで、コンテンツを主語に何らかの体験ができることこそが、リテールビジネスの未来だと考えたのだという。その仮説に基づいてフロア設計に落とし込んだ結果こそが、SHIBUYA TSUTAYAというわけだ。

来店動機の主体がイベントにシフトし、来店した音楽ファンにイベントを介してフィジカルを手に取ってもらうことが今後における最善の流れとなるでしょう。イベントは土日の開催が多いものと思われますが、イベント開催直前にフィジカルがリリースされたならばその作品そしてイベント自体もより注目されていくのではないでしょうか。

 

⑤ レンタル解禁日をずらし、フィジカルセールス初週売上を高めることができる

レンタルは基本的にフィジカルセールスの3日後の土曜にシングル、17日後の土曜に一部シングルとアルバムの解禁日が設定されています。金曜がフィジカルリリース日となればその翌日のレンタル解禁は不自然となり、8日後の土曜に解禁日を延期することで金曜開始のチャートにおいてレンタルの影響は登場2週目以降にずれます。取扱店舗は減っていますが、購入を迷う方に対しそれを促す形への解禁日設定に成ると考えます。

 

 

以上の5つの理由から、フィジカルセールスを金曜リリースにすることを提案します。

 

 

日本の音楽業界におけるビジネスモデルは未だフィジカルセールスに頼っているとの見方がありますが、フィジカルセールスは極端な施策こそ減るとしても無くなることはないでしょう。むしろ海外ではフィジカル需要(の喚起)が高まっており、テイラー・スウィフト『The Tortured Poets Department』は米ビルボードアルバムチャートで初週記録した261万ユニット(5月4日付)のうち164万がフィジカルセールスによるものです。

米においても極端なフィジカル関連施策が行わていることには注視する必要がありますが、過度な施策に対し音楽チャート管理者が反映をきちんと抑えることができるならば、そしてチャートの見方をきちんと説明するならば、フィジカルへの依存という見方は減るのではと捉えています。米ビルボードによるグローバルチャートにおいてフィジカルセールスは加算対象外であることを説明するだけでも、考え方は変わるでしょう。

 

今回の提案は以前から、このブログや寄稿したコラムでも行っているものです。近年は海外でライブを開催する歌手も増えていますが、その多くは米ビルボードのグローバルチャート(2020年秋の新設以前は各サブスクサービスのグローバルチャート)でランクインした実績があります。日本主体の人気でもグローバルチャートに登場できますが、それが海外展開の足がかりになるならばランクインを目指さない手はないはずです。

 

グローバルでの活躍を意識する歌手やそれを願うファンダムも増えた今、日本の音楽業界や音楽チャート管理者が一度議論することを心から願います。