イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

K-POPにおける外国語版同時リリースは主流になるかを考え、日本でも活かせる可能性を提案する

K-POPの新たな動きと言えそうです。

HYBEの新プロジェクト、MIDNATTによるデビュー曲「Masquerade」が今週リリース。6つの言語版が同時に公開されています。

(上記動画は設定画面にて言語を設定可能。)

6つの言語をまとめたEPにて、最初に収録されているのは英語版。これひとつとっても、K-POPの新たな打ち出し方がみえてくるようです。

 

今回のMIDNATT「Masquerade」における施策は、K-POPにとって大きな潮流の変化に成り得ると感じています。K-POPアクトが日本でリリースする際には日本独自の作品を用意する傾向だったものが、最近では韓国やグローバルでヒットした曲の日本語版をシングルに据えることが主流になったと感じていました。これは本日日本デビューしたBilllieや、昨日日本デビューがアナウンスされたCRAVITYにおいても同様です。

 

「Groovy」は今年3月に韓国でリリースされた楽曲。日本デビューシングルには同曲の日本語バージョンと、カップリングとして初の日本オリジナル楽曲「I Can't Fight The Feeling」が収録される。

(上記は韓国語バージョン。)

韓国やグローバルでヒットした曲の日本語版を日本向けシングル(の表題曲)に据える傾向にシフトした理由は様々考えられますが、しかしこれまでは日本語版のリリースまでにタイムラグが生じていました。MIDNATT「Masquerade」にてそれがなくなったことで、K-POPは新たなフェーズに入る予感がします。

 

ただそれが主流になるならば、日本向けシングルにおけるフィジカルセールスの小さくなさを踏まえれば日本のレコード会社があまり好意的に受け止めないのではと考えます。またK-POPアクトならびに韓国エンタテインメント業界全体が活動をグローバル主体に見据え、日本での活動に重きを置かなくなる可能性も考えられます。

この点について、FIFTY FIFTY「Cupid」の世界的なヒットがK-POPのスタンスや潮流を変える大きな一助になるかもしれないと感じています。この曲については英メディアでの分析を踏まえたエントリーを以前アップしています(英でFIFTY FIFTY「Cupid」がK-POP女性グループ初のトップ10入り…英メディアが語るヒットの理由、そして私見(5月8日付)参照)。

(上記は韓国語によるオリジナルバージョンのミュージックビデオ、および英語版(Twin Ver.)のリリックビデオ。)

FIFTY FIFTY「Cupid」は英語版、そして英語版の"Sped Up (スピードアップバージョン)"をリリースしたことが功を奏し、米ビルボードによるグローバルチャートでは最新5月20日付にてGlobal 200で5→3位、Global 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.では6→2位に上昇しています。

K-POPにおいてはBTSやBLACKPINK等がグローバルチャートにおいて初週好位置にて初登場し、後にダウンする傾向が主流でした。第4世代女性ダンスボーカルグループの作品以降は接触指標を中心にロングヒットする傾向に変化していますが、FIFTY FIFTY「Cupid」はその中で特筆すべき動向を示し、英語版が大きく寄与しています。尤も英語版は後からのリリースでしたが、今後は同時リリースが主流に成るかもしれません。

 

FIFTY FIFTY「Cupid」を紹介したエントリーでも書きましたが、以前TOKIONに寄稿した際に記した認識の一部を改める必要があるのではと、「Cupid」のさらなる上昇を踏まえて感じています。

自分が過去に寄稿したTOKIONのコラムでは、グローバルチャートに多言語の曲がランクインしている状況を踏まえて英語版は必ずしも用意する必要はないと書きました。その分、たとえば藤井風「死ぬのがいいわ」やimase「NIGHT DANCER」におけるユニバーサルミュージック現地法人の取組のように、様々な言語でフォローアップすることにて補えるというのが自分の認識でした。

英語詞版を絶対に用意しなければならないとは今も考えていませんが、FIFTY FIFTY「Cupid」ではTwin Ver.の人気がオリジナルの韓国語版より高いことを踏まえれば、外国語によるポップスに対し抵抗感を強く抱く国や地域はイギリス以外でも少なくないかもしれません。グローバルを市場と見据えるならば、英語版の用意は前向きに考えたほうがいいのではなと感じた次第です。

そして同時に、そのリリースは早いほうが、もっといえば同時に行ったほうがいいとも思い至っています。ゆえに、冒頭で紹介したHYBE発のMIDNATT「Masquerade」はその最良の形と言えるかもしれないのです。

 

 

ならばこの最良の形を、日本でも活かせるのではと考えます。とりわけ世界規模での活躍を目指し海外を見据えた歌手においては、日本語版と(少なくとも)英語版の双方を用意することが有効でしょう。

多言語版の用意は音楽チャートにおいても有効です。米ビルボードによるグローバルチャートや米ビルボードのソングチャートではリミックスも含め合算対象となります。またビルボードジャパンにおいても言語のみが異なる場合は合算されるチャートポリシー(集計方法)となっています。

たとえば、グローバルヒットを生んだプロデューサーと組んだTravis Japanの新曲「Moving Pieces」は前作「JUST DANCE!」同様英語詞となっています。今回は前作とは異なりリミックス版が同時リリースされていないこと等からグローバルチャートでの200位以内登場は難しいかもしれませんが(Travis Japanの新曲「Moving Pieces」、リリース日からみえてくる施策の転換について考える(5月1日付)参照)、仮に日本語バージョンも用意すればチャートアクション等も変わっていくかもしれません。

 

 

K-POPアクトが今後多言語でのリリースを主流とするようになれば、日本デビューの重要度は下がるかもしれません。無論日本のレコード会社等の売上にも影響はしますが、ならば日本の歌手の多言語展開を積極的に実施し、日本の歌手をグローバルに売り出す方向にシフトしていいのではないでしょうか。デジタル主流の今、音楽市場は世界に、数十倍に拡大しています。また必ずしもフィジカルを用意しなくてよいのです。

仮に多言語で展開を実施すれば、日本の音楽ファンやリスナーが海外の作品により馴染むようになり、洋楽を意識するきっかけになる可能性もあります。また日本の音楽チャートも海外を見据えたものに変化するかもしれません(し、個人的には以前からそれを唱えており、望んでいます。提案内容は音楽業界・エンタテインメント業界への改善提案 (2023年版)(1月9日付)で記しています)。いち早く動く歌手は誰か、注目していきます。