イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ジャニーズ事務所の姿勢転換とそれまでのメディアによる”報じないこと”の問題、音楽チャート面を主体に私見を記す

昨夜、故ジャニー喜多川氏による性加害問題に対しジャニーズ事務所側が動きました。

世間の反応はかなり厳しいものと感じますが、昨夜が当該事務所そして日本のエンタテインメント業界全体を健全化に至らせる(ようやくの)スタート地点に成るものとも捉えています。そしてこの問題を一斉に報じたメディアにとっても同様と考えます。厳しい物言いですが、この変化は"今になって" "堰を切ったように"と言われてもおかしくないと考えます。

 

BBCのドキュメンタリー番組放送以降、浮かび上がったのはメディアの不条理な対応でした。被害者の告発会見は地上波テレビ局でほぼスルーされています。そもそも、裁判内容がきちんと報じられていたならばジャニーズ事務所に入る方は減り、事務所側がジャニー喜多川氏を要職から外し自浄に動いただろうと考えるに、メディアも間接的加害者ではないかと考えるのは決して大げさではないはずです。

メディアが報じない理由は、ジャニーズ事務所と良好な関係を続けんとする姿勢が背景にあると言えるでしょう。所属タレントを今後起用できなくなり視聴率や部数等数字の面で不利になりかねないという、いわば保身を優先すると考えるのは、多くの有識者による見解と共通しているはずです。

メディアによる報道は冷静客観的に行われ、また他ジャンルの番組と切り離される必要があります。しかしメディア全体の保身や忖度が背景にあることが昨夜までの”報じないこと”で証明されたと言えるでしょう。社会に問題を提示し改善するという報道の最低限たる意志があれば、それとこれとは話が別という考えに基づき動くはずでした。

 

そしてこの”報じないこと”こそ、このブログでジャニーズ事務所に関連した音楽問題を語る際に伝えてきた問題と通底しているのではないでしょうか。

今回ジャニーズ事務所側が声明を発表したことで、ジャニーズ事務所ならびにメディアが良い方向に動くかを注視する必要があります。そして音楽業界における問題とは何かを今一度記します。

 

 

音楽業界におけるジャニーズ事務所の立ち位置は独特のものです。時代に応じた聴かれ方を導入せず、改善の声に応えず、昔ながらのメディアと良好な関係を続けることでその地位を保っています。”報じないこと”と同種の手法を用いてライバルを排し、その姿勢を自己保身を優先するメディアが批判しないことが、当該事務所の立ち位置を悪い意味で独特なものにさせた根底にあるものだと考えます。

 

ライバルの中にはジャニーズ事務所を離れた方も含まれますが、離れた直後から露出を続けているのは元SMAP中居正広さんくらいでしょう。中居さんは辞めるまでに様々な手筈を整えたことが今につながっているだろうとして、本来はそのような環境整備がないとしても出演が極度に減ることは不自然です。

加えて、ジャニーズ事務所所属歌手のライバルと形容可能な男性ダンスボーカルグループやアイドルのメディア露出の少なさも問題です。DISH//までは曲のヒットからある程度時間が経ったとしても後に音楽番組に出演できましたが、「CITRUS」が日本レコード大賞を受賞したDa-iCEや「Bye-Good-Bye」がヒットし紅白出場を果たしたBE:FIRST等は今も『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に出演できないままです。

彼らは『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)では出演が叶っているものの、ジャニーズ事務所所属歌手と彼ら以外の男性ダンスボーカルグループが同じ画面に登場する機会はほぼありません。以前VTRにBE:FIRSTが登場した際ワイプに映ったなにわ男子の道枝駿佑さんが「Bye-Good-Bye」を口ずさんでいましたが(→こちら)、その後はジャニーズ以外の歌手のVTR登場時にジャニーズの歌手がワイプに登場しなくなっています。

そして『CDTVライブ!ライブ!』においてはTVerでの見逃し配信スタートから今年春まで、ジャニーズ事務所所属歌手の登場分を省いて公開を続けていました。これは当該事務所によるNGと捉えていますが、RealSoundによる番組スタッフへのインタビュー記事にも問題が(下記参照)。既存メディアのみならずネットメディアにおいても、ジャニーズ事務所側に忖度と言える態度を採っていたと捉えられてもおかしくないでしょう。

 

 

そして音楽作品においては、大半のジャニーズ事務所所属歌手が未だサブスクを解禁していません。ミュージックビデオにおいても、YouTubeでの公開は新曲のほとんどがショートバージョンとなっています。この点について、少年隊の錦織一清さんによる発言から見えてくるものがあります。

本音を言うね。サブスクで、「いつか聞けるようになるんだったら、早くしたほうがいい」というのが僕の考え。ずっと前から思ってました。家でデスクトップのパソコンを触ってるときからね。オフィシャルのホームページとかさ。やればいいのにって。実際、事務所に言ったこともあります。でも上層部の「うちのファンの子たちはパソコンなんか持ってない」の一蹴で終わっちゃった。

この上層部が誰を指すかは分かりかねますが、サブスクはスマートフォンでもチェックできること(パソコン利用者より圧倒的に多いでしょう)を踏まえれば上層部の認識は偏ったものですが、その認識が優先され話が通らないことが今回明らかになりました。この姿勢は告発会見後の通り一遍と思われておかしくないコメント発信と共通したものと感じています。

 

YouTubeでの短尺版動画の発信やサブスク未解禁へのこだわりは、たとえばフィジカルセールスを絶対とする考えも根底にあるものと考えますが、そのセールスのみもしくはセールス主体のランキングが設計思想をブラッシュアップしないにもかかわらず大きな存在として認識され続けていることも問題ではないでしょうか。

そして、オリコンCDTVオリジナルランキングがフィジカルセールス指標のウエイトに重きを置く理由も考えないといけません。(中略) 社会的ヒットと乖離してもフィジカルセールスにこだわることの理由、また合算ランキングの設計等における管理者としての意志を知りたいところです。

オリコンの合算シングルランキングや『CDTVライブ!ライブ!』のオリジナルランキングでは、フィジカルセールスに強ければデジタルが弱くとも、もっといえばデジタル未解禁でも週間ランキングを制することが可能です。ビルボードジャパンより知名度が高いと思しきこれらランキングが変わらないために、ジャニーズ事務所側もまた意識して変わろうとしないのかもしれません。

音楽チャートが真の社会的ヒット曲を示す鑑と自負するならば、チャート運営側はビルボードジャパンのように時代に即した購入や接触を踏襲したチャートを目指すべきです。フィジカルセールスのウエイトが大きい音楽チャートが変われば好位置への進出は約束されず、歌手側がデジタル解禁も含め模索するようになるでしょう。それが生まれないのは、厳しい表現ですがチャート管理者の怠慢と言っても過言ではありません。

オリコンは雑誌発刊時代にジャニーズ事務所所属歌手を多く表紙に起用したことも、連綿と続く良好な関係性の一因と考えます(上記参照)。フィジカルセールス一辺倒の音楽ランキングが社会的ヒット曲と乖離を拡げる今でも合算ランキングを優先しない等の措置を取り続けているならば、両者の忖度や保身ゆえと思われておかしくないはずです。

ジャニーズ事務所所属歌手の大半がデジタル未解禁に徹するのは、メディアが批判しないことも大きな理由と考えます。しかしそのメディアが辞めた方やライバルを同列に並べない以上、彼らに客観的な視点を持って批判し改善を求めることを望むのは難しいでしょう。健全な批判がないことで競争という意識が生まれず、自分が勝てるところでだけ勝てればいいという不健全な意識を醸成してしまったものと考えます。

 

それが、昨日のジャニーズ事務所側の動画公開等によりメディアにおいても報道せざるを得なくなった状況に成ったと言えます。メディアもまた変わるかどうかの岐路に立ったことになり、健全化は急務です。

 

 

さて、ジャニーズ事務所所属歌手はデジタル等を模索していると感じています。

YouTubeでは二宮和也さん等によるユニット、ジャにのちゃんねるの存在が大きいでしょう。ジャニーズ事務所所属歌手以外とのコラボレーションは多くはありませんが、動画配信に積極的な姿勢はジャニーズ事務所の中で新鮮と思われたことは間違いありません。

サブスクにおいてはベテラン歌手を中心にサブスク解禁する歌手が増えていることのみならず、Travis Japanは米キャピトル・レコードより昨秋配信デビューを飾っています。勿論、デビュー曲の「JUST DANCE!」のミュージックビデオはフルバージョンで公開されており、本日リリースされたセカンドシングル「Moving Pieces」のミュージックビデオは今夜解禁。こちらもまたフルバージョンでの公開と思われます。

そのTravis Japanにおいては、INIと同じイベントに登場したタイミングでSNSに彼らとのコラボレーション動画や写真を公開。これはINIの田島将吾さんがかつてジャニーズ事務所所属だったことも要因と考えますが、そもそもジャニーズ事務所所属歌手においてはK-POPLDHを除き、ライバルと称される他事務所のダンスボーカルグループやアイドルと共演すること自体ほぼないため、メディア等では”奇跡”と形容されています。

@travisjapan_capitol #INI さんと一緒にピロブンダンス踊らさせていただきました🐯🕺✨ @official__ini #FVILLAGESTARTINGLIVE #JUSTDANCE #TravisJapan ♬ JUST DANCE! - Pirobun Dance Version - Travis Japan

ただ、Travis JapanとINIのコラボレーションに関する記事をいくつか見たものの、田島さんのかつての所属先に関する言及は見当たらず、その点にもメディアの姿勢を感じてしまいます。元来それをタブーとする過度な慣例に従うこと自体問題であり、たとえばその空気を変えようとしているSKY-HIさん(BE:FIRSTやMAZZELを輩出)の存在は、今のエンタテインメント業界になくてはならないとあらためて実感しています。

SKY-HIは本日1月19日に記者会見を実施。プロジェクトの概要を発表するとともに、「所属しているコミュニティ以外とのコミュニケーションが何かタブーであるかのような、あってはいけないかのような空気があったかと思うんですが、そういったものをなくしていこうと。こういう時代に、同じものが好きな人たちが集まっているんですから」(中略) とこれまで自身が感じてきた問題意識に言及し、「垣根のないもの、鍵のかかっていない部屋を私たちが作っております。できる限り多くの、すべての事務所の皆さんと一緒にできたらなと思っています」と呼びかけた。

 

デジタルへの前向きな姿勢はジャニーズ事務所所属歌手のみならず事務所全体からも感じられるものです。社長が顔出しして会見すること自体が(その内容等とは別に)デジタル時代に即したものであると感じるのみならず、たとえば『CDTVライブ!ライブ!』におけるパフォーマンス動画の対応の変化からもみえてきます。

CDTVライブ!ライブ!』では4月3日放送分以降、ジャニーズ事務所所属歌手によるパフォーマンス動画の見逃し配信が解禁されたのみならず、公開終了後に各歌手やレコード会社のYouTubeチャンネルでパフォーマンス動画が期間限定ながらも公開。テレビでの歌唱動画を放送局や番組ではなく歌手側のYouTubeアカウントで発信するのは日本ではほぼみられないことゆえ、十分な評価に値するものです。

ただ一方では、『CDTVライブ!ライブ!』の歌唱動画のYouTube公開についてジャニーズ事務所以外の歌手はできないのかとも感じています。仮に希望しながらできない事情があるのならば、それもまたジャニーズ事務所側とメディアとの過度なつながりと言える以上、所属芸能事務所に関係なくフラットに扱われなければなりません。このフラットという考えは昨日のエントリー(下記参照)と共通するものです。

 

 

このブログでこれまでジャニーズ事務所側に改善を求めた際、指摘の根拠やメディアの忖度等には証拠がないと言われたことがあります。しかし、たとえばDa-iCECITRUS」やBE:FIRST「Bye-Good-Bye」は時代に即して進化を続け真の社会的ヒット曲の鑑と成るビルボードジャパンソングチャートにおいてヒットしており、その客観的データの存在が『ミュージックステーション』に出ないことの不条理を証明していると言えます。

そして今回、BBCのドキュメンタリー番組や告発会見、昨夜までに一部メディアが追及姿勢(への転換)を見せたことがジャニーズ事務所側を動かすことになったものの、それまでのメディアにおける”報じないこと”の徹底はライバルを出さないことを当たり前とする手法と共通する姿勢と捉えて差し支えないでしょう。

不条理がまかり通る中にあって、ジャニーズ事務所内部の変化や報じ始めたメディアには最低限の敬意を払いつつ、しかしまだまだ変わらないのではという不信感は拭えません。それを踏まえ、外部に対し改善案を記します。

 

 

まずは海外メディアに対して。ジャニーズ事務所およびメディアを今後も監視し、厳しく批判することを願います。海外メディアと記したのは、たとえば政治に問題が多々あれど投票率が上がらない状況等を踏まえれば、どの分野においても日本の組織や個人に自浄等を求めるのは難しいのではと厳しくも考えるゆえ。日本の現状を知り、魅力が下がり旅行客等の減少につながれば、日本全体がそこで初めて焦りを覚えるでしょう。

ネットメディアには海外メディアと同種の役割を担いつつ、ドキュメンタリー番組放送から昨夜までどれだけのメディアが"報じない"姿勢だったかをまとめ、ネットを使わない方にも届きやすい場所にて提示することを願います。またジャニーズ事務所元所属歌手等の辞める前と辞めた後での露出の差もまとめるべきです。忖度や圧力は目に見えないものだとして、しかし客観的なデータはそれらを雄弁に語るものと成ります。

そして市井には、告発に臨んだ方や今回の問題をきちんと報じたメディアや個人についてきちんと称賛することを願います。それが彼らに正義を貫かせる勇気と成り、社会の健全化につながります(ただしそれを部数増加等にあきらかに利用するような、いわば自己保身に用いるメディアや個人の意図が確認されたならば、それは許さないと示すこともまた必要です)。声を出すことが有効と分かれば、他の分野でも活きていくはずです。

 

 

ジャニーズ事務所側が変わること、被害者のケアに務めると共にこのような事態が二度と起きないよう業界全体がルールを策定することを望みます。これら提案は、他の業界では極めて普通の願いであるはずです。そしてメディアにおいては客観的視線を持ちフラットになることを願います。事務所もメディアも、保身を捨てることが大前提です。

ジャニーズ事務所やメディアの態度の変化は所属歌手作品のデジタル解禁等、音楽業界においても良好な変化につながるでしょう。彼らが変わることではじめて、音楽業界やメディアを含む日本のエンタテインメント業界全体がグローバルに対し誇らしい態度でスタートラインに立てるものと考えます。それでも変わらないならば、それまでと言わざるを得ません。