イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

カラオケでの”年齢層の価値観や嗜好の違いが小さくなり歌える曲が増加傾向”の理由を、「サウダージ」を例に考える

4月27日に登場したこちらの記事が、音楽分析者の間で話題となっています。

この記事について、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦さんが記事公開の翌日に早速noteにて紹介しています。

そしてnoteのアップと同じ4月28日に徳力さんが実施したTwitterのスペース(音声配信)ではこの話題が議題となり、自分も飛び入りで参加してきました。今日は記事やスペース参加から考えたことについて、まとめてみます。

 

なお今回のエントリーは、徳力基彦さんのスペースに飛び入りで参加して得られた様々な気付きを基に記しています。徳力さんをはじめ皆さんに心から感謝申し上げます。

また徳力さんもスペースで気付いた内容をコラムにまとめ、開催の翌朝にYahoo! JAPANにて紹介されていますので是非ご覧ください。このブログエントリーで紹介した内容も取り上げてくださっています。

 

 

 

冒頭の記事で紹介された表を再掲。ここから、興味深い動向が見られます。

2021年から2022年にかけては3曲が減少しているため、年齢層の価値観等が小さくなるというタイトルに違和感を持つ方はいらっしゃるかもしれません。しかし2021年から2022年にかけての入れ替わりの中身が興味深いのです。

2022年に全年齢層のトップ200から外れた曲はOfficial髭男dism「Pretender」、菅田将暉まちがいさがし」、LiSA「紅蓮華」、Ado「うっせぇわ」、瑛人「香水」、King Gnu「白日」およびYOASOBI「群青」といった2019年以降リリース作品なのに対し、2021年には含まれず2022年に全年齢層のトップ200に入った曲はポルノグラフィティサウダージ」、秦基博ひまわりの約束」、Aimer「残響散歌」およびback number「水平線」の4曲。「ひまわりの約束」は2014年、「サウダージ」は2000年の曲であり、懐かしい作品も(再)エントリーしていることが解ります。

 

実はポルノグラフィティサウダージ」のカラオケにおける上昇はビルボードジャパンソングチャートで可視化されており、このブログでも以前取り上げました(下記参照)。そしてこの「サウダージ」が、カラオケにおける”年齢層の価値観や嗜好の違いが小さくなり歌える曲が増加傾向”という現象を強く表している曲ではと感じています。

 

ビルボードジャパンによるポルノグラフィティサウダージ」の、直近150週分におけるCHART insightを上記に。緑で示されるカラオケ指標において二度の山が生まれ、二度目のピークは今も続いていることが解ります。しかも最新4月26日公開分ではカラオケ指標で過去最高タイとなる5位につけているのです。

この最新チャートでは「サウダージ」以外にも、複数の過去曲がカラオケ指標で20位以内に入っています。

 

実はこのビルボードジャパンソングチャートの存在が、今回記事で紹介されたカラオケの現象に影響を与えたひとつの要因と捉えています。というわけでここからは自分なりに、現在発生しているカラオケの現象について考えられる理由を記載し、ポルノグラフィティサウダージ」の動向も合わせて紹介します。

 

 

<カラオケにおける世代間ギャップの縮小(世代間共有の拡大) 考えられる理由>

 

ビルボードジャパンソングチャートの登場と進化

ビルボードジャパンは2008年に複合指標に基づくソングチャートを開始し、時代に合わせて構成指標の増減や各指標の内容をブラッシュアップしています。カラオケ指標は2019年度に取り込みを開始しており、その理由については下記プレスリリース等で紹介されています。

そしてこのブログで幾度も記しているように、ビルボードジャパンが日本の音楽チャートにおいて社会的ヒット曲の鑑となっています。

この”鑑”化に大きく貢献したのは2017年度の変革でした。ビルボードジャパンはフィジカルセールス指標において売上枚数をダイレクトに加算せず一定以上の売上枚数に係数処理を適用する形に集計方法を変更、その後段階的に適用対象枚数を引き下げたことで、デジタルヒットの年間のみならず週間チャートにおけるヒットを可視化。昨日紹介したYOASOBI「アイドル」の各音楽チャートにおける順位差は、まさにその表れです。

このビルボードジャパンソングチャートの認知や信頼度の上昇と、カラオケの現象がリンクするというのが私見。昨年度の年間ソングチャートは下記エントリーで解説していますが、特に2017年度以降はロングヒット作品が目立っています。これはロングヒット曲において獲得ポイントの多くを占めるストリーミングや動画再生といった接触指標群の存在が大きく、サブスクやYouTubeがヒット曲を一段高い位置へ押し上げています。

サブスクは過去曲もヒットする傾向にあるのみならず、日本においてはチャートや新曲等をまとめたプレイリストの存在が曲のヒットにつながりやすいのも特徴です(下記エントリー参照)。海外に比べて新曲がリリース当日から聴かれにくい状況は改善の必要があると考えますが、言い換えれば多くの方に支持される曲を長く聴く傾向にあり、それがロングヒット化やカラオケ人気曲の世代間共有にもつながっているものと考えます。

ゆえにデジタルをきちんと解禁し、接触可能な環境を整備することが重要となります。

 

ポルノグラフィティサウダージ」においてはサブスクを解禁し、デジタル環境を整備。また先程紹介したフルサイズのミュージックビデオは2021年秋に期間限定と銘打って公開されましたが、現在も視聴可能な状況です。仮にミュージックビデオの公開を終了していたならばここまでのヒットには至れなかったのではと考えます。

 

 

TikTokのムーブメント

TikTokが、曲の新旧や洋楽邦楽の別を問わずフックアップされる曲の多様化に貢献したことは間違いありません。TikTokの再生回数自体はビルボードジャパンソングチャートの構成指標に含まれないものの、YouTubeの動画再生やサブスク再生へと移行するという意味でも重要な存在です。加えて、後述するUGC(ユーザー生成コンテンツ)の代表的な発表の場であることも重要です。

 

ポルノグラフィティサウダージ」紹介のエントリーでは同曲がTikTokでもフックアップされたことを紹介しています。また当該エントリーではTikTokによる昨年の流行語大賞候補を紹介しましたが、楽曲関連が多いことに加えて過去曲の関連ワードが複数みられるのも特徴です。

 

 

③ テレビ番組の傾向の変化、およびYouTube動画の人気

ここ最近、過去曲や名曲と言われる作品がバラエティ番組で取り上げられる印象があります。『これが定番! 世代別ベストソング ミュージックジェネレーション』(フジテレビ)や『この歌詞が刺さった!グッとフレーズ』(TBS)は共に2021年から不定期特番が組まれてます。また『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ)はレギュラー化の1年半前、2020年の特番1回目で一音も外してはならないカラオケ企画が既に用意されていました。

最近では浜田雅功さんがMCを務める『オオカミ少年』(TBS)において、ふたつの世代が対抗する企画が多く登場しています。いわば『クイズ!年の差なんて』(1988-1994 フジテレビ)の現代版とも言えそうですが、各世代に人気の音楽がクイズに用いられているのも特徴です。これらはともすれば、カラオケバトル等YouTube動画の人気企画がアイデアの源泉になっているのかもしれません。

加えて地上波テレビ局の音楽番組ではレギュラー放送回を中心に、過去のランキングや名曲を取り上げたり、過去曲が上位に登場するアンケート企画等が用意されています。リアルタイム視聴率が(SNSでの注目度とは異なり)高くないことが背景にあるかもしれませんが、これらも音楽番組をチェックする方々(特に若年層)に過去曲を浸透させ、カラオケの世代間ギャップの解消に一役買ったものと思われます。

 

そしてそれら番組ではTHE FIRST TAKEの映像使用も少なくなく、そのチャンネルで人気を博したことでテレビに出演する歌手も少なくありません。昨年におけるnobodyknows+ココロオドル」はまさにその好例と言えますが、同曲は元々2004年にリリースされています。

このTHE FIRST TAKEにはポルノグラフィティも登場。「サウダージ」は2021年9月に公開されています。

サウダージ」におけるビルボードジャパンのCHART insightではカラオケ指標のピークが二度発生していると先程紹介しましたが、一度目のピークはこの動画が上昇の契機となっています。

 

 

④ ”歌ってみた”動画の定番化

③におけるカラオケ高得点企画に代表されるように歌の巧さがひとつのステータスと成り、同じ曲を楽しみつつ競うことがカラオケのひとつの楽しみ方として定番化したように思われます。歌唱指導動画の興隆も一助になっているのではないでしょうか。

加えて、ボカロ曲を中心に難解な曲を披露し動画化することも定番となっています。たとえば上記ツイートで紹介したTop User Generated Songsチャートでは最新4月26日公開分においてYOASOBI「アイドル」が2位に初登場。この曲では歌手側がインストゥルメンタル音源を配布しており、様々な歌ってみた動画の制作につながったものと考えます。

 

ポルノグラフィティサウダージ」においてはTop User Generated Songsチャートに登場せず、またTikTokでもそこまでの使用はみられない印象ですが、レコード会社側は昨年11月上旬に複数回この曲を用いた動画をTikTokに投稿し、曲の認知に努めています。下記動画が投稿されてから間もない昨年11月9日公開分のビルボードジャパンソングチャート、カラオケ指標では「サウダージ」が初となるトップ10入りを果たしています。

@sonymusicjpTikTokで話題の楽曲🎧✨#ポルノグラフィティ#サウダージ 」ストリーミングも1億回再生突破‼️🎊みんなも曲を使って投稿してみてね✨#おすすめ曲 ♬ Saudade - Porno Graffitti

 

 

⑤ 世代を超えた歌手の交流

優里さんやあいみょんさんのような懐かしさも感じさせる歌手の増加もさることながら、たとえば昨年にはKing Gnuの井口理さんとポルノグラフィティ岡野昭仁さんがBREIMENプロデュースによる「MELODY」で共演。その井口さんはラジオ番組でaikoさんと「カブトムシ」を披露したことも話題となりました(下記エントリー参照)。人気歌手が尊敬する方と共演することで、その共演者や曲の認知度が拡がるものと考えます。

この流れの醸成には音楽フェスの定番化、またコラボレーションが多い『FNS歌謡祭』(フジテレビ)の存在等も大きいと考えますが、その音楽フェスや音楽番組はコロナ禍において休止が増えた状況です。ともすればその間に歌手側がコラボを増やしたことも流れの加速につながったかもしれません。また巣ごもりを余儀なくされたことでサブスクユーザーや、また歌ってみた等の動画クリエイターも増えた可能性も考えられます。

なお『FNS歌謡祭』以外にも地上波テレビ局では『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)を含め様々な音楽特番が放送されますが、過去のヒット曲が披露される傾向は強いと言えます。ポルノグラフィティは昨夏、音楽特番や通常番組において新曲に加えて「アポロ」(1999)や「アゲハ蝶」(2001)、「メリッサ」(2003)といった代表曲を披露しています。

 

ちなみに”世代を超える”という点においては音楽以外の人気コンテンツも同様で、たとえば映画『THE FIRST SLAM DUNK』の大ヒットは記憶に新しいところです。そしてこれを機に、過去のテレビアニメで用いられた曲がカラオケで盛り上がっていることも付け加えておきます(一方でデジタル環境の未整備が勿体ないということも記します)。

 

 

以上、カラオケにおける世代間ギャップの縮小(世代間共有の拡大)について考えられる点を挙げてみましたが、如何でしょうか。ポルノグラフィティサウダージ」が現在カラオケでピークに達していることの証明になるものとも考えます。

他にも要因があれば紹介すると共に、ビルボードジャパンソングチャートのカラオケ指標で特筆すべき動きがあれば、そちらについても今後ブログで紹介していきます。