日本のサブスクサービスには様々な種類がありますが、各サービスの特性こそ異なりながら似た軌道を辿るヒット曲は少なくありません。しかし最近はその軌道が異なる事が増えてきたように思います。今回はSpotifyと他サービスとの差をメインに取り上げます。
先週火曜にリリースされた米津玄師「LADY」はリリースタイミングの巧さもあり、次回3月29日公開分のビルボードジャパンソングチャートを制する可能性は十分と感じていたのですが、サブスク動向を踏まえるに黄信号が灯ったと捉えています。Spotifyでは早くもトップ10入りした一方、LINE MUSICでは3月26日付で65位、Apple Musicでは3月27日5時時点の掲載分(おそらく3月25日付と思われます)で32位となっているのです。
「LADY」が使われた上記CMはYouTubeにアップされている一方、現段階で「LADY」の公式動画が米津玄師さんのアカウントから発信されていません。
日本レコード協会さんの定点調査によれば、日本の音楽聴取方法のトップはYouTubeで、22年の増加が顕著です。
— 徒然研究室✍🏻(仮称) (@tsurezure_lab) 2023年3月26日
こうしたデータからは、Spotifyデータだけから一般的な音楽聴取行動の実態をつかむことは少なくとも日本では簡単でないことが考えられます。 pic.twitter.com/L3EWzmQwsN
上記は各種データのまとめに長けた徒然研究室さんによるツイート(こちらのスレッドの一部となり、上記ツイートに続いて出典元も掲載されています)。日本ではSpotify以上にYouTubeの流動性が高いという視点を踏まえてのものですが、そのYouTubeで展開がみられないことが「LADY」のサブスク動向に影響している可能性は低くはないでしょう。LINE MUSICが他サービスより若年層が多く利用することを考えれば、尚の事です。
【先ヨミ】BiSH『Bye-Bye Show』27.9万枚で現在シングル1位 https://t.co/3enArzzE8V pic.twitter.com/K6B71fGtd3
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2023年3月23日
なお3月29日公開分のビルボードジャパンソングチャートにおいては、BiSHのラストシングル「Bye-Bye Show」が首位争いに名乗りを上げています。前フィジカルシングル「ZUTTO」の初週セールスは20,491枚(2022年12月28日公開分)であり、大きく伸ばした形です。なお最新のサブスクサービスではSpotify、LINE MUSICおよびApple Musicのいずれにおいても100位以内に入っていません。
さて、Spotifyで順位を上げている作品は他にもあります。
日本における3月25日付Spotifyデイリーチャート、100位以内の主な上昇曲。#ヤングスキニー「#本当はね、」 再生回数前日比108.0% 5→3位#きゃない「#バニラ」 同113.0% 59→55位#TaniYuuki「#運命」 同111.9% 101→84位#eill「#WEARE」 同109.5% 106→92位
— Kei (ブログ【イマオト】/ラジオ/ポッドキャスター) (@Kei_radio) 2023年3月26日
「バニラ」以外の3曲は最高位更新。
ヤングスキニー「本当はね、」はアルバム『歌にしてしまえば、どんなことでも許されると思っていた』の、きゃない「バニラ」はEP『星を越えて』の収録曲で、フィジカルは共に3月15日リリース。またTani Yuuki「運命」は3月29日リリースのアルバム『多面態』に収録されます。
LINE MUSICでは3月26日付において「本当はね、」が26位、「バニラ」が49位、「運命」が100位未満、Apple Musicでは3月27日5時時点の掲載分で「本当はね、」が56位、「バニラ」が88位、「運命」が100位未満となっており、特に「本当はね、」と「運命」のSpotifyでの上位進出が際立っている状況です。また3月15日にデジタルリリースされたeill「WE ARE」も、Spotifyのみ100位以内に登場しています。
たとえばeillさんはBE:FIRST「Betrayal Game」のソングライトの一員であり、そのBE:FIRSTがTikTokとSpotifyが共同でアーティストを応援するプログラム”Buzz Tracker”にて今月選ばれていることから、eillさんがフックアップされたということも考えられます。
とはいえそのeillさんによる「WE ARE」、そしてヤングスキニーやきゃないさんのアルバムおよびEPのリリースはいずれも3月15日であり、この時間差での上昇は気になります。現段階でこれらの曲が一堂に会する、且つ序盤に登場するプレイリストは見つかりません。影響力を持つプレイリストの存在がチャートにも波及することを考えれば、現段階で上昇の背景が見当たらないこれら作品の動きは非常に興味深いものがあります。
そしてスピッツ「チェリー」の動向にも注目です。
桜のシーズンになると伸びる「チェリー」については、Spotifyにおける動向を昨年のブログでも掲載していました。
今年は例年より早く桜が開花および満開になっています。一方で「チェリー」は満開時に昨年の順位を超えることはできていません。
東京の桜が満開になった3月22日は日本でワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝が生中継された日であり、再生回数は全般的に落ち込んでいます。ともすればWBCに桜の満開の話題が埋もれ気味になった可能性も考えられます。
加えて、今年日本で最も早く桜が咲いた東京では、開花から満開までの期間が8日となり、2020年以来の短さとなっています。この期間が長いほど順位面での上昇幅が大きいことが、Spotifyの動向からみえてくるのではないでしょうか。
なおスピッツ「チェリー」は各サブスクサービスの最新チャートにおいて、Spotifyでは72位の一方、LINE MUSICおよびApple Musicでは100位以内に入っていません。
今回取り上げた曲はいずれもSpotifyでの好調が目立ち、一方で他のサブスクサービスとは差が生じています。若年層の利用が多いLINE MUSICで流行がいち早く訪れる一方、Spotifyは保守的な動きをしがちだと以前このブログでは紹介しましたがその傾向が果たして正しいのか、時代とともに変わってはいないかを適宜見直す必要があると実感した次第です。
ただその一方で、Official髭男dism「Subtitle」のストリーミング再生回数に占めるSpotifyの割合が上昇し続けています(上記表参照)。他のサブスクサービスでも上位をキープしながら、再生回数には開きが生まれていることが推測されます。これはSpotifyの保守的な側面を示すと言えるかもしれません。