イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

音楽業界・エンタテインメント業界への改善提案 (2023年版)

これまでこのブログでは、音楽業界が良くなるための提案を記してきました。今回はその最新版となります。なおこれまでは音楽業界に限定した形で記載しましたが、音楽業界とエンタテインメント業界が密接につながっていることを踏まえ、広くエンタテインメント業界全体への改善提案という形でまとめます。

 

今回の提案については、半年前にTOKIONに寄稿したコラムが基軸となっています。

TOKIONへ寄稿したコラムではJ-POPが海外に通用する可能性について、実際には米ビルボードによるグローバルチャートにて既に実績があることを伝えた上で、J-POPがどうすればより高みに到達できるかを考えています。このグローバルチャートについては今年あらためてその概要を紹介し、またJ-POPの現状にも触れています。

新設から2年以上が経過したグローバルチャートにてJ-POPがK-POPに引き離されていることが、2021年度および2022年度の年間チャートを比較すると見えてきます。J-POPは音楽業界やエンタメ界全体が持つドメスティックさゆえに機会損失が生まれているというのが、厳しくも私見です。これを改善することでグローバルチャートでのランクインも、そして日本の業界自体も良くなるものと考えます。

インターネット時代にあっては、フィジカルを用意しなくともデジタルだけで海外進出が可能です。市場の大きさはドメスティックからグローバルに、数十倍にも拡がっています。グローバルチャートでさまざまな言語の作品がランクインする状況を踏まえれば、海外進出のために英語詞版を用意する必要はないでしょう。

自国での結果がグローバルチャートにも反映されると、世界の音楽ファンがそれを拾い上げ、さらなる人気を獲得する可能性があります。その機会を見事に生かしたのがBTSやBLACKPINK(ソロ曲を含む)と考えられます。音楽業界の環境整備や歌手およびコアファンのチャート意識も、プラスに作用したはずです。

対して、今もデジタル未解禁歌手が少なくなく、また過去音源のアーカイブ化もままならない日本の音楽環境は、大きな機会損失となってしまいかねません。グローバルチャートにJ-POPが登場したとして、未解禁曲が多くきちんとチェックできないと知った海外の音楽ファンがJ-POP全体に対し不信感を抱いてしまえば、グローバルチャートに登場したJ-POPのさらなる上昇は難しいでしょう。

音楽業界が総出で環境を改善すること、歌手やファンがチャートを知り積極的に動くことが重要です。そしてグローバルチャートの存在が広く伝わることを願ってやみません。

フィジカルや英語詞を用意せずとも、またJ-POPライクなメロディであっても、拠点を何処に置くかに関係なくデジタルリリースは世界配信とイコールと言えます。デジタルによって市場規模が十倍から数十倍に拡がったと言える状況にあって、ドメスティックにとどまることは勿体ないというのが私見です。日本を中心に活動したい方が多いだろうとして、わざわざ海外の音楽ファンを否定する発言を採る必要はないとも考えます。

 

 

それでは、具体的な改善提案を記載します。

 

音楽業界・エンタテインメント業界への改善提案 (2023年版)

 

① グローバルチャートの浸透と、ビルボードジャパン自体の認知度上昇

グローバルチャートの存在が広がっていないことについては、たとえばTravis Japanが「JUST DANCE!」でGlobal Excl. U.S.(Global 200から米の分を除く)最高5位を獲得しながらバラエティ番組で知らないと言われてしまうことに、顕著に表れています。そのやり取りがバラエティの流儀だろうことは承知で、しかしチャートの認知度が高ければそのようなイジりよりも素直に評価されることのほうが増えるのではないでしょうか。

認知度への疑問は、米ビルボードの複合指標方式にて2008年にソングチャートをスタートしたビルボードジャパンにおいても同様に抱いています。

上記は昨年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)出場歌手決定後、ビルボードジャパンのトップアーティストチャート(Artist 100)を用いて初出場歌手の妥当性を記したものですが、いただいた反応にはビルボードジャパンのチャートをあまり(もしくはほぼ)知らなかったというものが少なくありません。

ビルボードジャパンはチャートポリシー(集計方法)を時代に合わせて変更を続け、現在はこれまでになく社会的ヒットを示す鑑になったと感じています。ならば尚の事、ビルボードジャパンの名が未だ十分に浸透しないことは非常に勿体ないと思うのです。"日本における音楽チャートは"との問いに、市井の方々はおそらく今もオリコンを最上位に挙げるのではないでしょうか。

ビルボードジャパンがたとえば紅白の人選にも影響を及ぼしているならば、特番編成が多くないNHKで週報番組を、YouTubeチャンネルで速報を紹介するだけでも認知度は上昇するでしょう。そしてそのニーズはあるはずです。

 

ビルボードジャパンの"自問自答"意識の徹底と、チャートのグローバル化

ビルボードジャパンの音楽チャートが完璧かと言われれば、そうとはいえないというのが厳しくも私見。時代によって指標毎の影響度は変わり、チャートに多大な影響を与える施策が今後登場する可能性がゼロではない以上、時代に即したチャートポリシーの見つめ直しは常に問われ続けます(ゆえにチャートを絶賛することを、自分はためらいます)。ビルボードジャパンには、絶え間ない努力と自問自答とを願い続けています。

ビルボードジャパンに対する自問自答の姿勢への疑問は以前記しました。たとえばLINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)への対応が遅きに失したことや、その際の姿勢(デジタルプラットフォーム、歌手そしてコアファンをまず疑問視したこと)に対し、自問自答の精神が薄れてやいないかという違和感を抱いたことで、今後早急な対応ができるかには疑問を抱いています。

チャートポリシー変更提案については昨年秋に記載しましたが、今一度強く求めたいのが集計期間や合算のルールをグローバルチャートに沿わせること。水曜のフィジカル発売に合わせてビルボードジャパン等各種音楽チャートが月曜を集計期間初日とすることで、金曜集計開始のグローバルチャートと日本のチャートとの双方で初週に好成績を残したい歌手の戦略がどっちつかずになってしまうのは勿体ないことです。

日本市場だけでもグローバルチャートへのランクインは可能であり、また日本はダウンロード指標が大きいため初週の好位置登場が期待できます。日本のチャートを金曜起点とすれば日本でもグローバルチャートでも初週に好成績を収める方が増え、世界におけるJ-POPの認知度は飛躍することでしょう。そして集計期間の金曜開始は、フィジカル以上にデジタル、ドメスティック以上にグローバルへの意識を高められるはずです。

 

③ 真に影響力を持つ音楽賞の用意

米では保守的と非難されることもあるグラミー賞ですが、今も大きな権威を持ち続けています。また米ビルボードも独自の音楽賞を用意していますが、他方日本においては最も認知されているであろう日本レコード大賞への問題点が目立ちます。以前抱かれた疑念について自問自答し自浄するという作業ができていないことも、日本にれっきとした音楽賞がないと断言できる理由です。

後述しますが、日本にちゃんとした音楽賞がないという問題は多くの方が持ち合わせているものでしょう。個人的には日本版グラミー賞を新設することやビルボードジャパンが音楽賞を設ける(再開する)ことも必要と考えます。日本版グラミー賞については昨日ブログエントリーをアップしていますが、音楽関係者が集まって賞を新設するような気概をみせてほしいと願っています。

 

④ デジタル配信の徹底と、サブスクのイメージ好転

デジタルの解禁は必須であるということは幾度となく述べていることです。そして日本においてはデジタルを解禁してもフィジカルセールスが極度に下がることはないと捉えています。

しかしサブスクを悪魔と述べたり、デジタルのスタッフを心がない等と揶揄するベテラン歌手が目立ち、サブスクのマイナスイメージが抜けきれないどころかネガティブな印象すら抱かれているのは大きなマイナスです。サブスクの台頭時になぜ彼らが積極的に利益率等の議論を行わなかったのでしょう。CDセールスが強かった時代に成功体験を積んだ歌手は、この数年にデビューした歌手の環境を考えるべきです。

J-POPのデジタルカタログがあまりにも不揃いなことは、海外音楽ファンのJ-POPに対する失望やマイナスイメージを招くだろうことから、音楽業界やエンタメ界は総出で彼らの説得や環境の整備に努めなければなりません。

特にベテラン歌手はリリースにおいてフィジカルを用意してもらいやすい状況にあるものと考えます。ならば、"フィジカルも用意することでデジタルとフィジカルのどちらからも選ぶことができる、もしくはどちらも選べる"という考えを持つほうが素敵ではないでしょうか。

 

⑤ 音楽番組パフォーマンスの公式動画化

デジタル充実の必要性はサブスクやダウンロードにとどまりません。音楽番組のパフォーマンス映像をYouTubeにて公式に配信することも今後ますます重要になります。J-POPの一部歌手でも実施されていますが、やはりK-POPアクトは以前からその徹底っぷりが見事です。その旨は1年半前のブログエントリー等にて記しています。

日本では、たとえば紅白にて各歌手のパフォーマンス映像が期間限定で短尺版にてYouTubeに用意されていますが、見逃し配信への誘導が第一義にある、または権利関係の都合上各歌手のYouTubeチャンネルにアップできない等の理由があると考えます。一方『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)ではTVer等での見逃し配信が始まりましたが、一部芸能事務所所属歌手は配信時に"いなかった"ことになっています。

地上波テレビ局のリアルタイム視聴率は下がり続けています。フジテレビが大ヒットドラマとして訴求した『silent』のリアルタイム視聴率は、一度として10%を上回ることはありませんでした。『silent』の大ヒットは見逃し配信の再生回数が物語っており、リアルタイム視聴率という一側面だけで人気を測ることの難しさはテレビ局側が一番良く解っているはずです。

ゆえに見逃し配信を充実させることが今後のエンタメ界全体における鍵となることは明白でしょう。その際、自社サービスへの誘導を最優先させることや、見逃し配信に出ないという方を過度に配慮するという姿勢は捨て去るべきです。

 

⑥ 過度な配慮の排除、および保身からの脱却

先程は見逃し配信時の"いなかった"ことになる問題を紹介しましたが、『CDTVライブ!ライブ!』の見逃し配信を記事にしたRealSoundは、あたかも全歌手が配信されるかのような記載を当初行っていました。また『ミュージックステーション』(テレビ朝日)ではDa-iCEやJO1、INIやBE:FIRST等、男性ダンスボーカルグループが未だに出場できない事態が続いています。これは不可解と言わざるを得ません。

そう書くと、あたかも特定の芸能事務所を非難していると言われかねません(し、実際そう曲解されます)が、自分は不条理の撲滅を願い客観的なデータを用いて説いています。そして批判は他の歌手等にも行っていますし、同時に自分の批判はバッシングとは異なります。批判とバッシングとの違いは次項で記しています。

問題は、批判の姿勢が業界内部からあまり見えてこないことにもあります。デジタル配信をしたがらない歌手や組織を説得すること等は業界総出で行う必要があるはずですが、それが行えないのは触れぬが吉という考えや、問題を解決せんと動いた側を歌手や組織が敬遠する可能性を過度に考慮してしまうという保身ゆえではと捉えています。そうやって生まれ、こびりついた空気が業界を変えにくくしてしまったと思うのです。

また日本はベテランに対する配慮が大きすぎるのではと感じています。上記ブログエントリーにて述べた紅白が代表的な例ですが、ベテランを重用するならばその年きちんとヒットを輩出した歌手にも同様の時間を割くことはできないのでしょうか。『その演出の差が"#紅白見ない"と堂々と言える人たちにそれを言う事へのお墨付きを与えている』(上記ブログエントリーより)と感じています。

たとえば紅白における、きちんとヒット曲を輩出した歌手が知らないと言われてしまうことや幅広い年齢層を意識した選出ながらリアルタイム視聴率の一側面を理由に強く叩かれる状況は、きちんと結果を残した歌手や変わろうとする番組を軽視したものではないでしょうか。次項でも述べますが、このバッシングが紅白のみならず目立ちすぎることが、業界全体の向上を妨げるものだと痛感するのです。

 

⑦ 旧態依然のバッシングではなく、正しいものをきちんと評価すること

日本レコード大賞や紅白への批判ではなくバッシング、音楽チャートにおいてフィジカルセールスに強い歌手を未だ強く責めること等は、実は古いやり方ではと感じています。無論音楽業界やエンタメ界全体の後進的な姿勢も問題ですが、進言より叩くことを優先する(そう見えてしまいかねない)態度が彼らの気付きを生まれにくくし、有益な意見があってもスルーしてしまう状況を作り上げている一因ではないでしょうか。

また、過剰な厚遇や冷遇が見えながらもそれを仕方ないとスルーする側にも問題があると厳しくも考えます。たとえばデジタル未リリース歌手の背景や考え方を日本人は(一応)理解できても、それが理解しにくい海外の音楽ファンには不条理に映るのではないでしょうか。グローバルの時代にあっては尚の事、国内からおかしいとの声を出すことが必要と考えます。

少なくとも音楽チャートにおいては、ビルボードジャパンが登場し今に至るまでブラッシュアップを続けたことで、日本の真のヒット曲を測る物差しに成りました。仮にビルボードジャパンが立ち上がらなかったならば今も物差しは存在しなかったのではと考えるに、まずは我先にと立ち上がった方をきちんと評価することが大切です。その上でビルボードジャパンをどう認知させるかに考え方をシフトさせたほうが好いと考えます。

叩く側は、自分の叩くやり方が旧態依然になっていないかを自問自答すべきです。ひとつの数値にこだわり過ぎてはいないか、相手を嫌いであるという感情の下に走ってやいないかをきちんと考えてほしいと願います。また論考にわざわざ取り上げる必要のない比較対象を用意した上で貶すという行為を慎むことも願います。

 

他にも、SNS時代にあって急激に変わる世界の価値観を知ることも挙げておきます。

グローバルを意識することでドメスティックに宿る様々な問題があぶり出され、自問自答し自浄に至ること、その習慣が身につくことを願います。自分はバッシングにならぬよう自問自答を続け、問題について批判の上で改善提案を述べ、好い点はきちんと評価する姿勢を今後も続けていきます。ただしあまりにも相手が治らない場合はより厳しい表現で、しかし丁寧な言葉遣いを忘れず、批判するようにします。

 

 

日本の音楽業界やエンタテインメント業界がグローバルを意識することで、世界に日本の作品を轟かせることができるのみならずドメスティックな環境も良好なものになると考えます。理想論と言われることは承知で、またハードルが高いものもありますが、決してできないことではないはずです。

冒頭で述べたように、拠点を何処に置くかに関係なくデジタルリリースは世界配信とイコールと言えます。ならば日本のヒットの延長線上にグローバルヒットがあるというラインを作り上げることが重要であり、そのラインを強固なものにすべくデジタル環境の充実や音楽チャートのチャートポリシー変更、関係者の意識変革が必要です。そして不条理の指摘や好い点の評価等、受け手もまたきちんと声を上げることを願います。

 

 

最後に。有益な意見はSNSのみならずブログやnoteの形に残すことを勧めます。そのほうが圧倒的に見てもらえるということは、日々ブログを綴る自分が強く実感していることです。