イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『CDTVライブ!ライブ!』見逃し配信時の一部歌手除外からみえてくる組織やメディアの姿勢への違和感

11月28日放送の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)では冒頭からKinKi Kidsが登場。7曲を披露したライブは話題となり、”#KinKiKidsフェス”というハッシュタグも人気に。しかし番組開始から19時39分近くまで放送されたそのKinKi Kidsフェスの部分が、TVerGYAO!での見逃し配信には登場していません。

CDTVライブ!ライブ!』では以前、11月7日放送回においてKing & Prince、なにわ男子そしてTravis Japanの部分のみ見逃し配信時に削除されています。この回はVTRも多く用意され、彼らがワイプに登場することも多々あったのですが、その部分も変更されていました。

CDTVライブ!ライブ!』の見逃し配信において、ジャニーズ事務所所属歌手は存在しないことになっているのです。

これに対し、“ジャニーズはネットに優しくないから仕方ない”等と反応する姿勢がみられますが、そのような反応で納得するのは正しくないと考えます。

 

(なお今週月曜放送の『プレミアMelodiX!』(テレビ東京)ではジャニーズ事務所所属の中山優馬さんが出演し、「Step!!」のパフォーマンス映像も配信されています。この点については後述します。TVerによる番組紹介ツイートはこちらGYAO!はこちら。)

 

 

何よりまず、『CDTVライブ!ライブ!』最新回放送日の正午にアップされた番組スタッフのインタビュー記事が、今回の問題をより大きくしていると考えます。

リアルサウンドの記事では番組の見逃し配信について大きく取り上げられているものの、発信内容では当初、一部歌手を除くことへの言及がなかったのです。

リアルサウンドは後に文言を追加し、見逃し配信において一部歌手を除くことを明記しました。しかし昨日正午の記事発信から文言訂正までのおよそ6時間半の間に記事を読み、一方では追記内容をチェックしていない方は、最新回放送におけるKinKi Kidsの部分も配信されるだろうと捉えたのではないでしょうか。

(加えて、リアルサウンドにおいては追記した旨をツイートしていないことも問題と考えます。)

 

記事ではまた、11月7日放送回におけるジャニーズ事務所所属歌手3組の見逃し配信時における削除について言及されていません。ともすれば取材が11月7日以前に行われた可能性もありますが、ネット記事の即時性(そこまで寝かせるわけではないこと)等を踏まえればそれは考えにくいと思われます。ともすれば、その部分は触れない / 語らないという共通認識が取材する側 / される側にあったのかもしれません。

ーー権利の問題など、乗り越えなければならない壁もあったかと思うのですが、実際にレコード会社の方にお話をした時の反応は?

髙宮:レコード会社の方々も、もちろん沢山の人に曲を聴いてほしいと思っていて私たちと思いは同じでした。賛同してくださり実現に向けて一緒に頑張ってくださった感じです。それにこれまでも、出演したアーティストから『CDTVライブ!ライブ!』でしかできない歌録りだったから、ずっと観てもらえるように映像を置いておけないですか、という相談もいただいたりしていて、やはりアーティスト自身も繰り返し観てほしいものなんだな、と感じていました。そんなみんなの思いがようやく実現できた……という気持ちです。

※記事における”髙宮”とは、『CDTVライブ!ライブ!プロデューサーの髙宮望氏を指します。またインタビュアーは記事の書き手でもある村上夏菜さんです。

リアルサウンドの記事からは、ジャニーズ事務所所属歌手(今後はジャニーズ以外の歌手も見逃し配信をNGとする可能性もありますが)を除く方々の見逃し配信を可能にしたのは権利の整備や、レコード会社ならびに歌手側の熱意や要望等であることが解ります。言い換えればジャニーズ事務所側はその点においてNGを出したと言えるでしょうが、肖像権や著作権等においてはどの歌手であれ環境は一緒でしょう。

 

一方で、たとえばバラエティ番組にジャニーズ事務所所属歌手が出演してもTVerで見逃し配信が可能になる機会は増えています。たとえば平日朝の帯番組『ラヴィット!』(TBS)にはジャニーズ事務所所属歌手がレギュラー出演していますが、TVer配信開始が発表された際、所属歌手の出演曜日は割愛されるのではという懸念の声も聞かれました。しかし実際は基本的に配信されています。

また今クールで最も話題のドラマ『silent』(フジテレビ)にはSnow Man目黒蓮さんが出演していますが、フジテレビ側はTVerでの1週間見逃し配信のみならず、3話までは現在も視聴可能な環境が用意されています。これが後追い視聴者を伸ばしSNSや口コミでの人気につながったことは自明であり、その背景にはジャニーズ事務所側の協力もあったはずです。

ならばなぜ、ジャニーズ事務所所属歌手が音楽番組の見逃し配信をNGとしているのでしょう。ちなみにTVerでは夜帯の地上波民放キー局同時配信も行っていますが、たとえば『テレ東音楽祭』(テレビ東京 11月23日放送)等音楽番組は除外されていると記憶しています。

 

ここからは推測の域を出ないと前置きして書きますが、ジャニーズ事務所側が音楽を配信するということに神経を尖らせているからではないかというのが私見です。いや、ジャニーズ事務所所属歌手が毎週登場するドキュメンタリー番組『RIDE ON TIME』ではパフォーマンス映像も流れているではないかという指摘があるかもしれませんんが、番組内でイントロからアウトロまでを一通り流すということはほぼないはずです。

YouTubeにおいてはジャニーズ事務所所属歌手の活用が目立っており、ビルボードジャパンソングチャートの動画再生指標でもその効果が表れていますが、大半のミュージックビデオはショートバージョンでのアップにとどまっています。フルバージョンは嵐や、Snow Manブラザービート」等一部ではみられるものの、フルでのアップはダンスバージョン等別動画にとどまります。

YouTube動画短尺版化の理由はフルバージョンをフィジカル同梱の映像盤で視聴してもらうため、つまりフィジカル購入がジャニーズ事務所側にとって最良の選択と考えているからではないでしょうか。そうであればフルバージョンをYouTubeにアップしないことも、またフルバージョン披露を特徴として掲げる『CDTVライブ!ライブ!』にて所属歌手の見逃し配信をNGとすることも、理解は可能です。

 

フィジカルセールスが最良の選択という姿勢は、なにわ男子の直近のシングル「ハッピーサプライズ」でも見て取れました。同曲はレンタルを発売の17日後に解禁としています。ビルボードジャパンは2023年度からCD取込数を示すルックアップ指標を廃止するため、「ハッピーサプライズ」のレンタルに伴うルックアップはビルボードジャパンソングチャートに加点されませんが、それでもレンタル遅らせ解禁を設定しています。

実は「ハッピーサプライズ」の翌週にリリースされた米津玄師「KICK BACK」においれ、ソニーミュージック系列移籍後はじめて発売週のレンタル解禁が実行されました。これはルックアップの加点を見据えたものと捉えています。

「KICK BACK」との差を踏まえるに、「ハッピーサプライズ」のスケジュール策定からはジャニーズ事務所側がフィジカルセールスを重視する姿勢が見て取れますが、ともすればビルボードジャパンソングチャートをより意識しなくなる可能性もゼロではないと感じています。

ジャニーズ事務所所属歌手は他の歌手に比べて特にルックアップによる加点が大きかったため、2023年度のルックアップ指標廃止以降は所属歌手のシングル曲が不利になると考えられます。そのタイミングもあって、ジャニーズ事務所側は社会的ヒットの鑑となってきているビルボードジャパンを意識せずフィジカルセールスのみのオリコンランキングを大事にするのではと、邪推かもしれませんがそう危惧しています。

(オリコンは合算ランキングもありますが、フィジカルセールスのウエイトがかなり高いのが特徴。合算でも首位を獲りやすいゆえそのような想像ができるのです。)

ジャニーズ事務所所属歌手によるフィジカルセールス指標での首位獲得は今後も続くとして、今の時代はストリーミングヒットがより重要であり、社会的ヒット曲の大半がストリーミングに強いことは自明です。またテレビパフォーマンスは所有指標においてフィジカルセールス以上にダウンロードに反映されます。その中で旧態依然の方法を貫くのは機会損失なのですが、首位獲得できるランキングに集中するものと捉えています。

 

ならばメディアの本来の役割はそのような姿勢に異を唱え、ビルボードジャパンのソングチャートを支持し、ジャニーズ事務所側(のみならず未配信歌手全体)に最善のリリース手法を提示し改善を促すことでしょう。しかしながらリアルサウンドにおける『CDTVライブ!ライブ!』の取材記事からは、触れない / 書かないことでの半ば忖度と呼べる態度が見えてしまったように思うのです。

問題があると解っていて触れず語らずを選ぶメディアの姿勢、さらにはネット未配信を仕方ないことと受け入れる市井の対応もまた、日本のエンタテインメント業界の内外でみられてきた慣例と呼べるものです。しかしそれを続けたことで、たとえばジャニーズ事務所を離れた方へのメディアの冷遇や、近年少年隊や男闘呼組等が話題になってもデジタル未解禁のために盛り上がれないままになってしまったのではないでしょうか。

 

この1週間にアップした上記ブログエントリーには多くの反応をいただき、特にKing & Princeについてはデジタル配信されないことで6人や5人の時代の足跡が残されない(そして今後もそうなる可能性が高い)ことに疑問を抱くコアファンの方々の反応を確認できました。さらには多くのファンの方が配信を望んでいるらしく、前向きにデジタル発信を願うコアファンの方々は他の所属歌手においても多いのではと考えるに至っています。

今の社会的ヒット曲はストリーミングヒットが重要であると書きました。その環境下で、フィジカルセールスの役割はデジタルを補完するものに変わってきています。本日発表予定のビルボードジャパンソングチャートで首位返り咲きが見込まれる米津玄師「KICK BACK」はまさに今のヒットの形です。そしてジャニーズ事務所所属歌手のコアファンの方々は、デジタル配信されてもフィジカルを引き続き買う方が多いはずです。

 

(ちなみに、ジャニーズ事務所所属歌手ではデジタルリリースが増えているためにデジタル解禁が遅れると考えるのは間違いという指摘をTwitterにていただきました。先述の通り、新曲をデジタルリリースしている中山優馬さんのテレビパフォーマンス映像は見逃し配信されています。

一方で、所属歌手の中でフィジカルシングルの初週セールスが20万枚以上を見込める方の未解禁は未だ多い状況であり(元々King & Prince「ツキヨミ」に関するブログエントリーで用いた下記表を参照)、そこからみえてくるものがあるのではと考えます。なおKis-My-Ft2は解禁しているもののLINE MUSIC限定であり、また期間等も限定されています。)

 

 

ネット時代にあっては、様々な不条理が可視化されます。加えてアイドル的要素を持つジャニーズ事務所所属以外の男性ダンスボーカルグループが増えたこと、彼らのデジタル戦略の巧さ等によって尚の事、ジャニーズ事務所側のドメスティック感が浮き彫りになったことは間違いないでしょう。

しかしそれに違和感を記さないメディアの存在が、仕方ないで済ませる市井の感情が、改善速度をゆっくりにさせかねないと考えます。見逃し配信がゆくゆくはテレビパフォーマンス映像のYouTubeでのアーカイブ化につながる可能性(そしてそれがK-POPが世界に躍進するひとつの要因となったこと)を考えれば、ジャニーズ事務所側の姿勢が日本のエンタテインメント業界を発展に至らせない要因とも言えるのではないでしょうか。

ジャニーズ事務所が見逃し配信をNGにする、デジタルに明るくない理由がフィジカルセールスへの集約にあるとして、デジタルを開かないことでジャニーズ事務所所属歌手が世界にリーチする機会が著しく少なくなります。彼らのポテンシャルを踏まえ、フィジカルを用意しなくても(予算をこれまでのようにかけずとも)デジタルで発信できることを、どうか考えていただきたいと願います。メディアや市井の改善要望は必須です。

 

 

最後に。不条理があれば疑問視し、改善策を提示して自浄を促すのが自分のスタンスです。今回の内容も不条理の改善を願い記載したものですが、その際は丁寧な言葉を心がけています。仮に問題があれば、直接その内容を指摘いただければ幸いです。