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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「Subtitle」のGlobal Excl. U.S.トップ10入りを機に考える、J-Popのグローバルチャート登場に必要なこととは

2年前に米ビルボードが新設したグローバルチャートのうち、最新11月26日付Global Excl. U.S.(Global 200から米の分を除く)ではOfficial髭男dism「Subtitle」が10位に上昇。このチャートにおけるJ-Popのランクインは6曲目となりました。

今回のランクインについて海外での人気には疑問だという見方をいただいていますが、このチャートインを機に注目される可能性もあります。そしてそもそも、J-Popのランクインはその多くが日本市場でのポイント獲得によって生まれたといえるかもしれません。今回はこれまでのランクイン曲を一覧化した上で、ランクインするJ-Popの傾向等について記載します。

 

 

これまでグローバルチャートにランクインしたJ-PopはLiSA「炎」、YOASOBI「夜に駆ける」、Ado「新時代」、米津玄師「KICK BACK」、Travis JapanJUST DANCE!」そして今回のOfficial髭男dism「Subtitle」の6曲。そのうち「炎」はGlobal 200でもトップ10入りを果たしています。

そこで、これまでの6曲におけるグローバルチャートランクイン状況を表にまとめました。なお二枚目の表はグローバルチャート該当期間におけるビルボードジャパンの動向を示したもので、グローバルチャートの集計期間が金曜始まりなのに対しビルボードジャパンは月曜のため、グローバルチャートに被る2週分のチャートを掲載しています。

 

見えてくるのが日本市場の大きさ。ランクイン曲の大半がビルボードジャパンの週間ストリーミング再生回数で1千万を突破しています(なおビルボードジャパンはストリーミングに動画再生を含まず、グローバルチャートでは含まれます)。また判明分のダウンロード数は大きく。最新11月26日付Global 200を制したテイラー・スウィフトAnti-Hero」の19,000を、J-Popランクイン曲の多くは上回っているのです。

ランクインした曲のうちLiSA「炎」やAdo「新時代」はアニメ映画のタイアップ曲ゆえ海外でも人気と言われますが、映画公開はテレビの配信とは異なりタイムラグが発生します。海外のアニメファンが公開前にいち早くタイアップ曲をチェックしたとして、接触や所有の大半は日本市場分と捉えていいでしょう。

一方で気になるのが、Global Excl. U.S.とGlobal 200との順位に小さくない乖離があること。乖離が大きいほど米での人気が高くないことを示しているといえます。今年は米津玄師「KICK BACK」がGlobal Excl. U.S.で4位を獲得した際、Global 200では13位と乖離が小さくなっていましたが、これは同曲がオープニングに起用されたテレビアニメ『チェンソーマン』の世界配信がタイムラグなく伝わったゆえと考えられます。

 

グローバルチャートにランクインするJ-Popにはいくつかの傾向があります。ひとつはアニメタイアップ型。先述したように米津玄師「KICK BACK」のようなタイムラグなくアニメを世界配信するタイプと、LiSA「炎」やAdo「新時代」のようなアニメ映画タイアップゆえ世界での人気獲得には時間がかかるタイプとに分けられます。

次いで、特筆すべきダウンロード数に伴いランクインするタイプ。顕著なのはTravis JapanJUST DANCE!」で、様々なバージョンが合算されるグローバルチャートでは2種のリミックスの存在も大きく寄与しています(11月2日公開分(11月7日付)ビルボードジャパンソングスチャートでは2種のリミックスで合計43,665DLを記録)。アイドル等所有指標に強い歌手は、この指標だけで上位進出が可能と捉えていいでしょう。

そして日本市場の大きさや日本での大ヒットがグローバルチャートにも波及するタイプ。今回ランクインしたOfficial髭男dism「Subtitle」がその典型であり、ビルボードジャパンでも複数週に渡ってストリーミング2000万回再生を突破しています。クリスマスソングが上位進出するまでの間、複数週に渡りGlobal Excl. U.S.でトップ10入りを続ける可能性も考えられます。

 

 

グローバルチャートへのランクインは世界に自身の曲を知ってもらえるチャンスといえるため、歌手側がそれを活用することも必要でしょう。そのために歌手側がリアクションするのみならず、音楽業界等が行うべきことがあると考えます。

特に大事なのはメディアによる記事化。そもそもグローバルチャート自体記事化されることが極めて少ない状況ですが、J-Popのランクインは特筆すべき事象である以上それを訴求していいはずです。特にビルボードジャパンは英訳記事を自社の英語版Twitterアカウント(→こちら)や米ビルボードに転載できる立場にあるゆえ、日本語版および英訳版の記事作成が可能な同社の位置付けは重要といえるでしょう。

(なおOfficial髭男dism「Subtitle」のGlobal Excl. U.S.トップ10入りをビルボードジャパンは現段階で記事化していませんが、日本での大ヒットを記したコラムが英訳され、日本時間の本日早朝に米ビルボードにて公開されています(下記ツイート参照)。このアプローチは好いと感じています。)

 

記事化は海外の音楽ファンにリーチするのみならず、日本でのグローバルチャート認知拡大にもつながります。それが歌手側やコアファンの方々に、日本でのヒットがグローバルヒットにもつながると意識させるきっかけになるはずです。そしてメディアが音楽チャートを毎週紹介する習慣を持つならば尚好いでしょう(チャートの認知は、『NHK紅白歌合戦』に今年のヒット曲輩出歌手が出ることの納得度を高める意味でも有効です)。

 

 

勿論海外でのバズも重要ですが、海外仕様の作品を輩出してグローバルヒットを狙わずとも日本でヒットすればグローバルチャート進出が可能ということが解るはずです。先日このような記事がありましたが、好い作品が結果を残すタイミングでそれらをより広く認知させるほうに予算を充てることこそ有効ではないかと感じています。