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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

最新ビルボードジャパンソングスチャートはNiziU「CLAP CLAP」が制覇も、指標動向から感じる不安とは

最新7月27日公開分(8月1日付)ビルボードジャパンソングスチャートはNiziU「CLAP CLAP」が首位を獲得。これでフィジカルシングル3作連続で総合チャートを制した形です。

一方で今作の動向から、NiziUの勢いについて疑問視する見方も生まれています。

日本でほぼ唯一チャート予想を行う紅蓮・疾風さんによる上記ツイートに注目。ルックアップとはパソコン等にCDを取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数を指し、売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)やレンタル枚数の推測を可能とするものです。レンタルは最新チャートの集計期間中に解禁されているため(TSUTAYAのHP参照→こちら)、57位という成績には当初驚きました。

とはいえ、あらためてルックアップの上位20曲の推移を調べると、ジャニーズ事務所所属歌手(特に2010年代中盤以降のデビュー組)の強さが際立つ一方、女性アイドル等は強くありません。ルックアップについてはあらためて分析しないといけないと考えていますが、NiziUがルックアップで20位以内を逃すのは考えられなくはないと感じた次第です。

 

さて、先に引用した紅蓮・疾風さんのツイートを機に、紅蓮・疾風さんとチャート分析に長けたあささんがやり取りを行っていました。その内容が興味深く、特にこちらの指摘に納得した次第です。

"アーティスト起因"や"楽曲起因"については、ビルボードジャパンのチャートディレクターを務める礒崎誠二さんがMarkeZineに寄稿したコラムで解説されています。

上記コラムはMarkeZineに無料会員登録することで確認可能。NiziUはオーディションから登場し、プレデビューシングルの「Make you happy」はフィジカルシングル未リリースながら2020年度のビルボードジャパン年間ソングスチャートで12位を記録する大ヒットとなりました。ゆえにデジタルに強い楽曲起因型と言えたNiziUですが、フィジカルシングルの成功も相俟ってアーティスト起因型ともなっていました。

NiziUの3タイトル目となるシングルのリード曲「CLAP CLAP」は、初週売上149,347枚でシングル1位を記録した。他指標では、動画再生2位、ダウンロード10位、ストリーミング33位、ルックアップ57位、Twitter 13位、ラジオ17位となり、総合首位に。前作347,432枚から約半減したシングルセールスポイントと、ほぼ横ばいのストリーミング(前週2,812,351再生から当週2,862,988再生)と動画再生(前週3,027,385再生から当週2,868,331再生)で総合首位を確保した。

「CLAP CLAP」でも15万枚近いフィジカルセールスを獲得したものの、前作「Take a picture」の初週セールスのおよそ43%と大きく後退。フィジカル初のシングル「Step and a step」が初週318,562枚を記録しており今後も上昇する可能性が見込まれていただけに、今回の後退は衝撃的とも言えるのです。

上記はフィジカルシングル3作品におけるフィジカル関連指標初加算時のCHART insight。「Step and a step」リリース以降、ビルボードジャパンはチャートポリシー(集計方法)を数度変更しているため単純な比較はできないものの、CHART insightにて青で表示されるストリーミングの順位が「CLAP CLAP」において極めて低いことがはっきり解ります。

このフィジカルシングル3作品はいずれもLINE MUSIC再生キャンペーンが展開され、フィジカル発売前日までの開催という共通点があります(「Step and a step」はこちら、「Take a picture」はこちら、「CLAP CLAP」はこちらで確認可能)。ストリーミングの条件はほぼ同じながら、フィジカル関連指標初加算週におけるストリーミング指標は3→3→33位と推移し、「CLAP CLAP」が大きく落ち込んだのです。

フィジカル関連指標初加算週におけるダウンロードにおいても、「Step and a step」が43,442DL(ビルボードジャパンの記事にて確認可能→こちら)、「Take a picture」が29,788DL(記事はこちら)に対し「CLAP CLAP」は4,948DLと大きく後退。「CLAP CLAP」は「Take a picture」のおよそ17%、「Step and a step」と比べると11%強というのは驚くべき落ち込み方と言えます。

 

ダウンロードの落ち込みについてはやむを得ないという見方もあります。NiziUはメンバーの新型コロナウイルス感染に伴い『ミュージックステーション』(テレビ朝日 7月15日放送)と『音楽の日』(TBS 7月16日放送)という音楽番組の出演を辞退、またオーディション内容を追いかけていた『スッキリ』(日本テレビ)にも7月18日に出演予定でしたが、さらなる感染拡大に伴いキャンセルせざるを得なくなりました。

テレビ番組出演はダウンロードにより大きく影響しますが、テレビ出演の有無はレンタルの推移にもつながるでしょう。ルックアップ一覧表で際立つジャニーズ事務所所属歌手の上位占拠は彼らの作品がデジタル未解禁ゆえという側面もあるでしょうが、音楽番組出演やタイアップが大きく影響しているとも考えられます。それとは反対にNiziUは「CLAP CLAP」のプロモーション機会を、やむ無しとはいえ逃してしまいました。

 

ライト層の減少について、もうひとつ気になるのがSpotifyの動向。このデジタルプラットフォームにおける順位動向には50位の壁という特性があるものの(こちらを参照)、LINE MUSIC再生キャンペーンのようなファンダムの影響度が低いため楽曲人気をより分かりやすく示すサブスクサービスと言えます。

上記はkworbにて、7月26日付までのSpotifyデイリーチャートにおけるNiziU各曲の最高位を示したもの(こちらより確認可能)。50位の壁を突破した曲が8曲ありながらも「CLAP CLAP」はそれを乗り越えることができないままであり、また昨夏のデジタルシングル「Super Summer」や今年春の「ASOBO」も同様の結果となっているのは気掛かりです。

オーディションで注目を集め「Make you happy」で大成功を収めたNiziUですが、昨年11月にリリースしたファーストアルバム『U』から、リード曲「Chopstick」を除くアルバム初お目見え曲で日本のSpotifyデイリーチャート200位以内に登場したのは「Need U」のみ。歌手人気が継続し作品に注目が集まれば、アルバム収録曲が複数上昇してもおかしくなかったはずです。この点からも、ライト層の減少が想起できます。

 

先に紹介した紅蓮・疾風さんのツイートには、NiziU「CLAP CLAP」のデータ分析時に『アーティスト起因と楽曲起因が混交型だった為、楽曲人気減少で楽曲起因ファンダムの熱量が売上以上に落ちている』とありました。テレビ出演ができなくなったという今の時代ならではの不幸もありますが、ライト層の減少はこの1年ではっきり示されたものと考えます。しかしそれだけでフィジカルセールス半減とはならないと思うのです。

この1年間に、Kep1er「WA DA DA」やLE SSERAFIM「FEARLESS」がビルボードジャパンソングスチャートでトップ10入りしたほか、XG「MASCARA」はトップ10入りを狙える位置にいます。どのグループにも日本人が在籍し、XGに至っては全員が日本人という構成となっており、特に日本からの注目を集めやすいK-Pop女性アクトが続々登場したことが、NiziUのライト層のみならずコアファンの注目度低下を招いたのかもしれません。

 

 

NiziUは「Super Summer」の不調(ビルボードジャパンソングスチャート最高8位、100位以内在籍4週)を取り返すべく、今作までの間にもうひとつフィジカルシングルを投入してもよかったのかもしれません。フィジカルはアルバム『U』に集中させるため無理だったかもしれませんが、「Take a picture」→「CLAP CLAP」における落ち込みを踏まえれば、リリース感覚を空けたことが注目度低下のひとつの要因に成ったと考えます。

またSpotifyデイリーチャートにおいて日本以外の200位以内ランクインがないことも気になります。海外進出を積極的に図ること…たとえばTWICEのように日本向けと韓国を含むグローバル向けの双方の作品を用意すれば、一方のリリースタイミングが開いてももう一方で補完できブランクを感じさせにくくなるはずです。いずれにせよ「CLAP CLAP」の動向を踏まえれば、中長期的な活動のブラッシュアップは必須でしょう。