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ビヨンセの新曲「Break My Soul」、チャートで不利になりやすい火曜になぜリリースしたのかを推測する

ビヨンセが7月にニューアルバム『Renaissance』をリリースすることを先週アナウンスしました。

そのアルバムに収録される「Break My Soul」が、日本時間の昨日13時にリリース。そのアナウンスは突然でした。

面白いことに、「Break My Soul」のリリックビデオは音源配信開始の数時間前にアップされているのです。公式YouTubeアカウント発であり、リークではありません。

音楽評論家の林剛さんによる楽曲解説でも解るように、この曲は紛れもないハウスミュージック。このタイミングでまたもハウスアプローチの作品が登場したことに驚かされます。「Break My Soul」でビヨンセが引用したロビンS「Show Me Love」はこちら。

 

それにしても、ビヨンセが現地時間の火曜になってアルバムリード曲をリリースしたのはなぜでしょう。音楽チャートにとっては必ずしも有利とは言えないリリースタイミングなのです。

 

ビルボードやグローバルのソングスチャートは金曜が集計期間初日となり(上記リンク先参照)、音源も初週のチャートアクション最大化を目的に金曜リリースとすることが基本と言えます。最近は木曜リリースもみられるようになりましたが、これは米ビルボードにおいてストリーミングやダウンロードのようなロケットスタートとはならないラジオ指標が盛り上がるタイミングを見越したものと捉えています。

ゆえに、今回のビヨンセ「Break My Soul」における火曜リリースというのはほぼ耳にしたことがないのですが、敢えて火曜のリリースを採ったのはなぜか、自分なりに考えてみます。

 

まずは今回の「Break My Soul」がハウスミュージックであること。先程『このタイミングでまたもハウスアプローチの作品が登場した』と書きましたが、ドレイクが先週金曜に突如リリースしたニューアルバム『Honestly, Nevermind』が終盤の2曲を除きハウスアプローチだったのです。

ドレイク『Honestly, Nevermind』の音楽性についてはライター/翻訳家の池城美菜子さんによる上記コラムをご覧いただくとして、ここでドレイクがハウスアプローチを施したことでビヨンセがハウスムーブメントにさらなる後押しを与えるべく(流行の到来を告げるべく)、火曜に新曲を投入したと捉えることもできるでしょう。

 

それでも「Break My Soul」チャート上において不利になりかねません。6月17日金曜からの1週間を集計期間とする7月2日付米ビルボードソングスチャート(日本時間の6月28日発表予定)ではドレイクの『Honestly, Nevermind』収録曲が大挙エントリーする可能性があります。前作『Certified Lover Boy』が初登場で首位を獲得した昨年9月18日付の米ビルボード、ソングスチャートではトップ10のうち9曲をドレイクが占めたのです。

しかしながら今作『Honestly, Nevermind』収録曲のエントリーは少ないだろうという見方があります。

ビルボードソングスチャート予想担当者のひとりが早くも予想を掲示してますが、前作『Certified Lover Boy』の収録曲動向とは大きく異なります。これは米Spotifyにおける登場2日目および3日目の急落から予想されたものと思われます。

結果的にはトゥエニーワン・サヴェジ(もしくは21サヴェージと表記するところも)を招いたヒップホップトラックの「Jimmy Cooks」が2日目以降トップに立っており、ともすればドレイクの"ハウスアルバム"自体が前作ほど許容されていないかもしれません。ビヨンセはともすればこのドレイクの失速も視野に、より高い位置にて初登場する可能性を見越して「Break My Soul」を突如リリースしたのかもしれません。

 

アルバムチャート初登場週に収録曲がソングスチャートに大挙エントリーするというのが米ビルボードチャートの特性。これは強力なアルバムのリリースによりソングスチャートも収録曲が占めること、そして同週リリースのシングルが埋もれかねないことを意味します。最近は突如アルバムリリースという手法が増えており、強力な作品の登場前にシングルを投入したいという意向もビヨンセ側にはあったかもしれません。

上記ニュースにあるように、テイラー・スウィフトが『1989』の再録作品("Taylor's Version"と称したもの)を近日中にリリースするのではという推測も登場しています。米ビルボードアルバムチャートは収録曲のストリーミング再生回数(動画再生を含む)や単曲ダウンロードのアルバム換算分も含まれ、同時にソングスチャートにもこれら数字が反映されるため、強力なアルバムとのリリース合致を避ける方もいるはずです。

ビヨンセほどの認知度や期待度の高さを持ち合わせている方ならばシングルヒットがなくともアルバムリリースに至れるとして、やはりヒット曲を輩出することでアルバムの強力な足がかりとしたいでしょう。リリースが集中する金曜を避けることで、他の曲とOA枠の取り合いとなるラジオにおいて、リリース日の火曜から木曜まで集中してOAしてもらえるだろうこともビヨンセ側は考えているのかもしれません。

 

無論これらは推測に過ぎず、ビヨンセには別の狙いもあるのかもしれませんが、まずは6月21日付の世界におけるSpotifyデイリーチャート、そして7月2日付米ビルボードやグローバルのソングスチャートをチェックし、「Break My Soul」が『Renaissance』の足がかりとなるか、注目しましょう。