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BTSのアンソロジーアルバム『Proof』は米でより大きな意義を持つ…チャート面で有利に働くと考える理由

BTSが"アンソロジーアルバム"と称した『Proof』を6月10日金曜にリリースします。

アルバム『Proof』は、来年のデビュー10周年へ向けて、これまでの活動を振り返り、その意味を再確認しようと企画し完成した。BTSの歴史を含むアンソロジーアルバムで、計3つのCDで構成されており、新曲3曲を含め、BTSの過去と現在、未来に対するメンバーの考えを盛り込んだ多彩な曲が収録される。

新曲3曲を含む3枚組という内容から、ベストアルバム的なものと捉えて差し支えないでしょう(BTSの意志を踏まえれば"アンソロジーアルバム"と称するのがより好いものとは考えます)。この『Proof』の収録内容の全貌はまだ判りませんが、自分はこの作品がアメリカでより大きな意味を持つものと考えるに至っています。

 

 

BTSのアンソロジーアルバム『Proof』がアメリカでより大きな意味を持つと考えた理由は、この作品が米チャートの安定したヒットにつながり、米世間一般への浸透を経てグラミー受賞への足がかりと成り得るゆえです。

BTSは英語詞曲「Dynamite」や「Butter」をグラミー賞でパフォーマンス。これらの曲が主要4部門にノミネートされる、または主要ではなくとも受賞できるとリアクションされていた方は少なくありませんでした。たしかにこの2曲は米ビルボードソングスチャートを複数週制していますが、しかし所有指標への偏りを踏まえるに世間一般への浸透とは言い難いというのが私見であり、実際受賞には至りませんでした。

「Butter」が昨年度の米ビルボードソングスチャートで最長期間1位になったことで受賞は確実と思われた方も、この曲のヒットを"日本で例えるならば首位獲得時のフィジカルセールスが全週ハーフミリオン"と形容すれば、特異な状況だったことは理解できるはずです。ゆえに首位陥落後チャートを急落し、年間トップ10に至ることはできませんでした。このような話も出てきているため尚の事、接触指標群の充実は必須なのです。

 

ビルボードにおけるチャートの急落は、アルバムにおいても見られています。2020年11月にリリースされた最新オリジナルアルバム『BE』は、同年12月5日付米ビルボードアルバムチャート(→こちら)を制し、翌週も3位につけますが、以降は18→19→26→21位と推移。クリスマスアルバムが一掃された2021年1月16日付(→こちら)では再浮上せず39位へと後退してしまいます。短期的ヒットと思われてもおかしくない動きです。

これは4月2日付米ビルボードアルバムチャート(→こちら)を制したStray Kids『Oddinary』も同様で、以降11→59→131→117→126位と推移。初登場時におけるセールスへの偏り(【米ビルボード・アルバム・チャート】Stray Kidsが今年最大の週間セールスで初登場1位、チャーリーXCX初のTOP10入り | Daily News | Billboard JAPAN(3月29日付)参照)からも、短期的ヒットと言えるのです。

たしかに、K-Popアクトが米ビルボードアルバムチャートやソングスチャートを制することが、BTS主体ではありますが徐々に登場しています。ただ、接触指標群の非充実がチャートの急落を招いていることは間違いなく、ゆえに米の世間一般への浸透は十分ではないというのが私見。首位獲得自体は素晴らしいことですが、メディアがチャートの仕組みを調べずにこのような見出しをつけることに対しては強い違和感を覚えます。

 

 

さて、米ビルボードのアルバムチャートは日本のそれとは異なります。アルバムセールスに加え、接触指標であるストリーミング(動画を含む)の再生回数におけるアルバム換算分(SEA)、および収録曲の単曲ダウンロードにおけるアルバム換算分(TEA)も含めたユニットとして計算されます。またユニット換算における分母は、収録曲数に関係なく同一となります。それらチャートポリシーによって、下記の現象が生まれています。

 

昨年度の米ビルボード年間アルバムチャートを制したのはモーガン・ウォレン『Dangerous: The Double Album』でした。30曲入りでリリースされたこの作品は、後にデラックスエディションがリリースされさらに曲数を増加。モーガンはアルバムリリース後、自身の差別発言により活動自粛となりますが、それがストリーミングの増加を招くという現象が生まれました。そのストリーミングの高値安定が年間制覇、そして最新5月7日付でも2位にランクインする要因となっています。

 

もうひとつは、オリジナルアルバムとベストアルバムの双方に収録されている曲について、SEAやTEAはどちらか片方の作品にのみ加算されるという点。これはザ・ウィークエンドのオリジナルアルバム『After Hours』およびベストアルバム『The Highlights』の順位におかる入れ替わりの激しさで確認(下記リンク先参照)。先述したユニット換算における分母問題も含め、米ビルボードにチャートポリシー改善を求めています。

ビルボードアルバムチャートのチャートポリシーを変更するならば、ユニット換算制度を残すにせよアルバム単位でのセールスのウェイトを上げる(TEAやSEAを下げる)、複数のアルバムに収録された曲のダウンロードやストリーミングをきちんと振り分けるようにすべきです。さらには一律ではなく収録曲数に応じたユニット換算方式に変更することも必要でしょう。

 

ただし現状にあっては、分母問題および重複曲の一方のみ加算問題はそのままになっています。これがベストアルバム、そして収録曲数の多い作品に有利に働くのは確実であり、現行チャートポリシーが続く限りBTS『Proof』は『BE』よりも安定したチャートアクションと成るでしょう。グラミー賞での2年連続パフォーマンスやライブの実績も踏まえれば知名度は以前より確実に浸透しており、一度は聴くという方も多いはずです。

 

アンソロジーアルバム『Proof』のチャートでの安定が米の世間一般への浸透を招き、さらに同作品からシングルヒットが生まれればアルバムチャートの実績も含めてグラミー賞受賞により近づくものと考えます。

より重要なのは、『Proof』に収録される新曲3曲(特にリード曲と位置付けられた作品)が、米ビルボードソングスチャートにおいてダウンロード指標のみならずストリーミングおよびラジオという接触指標群で高値安定し、ロングヒットに至ることにありますが、BTSは『Proof』で安定したチャートアクションを示すことを目標とし、その実績でもって米での人気を証明しようとしているのではないでしょうか。