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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米アルバムチャート制覇のStray Kids、グラミー賞ノミネートのBTS…米での成功の背後にあるK-Popの課題を考える

最新4月2日付米ビルボードアルバムチャートではStray Kids『Oddinary』がキャリア初の首位を獲得しています。

K-Popアクトの勢いを感じる今回のアルバムチャートですが、気になることがあります。

ビルボードアルバムチャート速報については、ビルボードジャパンに翻訳記事が登場しています。

『Oddinary』の初動ユニットは110,000で、そのうちアルバム・セールスが103,000、アルバム・ストリーミング(SEA)が6,500、トラックごとのユニット(TEA)は500だった。初週のストリーミング数は、わずか7曲で1,009万回を記録している。2022年にリリースされたアルバムの週間セールスとしては最大で、103,000枚の内訳デジタル・ダウンロードはわずか2,500、10万枚強がCDによる売り上げだった。

ビルボードアルバムチャートはデジタルおよびフィジカルの(アルバム単位での)セールスのほか、ストリーミング(動画再生を含む)のアルバム換算分(SEA)、および単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)が含まれ、それらユニット数で順位が決まります。Stray Kids『Oddinary』の場合、11万ユニットの9割以上がセールスで占められ、またそのほとんどがフィジカルとなっているのです。

3月30日午前5時の段階で、YouTubeで『Oddinary』と検索したところ最上位に冒頭で紹介した予告映像が登場、そしてその次に登場するのがアルバムの開封動画(上位参照)。フィジカルを手に入れたいというコアファンのニーズに応える仕様となっていることが解ります。

 

ビルボードアルバムチャートを構成する純粋なセールス以外、ストリーミング(動画再生を含む)のアルバム換算分(SEA)および単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)はソングスチャートにも影響を及ぼします。米ビルボードアルバムチャートを制したStray Kidsでしたが、一方では最新4月2日付米ビルボードソングスチャート(→こちら)の100位以内に『Oddinary』収録曲を送り込めていません。

対照的に、1月22日付米ビルボードソングスチャートで7位に初登場したガンナ & フューチャー feat. ヤング・サグ「Pushin P」(1月22日付 7位)は、ガンナのアルバム『DS4Ever』が同日付でアルバムチャートを制したことが大きな要因ですが、その際のアルバムにおけるユニット構成はStray Kids『Oddinary』と大きく異なります。

『DS4Ever』は1月7日にサプライズ・リリースされ、初週150,300ユニットを獲得。そのうち、144,600がアルバム・ストリーミング(SEA)とそのほとんどを占めていて、全19曲で週間1億9,350万回を記録している。トラックごとのアルバム・ユニット(TEA)は1,000で、それらを総合して今週最もストリーミングされたアルバムとしてトップに立った。

ガンナ『DS4Ever』は最新4月2日付米ビルボードアルバムチャートでも9位にランクインしていますが、これはユニット構成分のうち唯一の接触指標であるストリーミング再生回数のアルバム換算分(SEA)に支えられているためと言えます。

アルバムがロングヒットするかを占う意味でも、ソングスチャート100位以内に収録曲が登場しなかったことにおいても、Stray Kids『Oddinary』のユニット構成が気掛かりというのが正直な思いです。次週の動向に注目したいと思います。

 

 

K-Popアクトについては世界進出が積極的に図られ、BTS以外にも多くの成功と言える状況が続いています。Stray Kids『Oddinary』はJYPエンターテインメントとインペリアル/リパブリック・レコードのパートナーシップに伴い米ではじめてリリースされた作品であり、成功のひとつの到達点と言っていいでしょう。その一方、Stray Kidsにおける接触指標の拡充という課題は、最も成功しているBTSでもみられます。

日本時間で4月4日月曜に開催される米最大の音楽の祭典、グラミー賞においてBTSは主要部門は逃しながらも「Butter」がノミネートされていることから、BTSが受賞なるかを基軸とした記事が少なくありません。しかし、たとえば上記記事では主要4部門についてあまり触れていない点等に対し違和感を覚えます。主要4部門すべてにノミネートされたオリヴィア・ロドリゴよりBTSのほうが日本での知名度が上だとしても、です。

BTS「Butter」が、2021年度の米ビルボードソングスチャートにおいて最長となる10週首位を獲得しながらグラミー賞では主要部門にノミネートされていないことについては、米ビルボードソングスチャートの構成3指標(ストリーミング、ダウンロードおよびラジオ)における所有指標への偏りを踏まえ、広く米全土への浸透度に疑問があることを上記ブログエントリーで記しました。

BTSが「Butter」でポップ部門でグラミー初受賞となる可能性は考えられるとして、主要部門にノミネートされるために必要なのは接触指標群の拡充だというのが私見。そうすればロングヒットに至り、年間チャートトップ10入りも有り得ました。そしてこの接触指標拡充の必要性は、最新の米ビルボードアルバムチャートで頂点に立ったStray Kidsにも言えることでしょう。チャートの中身を精査すれば見えてくる課題があるのです。

 

 

グラミー賞ノミネート発表時のブログエントリーでも書きましたが、メディアにはあらためて冷静客観的な視野を持つことを求めます。アクセス数を狙うべく誤解を招きかねないタイトル付けなどもってのほかでしょう。冷静客観的な視点の提供は課題の発見につながり、歌手そしてコアなファンが次のステップを目指すための一助となるはずです。

無論、米ビルボード首位という称号は素晴らしいことです。K-Popアクトはロングヒットを目指すべく、接触指標の拡充を目標に据えることを勧めます。そしてその達成こそ広く米全土に、ライト層にも浸透したことに成るのではないでしょうか。