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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ザ・ウィークエンド『Dawn FM』が米ビルボードアルバムチャート首位の座を逃す…その理由を考える

前週発表された1月22日付米ビルボードアルバムチャートをガンナ『DS4Ever』が制したことは、多くの方に驚きをもって迎えられたかもしれません。『DS4Ever』と同日にザ・ウィークエンド『Dawn FM』がリリースされており、その『Dawn FM』が勝ると思っている方は多かったことでしょう。前週、1月22日付米ビルボードアルバムチャートの記事はこちら。

ビルボードアルバムチャートはストリーミングや単曲ダウンロードもカウント対象となるため、アルバムチャートとソングスチャートとは大きくリンクします。ガンナ & フューチャー feat. ヤング・サグ「Pushin P」がアルバム初登場週に7位を獲得し、最新1月29日付でもその位置をキープしている一方、ザ・ウィークエンドによるアルバムのリード曲「Sacrifice」は11位の初登場後、今週は23位に後退してしまいました。

ガンナが曲名に用いた"Pushin P"というスラングについては、ラジオ番組で説明されています。

この中で、MCを務めるDJ YANATAKEさん、渡辺志保さんもガンナがザ・ウィークエンドに勝ったことに驚きのリアクションをされていましたが、流行のスラングを採り入れた「Pushin P」の存在がガンナ『DS4Ever』を首位到達に至らせた要因と言えるでしょう。

 

ガンナは前作『Wunna』(2020年)の首位初登場時におけるユニット数が111000*1。『DS4Ever』は前作のみならず、これまでの自己記録を上回る150300ユニットを記録しています。一方でザ・ウィークエンドは、前作『After Hours』が初登場で首位を獲得した2020年4月4日付におけるユニット数が444000*2。『Dawn FM』は148000ユニットで初登場しており、およそ3分の1に落ち込んだことになります。

 

ザ・ウィークエンド『Dawn FM』が首位を獲得できなかった理由を考えてみます。

 

ひとつは大ヒット曲の不在。前作『After Hours』からは「Blinding Lights」という、後に米ビルボードの様々な記録を更新し、オールタイムランキングでトップに踊り出るこの曲がアルバム初登場の前週に2位まで上昇していました。他方今作『Dawn FM』からの先行曲となった「Take My Breath」はアルバムが初登場した1月22日付ソングスチャートで22位に返り咲きましたが、その前の週は100位以内に入っていません。

昨年8月にリリースされた「Take My Breath」は8月21日付米ビルボードソングスチャートで6位に初登場しますが、トップ10入りはこの一回にとどまり、翌週は13位に後退します。「Sacrifice」は前週トップ10入りを逃しており、前作『After Hours』収録曲とは大きく異なるチャートアクションを示しているのです。

 

もうひとつの理由は、フィジカルのアルバムリリースが後発となったこと。ザ・ウィークエンドは『Dawn FM』のフィジカルリリースがデジタルと同時にならなかったことについて、ファンとの共有体験を重要視したためと説明しています。また、初週の数字はどうでもいいことだとも述べています。

『After Hours』の初週ユニット数の内訳をみると、アルバムそのもののセールスは275000、ストリーミングに基づくユニット数(SEA)は163000、曲単位のダウンロードに基づくユニット数(TEA)は6000となっています*3。一方で『Dawn FM』の初週ユニット数はアルバムそのもののセールスが14800、SEAが131300、TEAが1900となっており*4、フィジカル未リリースの影響は大きいと言えます。

しかしながら、ストリーミングに基づくユニット数(SEA)においても『Dawn FM』は『After Hours』に3万以上及んでいません。

(なお、米ビルボードアルバムチャートでは曲数が多いほうが有利となり、14曲収録の『After Hours』よりも16曲収録の『Dawn FM』が有利となるはずでした。しかしながら『After Hours』は相次ぐデラックスエディションを矢継早に投入していることを考えれば、純粋に比較可能と考えます。『After Hours』のデラックスエディション投入についてはザ・ウィークエンド『After Hours』、米チャートでの成功は”究極の正当性評価”なのか?疑問視する理由(2020年4月4日付)をご確認ください。私見も記載しています。)

アルバムそのもののセールスはデジタルとフィジカルの双方が含まれるため、『After Hours』の初週におけるフィジカルの割合は不明です。しかし、フィジカルセールスを加算していたならば確実にガンナ『DS4Ever』を上回っていたことでしょう。

 

 

『Dawn FM』の突如と言えるリリースは良い意味でのサプライズリリースと捉えられなくはありませんが、仮に今回は「Sacrifice」のリリースにとどめ、そのプロモーションに注力していたならば、結果は異なっていたのではないでしょうか。

ともすれば、ザ・ウィークエンドがチャート結果にこだわっていないという見方も出てくるでしょう。しかし、米ビルボードのチャート新記録樹立に際し下記のような協力姿勢を示すのをみるにつけ、チャートへの意識をきちんと持ち合わせていると考える自分がいます。

また『After Hours』の矢継早なデラックスエディションの投入は、オリジナル版購入者が損をすることを果たして考慮していたでしょうか。それ以上にチャートアクションを見越したための施策だったのではないかというのが、厳しくも私見です。

 

 

「Sacrifice」がラジオでかかるようになり、同曲そしてアルバム『Dawn FM』が巻き返すことができるか、注視していきたいと思います。