イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Da-iCE「CITRUS」の日本レコード大賞受賞の妥当性と、一方で賞自体の問題が変わっていないことの違和感を表明する

昨日行われた『輝く!日本レコード大賞』(TBS)。Da-iCECITRUS」が栄冠を手にしました。

今年は最優秀新人賞を受賞したマカロニえんぴつ共々、ストリーミングでのヒットが大きな要因となったと考えます。特に大賞においては2019年のFoorin「パプリカ」、2020年のLiSA「炎」に続き3年連続の傾向であり、”レコード”大賞という名前ながら柔軟な変化を行っていることが見て取れます。

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ビルボードジャパンによる最新12月22日公開分(12月27日付)までのDa-iCECITRUS」のCHART insightを上記に。最高位は8月11日公開分(8月16日付)の16位と決して高くはありませんが、フィジカルが枚数限定リリースだった同曲はTHE FIRST TAKE出演等の影響で接触指標主体にこの春から伸び始め、息の長いヒットとなりました。2021年のビルボードジャパン年間ソングスチャートで36位というのは十分なヒットと言えます。

ストリーミング再生1億回突破という現在のヒット曲の基準を9月に突破したDa-iCECITRUS」ですが、それでも『ミュージックステーション』(テレビ朝日)や『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)で披露するに至れていません。この状況に激しい違和感を覚え、またずっと続く男性ダンスボーカルグループ(男性アイドルグループとも称される)の冷遇と一方での厚遇を、上記をはじめとするブログエントリーで記し続けています。

(テレビ出演はダウンロード指標等を刺激し総合チャートの上昇に貢献するのみならず、認知度の向上にも寄与します。仮にDa-iCECITRUS」がメディアに、特に先述した番組に出られていたならば、週間ソングスチャートのトップ10入りもありえたはずです。)

ストリーミングヒットがレコード大賞受賞の基準となるならば、今回の結果はよく考えれば意外ではありません。Da-iCEの受賞はメディアや音楽業界に未だ蔓延る枷を可視化し、排除するフェーズに入ったと言えます。今後メディアや音楽業界、そして芸能界がどうなっていくかを監視していきましょう。そして、ストリーミングヒットが社会的ヒットであることに説得力を与えた日本レコード大賞の姿勢は純粋に好いと考えます。

 

 

その大賞受賞とは別に、以前から抱いていた日本レコード大賞に対する疑問は今回においても解決されないままでした。日本レコード大賞への違和感の正体を記し、早急な改善を強く求めていきます。

 

 

日本レコード大賞への違和感については2年前に一度紹介していましたが、その解決は成されないまま今年も実行されていたというのが厳しくも私見です。

 

 

まずは対象期間の曖昧さ。日本レコード大賞についてはTBSによるホームページ(→こちら)、および公益社団法人日本作曲家協会におる実施要項(→こちら)で紹介されていますが、いずれにも受賞やノミネート作品の対象となるリリース期間が記されていません。

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(公益社団法人日本作曲家協会のホームページについて、今後変更される可能性を踏まえて12月31日5時の段階の内容をキャプチャしました。問題があれば削除いたします。)

この点については、日本レコード大賞の番組冒頭で以下のテロップおよびナレーションにて説明されていました。

<テロップ>

2020年10月以降に発表された全ての音楽ソフトが対象

<ナレーション>

2020年10月以降に発表された全ての音楽ソフト、またそれ以前の発表であっても年度内に顕著な実績を上げた作品を対象に、既に優秀作品賞・最優秀歌唱賞などの各賞が決定しております。

・『輝く!日本レコード大賞』(12月30日)放送分より

テロップ表示の内容がナレーションと異なることでミスリードを招きかねないと考えますが、以前のリリース作品でも対象期間中に活躍すれば対象に含まれるということで、たとえば2018年8月13日に配信、8月15日にフィジカルリリースしたFoorin「パプリカ」は2019年の大賞受賞曲として問題ないことが解ります。ならば上記説明内容をなぜ日本レコード大賞のホームページに掲載しないのか、理解に苦しみます。

また2020年10月以降の作品が対象ならば、期間終了を2021年9月までと明確化すべきです。米のグラミー賞では基本的に期間を明確化する一方、日本レコード大賞ではかなり曖昧になっています。優秀作品賞を受賞したLiSA「明け星」は2021年10月18日に、最優秀新人賞を受賞したマカロニえんぴつが披露した「なんでもないよ、」は同年11月3日に配信されており、つまりは対象期間が1年1ヶ月を超えているのです。

対象期間より前のリリース作品が対象期間に顕著な活躍をしたゆえにノミネートや受賞を是とするのは、現在のストリーミングヒット曲の動きを踏まえれば理解できる一方、対象期間にはここまでという一定の区切りが必要ではないでしょうか。曖昧な対象期間は、不正等が疑われる余地を賞側が自ら用意してしまったと言っても過言ではないでしょう。

 

 

違和感の2つ目は、賞そのものの形について。たとえば特別賞や最優秀歌唱賞等を受賞した歌手は、主役である日本レコード大賞を受賞、もしくはノミネートされた歌手より長い尺を用意されています。Da-iCEの大賞決定後にインタビューもままならず突如曲が始まり、パフォーマンス終了後に余韻に浸ることなく番組が終了したことも、歪さの表れです。果たしてどちらが主役だったのか、そう思われてもおかしくありません。

長尺が用意されることが悪いわけではなく、先述したようにレコード大賞受賞曲等にも同様に大きなスポットを当てるべきだと考えます。そして特別賞受賞作品がなぜ優秀作品賞候補に入れないのかということも非常に気になります。

ストリーミングヒットが大賞候補曲になるのであれば、3億回再生突破のYOASOBI「怪物」は十分な候補となるはずです。にもかかわらず特別賞が用意されたのは、歌手側の意向が反映されたことが背景にあるのではないでしょうか。YOASOBIのパフォーマンスにおいてですが、日本レコード大賞が用意したバンドの音が一切加えられていませんでした。優秀作品賞候補曲演奏時にはバンドの音がプラスされるにもかかわらず、です。

日本レコード大賞のバンドの音は、曲をよりダイナミックにする点において以前は評価していましたが、今年は足枷になる印象も拭えませんでした。ならば特別賞受賞歌手のみならず、優秀作品賞候補曲もまた自分たちのスタイルを貫いてよかったと思うのです。

特別賞のほうが自分たちのやりたいスタイルができる、ましてや長尺をいただけるということを、ともすれば歌手側が把握していると推測します。

昨日のブログエントリーでも上記ツイートを紹介しましたが、これはYOASOBI側と番組側の協力が合致した結果であり、日本レコード大賞側が応じたとも言えます。であれば、賞側が本来「怪物」等を優秀作品賞に打診しながら叶わず特別賞という形で落ち着いたと考えるのは、決して邪推ではないはずです。

 

また、優秀作品賞においてはいつからか、出演しない歌手が候補になることはなくなっているようです。言い換えれば出演可能な歌手に優秀作品賞を授与し、開催日のスケジュールを押さえることが成立しています。音楽フェス等も開催される現在にあって優秀作品賞受賞歌手がすべて揃うのは不自然ではというのが私見。本来、日本レコード大賞が候補曲や歌手の選考に関して妥協することはあってはならないと思うのです。

仮に歌手側から辞退の申し出があるにせよ、まずは候補に入れるべきです。音楽賞が確固たる信念を持ち合わせているならば、また十分な権威があるならば、そもそも辞退すること自体が少ないはずです。

 

 

違和感の3つ目はTBS色の強さです。

音楽ジャーナリストの柴那典さんによるツイートを踏まえて私見をつぶやいたのですが、VTRに回した時間を本来の主役である日本レコード大賞受賞曲や優秀作品賞受賞歌手のフルバージョンでのパフォーマンスに充てたり、番組放送時間をタイト化すればよかったはずです。司会のスタイルにも古さを感じたのですが、たとえば同局のかつての番組『ザ・ベストテン』っぽいと考えれば、これもまたTBSらしさの一環でしょう。

音楽賞は放送局を固定しても、放送局の意向とは別であるべきです。日本レコード大賞Twitterアカウントが『音楽の日』と同じ”@TBS_awards”(→こちら)であること自体が、その意向反映(関係性の深さ)の何よりの証拠でしょう。

また、プレゼンターの存在は好いとして、賞の発表に絡ませなかったり、発表していただいたとしてあたかも受賞者より目立たせる演出は、そのプレゼンター自身も問題ながら起用した日本レコード大賞側の問題が大きいと言えます。さらに、TBSでOAされる1月クールのドラマの番宣が入るという特定カラーの挿入も、音楽賞の独立性を軽微だとしても揺るがすものです。

それを踏まえれば、安住紳一郎アナウンサーの起用にも一度考える必要があるでしょう。安定感は抜群かもしれませんが、よく考えれば局のアナウンサーが日本レコード大賞を発表するというのは放送局のカラーを挿入しかねない、独立性の担保に至れない何よりの証明と言え、また先述した往年の番組カラー的演出の一因とも考えられます。認知度の高さゆえ大賞発表は当然という指摘は、理由にはなりません。

 

 

音楽賞のあり方に別の角度から疑問を呈するならば、特別賞のみならず、新人賞においても優秀作品賞と重複できません。YOASOBI「怪物」やAdo「うっせぇわ」は2021年度のビルボードジャパン年間ソングスチャートでストリーミングを武器にトップ10入りを果たしていただけに、やはりそもそも優秀作品賞に含まれていないことは大きな問題です。

そして今回、アルバム部門については触れられていませんでした。これは昨年から続いていることであり、自分は他の音楽賞も含め日本の音楽業界自体がオリジナルアルバムへの軽視を続けているものと強く危惧します。昨年以降ということで新型コロナウイルスが割愛の要因とする見方が生まれるかもしれませんが、ウイルスが音楽業界に影を落としたとして、アルバム部門を外すという理由には一切成り得ません。

 

 

対象期間の曖昧さ、賞そのものの形の歪さ、TBS色の強さにより削がれた賞の独立性等、日本レコード大賞は以前からの問題を改善することなく今回も実行に至りました。さらにアルバムについては、より軽視する姿勢を採っています。大賞選考については賛辞を贈る一方で、優秀作品賞の選出等における日本レコード大賞への疑問は変わることがありませんでした。

とはいえ、日本レコード大賞の認知度は日本の音楽賞では最も大きく、影響が小さいわけではありません。ならばやはり問題には批判をしないといけないと考え、厳しくも意見を記した次第です。曖昧な対象期間を明確化する、優秀作品賞を事前の打診なく堂々と発信する、TBSで放送しても局のカラー(古い演出手法)を排し独立性を高める…先述した問題点はこれらによって解決可能と考えます。

 

VTRの多用等については視聴率優先と捉えることも可能です。ここ数年視聴率は良好に推移していますが、ともすれば大賞やその候補曲をきちんと紹介するより、VTRや往年の名曲のカバー、様々な企画を流したほうが視聴率が獲れやすいという局の意向もあるのではないでしょうか。しかしそれは今の音楽に対する軽視と言っても過言ではないでしょう。仮に視聴率優先ならば、TBSは放送する資格があるのかと問われるべきです。

今回自分が提示した見方は、ともすれば邪推や穿ったものと言われるかもしれません。しかし客観視する姿勢があれば、これら疑問は自然に生まれるはずです。日本レコード大賞運営側やTBSは客観視する姿勢を持ち、自問自答してほしいと強く願います。そうすれば今回取り上げた問題に対処するという意志を持てるはずだと信じます。

 

 

最後に市井に対して。

Da-iCEの所属レコード会社を名指しして非難するツイートがみられました。エイベックスがトレンド入りしていたのは、そういう声の発露に因るものでしょう。ならば何が問題か、真摯に批判する姿勢を採るべきです。

今回自分が提示した内容には一部推測も含まれますが、しかし吐き捨てる言葉は一切用いていません。真摯な言葉とただの非難では大きく異なり、前者のほうが確実に日本レコード大賞に届くはずです。自分はこの姿勢で、今後も様々な問題に対処していきます。