イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

年末の音楽特番、出揃ったラインナップから地上波メディアの傾向を読み解く

NHK紅白歌合戦』の披露曲が昨日発表されました。

紅白前後には日本レコード大賞や年越し特番等TBSの番組もありますが、ゴールデンタイムに地上波で放送される音楽特番の出演歌手および披露曲のラインナップがひとまずは確定したことになります。そこで今回、11月以降に放送された特番を一覧化し、その特徴を押さえることにします。

今回採り上げる音楽特番は、『ベストヒット歌謡祭』(読売テレビ / 日本テレビ)、『ベストアーティスト』(日本テレビ)、『FNS歌謡祭 (第1夜および第2夜)』(フジテレビ)、『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)、『ミュージックステーション』(テレビ朝日)および『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)となります。なお、ディズニーやミュージカル企画の詳細は含まず、一方でメドレーについては全曲掲載しています。

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参考として、2021年度ビルボードジャパン年間ソングスチャートについても掲載します。解説については、後述するブログエントリーをご参照ください。

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これらの表からどんな印象を受けたでしょうか。ここからは私見と前置きした上でまとめます。

 

まず、ビルボードジャパンによる2021年度年間アーティストチャートを制したBTSが不在となっており、これだけでも2021年の音楽の流行を押さえ難いと考えます。K-PopアクトではTWICEも、『ミュージックステーション』で「TT」の日本語版を披露するのみとなっています。

その一方ではTOMORROW X TOGETHERやENHYPEN等が複数の音楽特番に登場していますが、それ以上に目立つのはK-Pop的アプローチのJ-Popというか、NiziUが6番組すべてを制しているということ。とりわけ、『NHK紅白歌合戦』以外ではファーストアルバムのリード曲「Chopstick」を披露するという徹底っぷりです。

 

ストリーミングでの1億回再生突破が新たなヒットの基準に成ったと言われる中にあって、それを紹介してきた音楽番組が一方ではその基準を達した歌手を大きくフィーチャーしていないだろうという状況も目立ちます。

(上記は「CITRUS」のTHE FIRST TAKEバージョン。)

とりわけ顕著なのがDa-iCE。2番組に出演はしているのですが、この秋ストリーミング再生1億回を突破した「CITRUS」は1番組のみ、それも準キー局読売テレビ制作による『ベストヒット歌謡祭』のみで披露されている状況です。週間ソングスチャートではトップ10入りを逃しているとはいえ、テレビ出演がもっと前から行われていたならばより伸びただろうと考えるに、この状況には違和感を覚えます。

Da-iCEは『FNS歌謡祭』にも出演しましたが「DREAMIN' ON」のみであり(花村想太さんは別途ミュージカル企画に登場)、さらに現在Da-iCEは『仮面ライダーバイス』(テレビ朝日)の主題歌を担当しながらも同局の『ミュージックステーション』には未だに出演が叶っていません。このことも疑問を抱かせるに十分ではないでしょうか。

男性ダンスボーカルグループの出演の差は、11月にフィジカルデビューを果たしたINIおよびBE:FIRSTとなにわ男子との差でも歴然です。フィジカルセールスが最も強かったのがなにわ男子「初心LOVE」だとして、他の2グループはデジタルでも強さを発揮していたと言えます(一方で3組共に課題がみられるということは先日のブログエントリーにて記しています→こちら)。ゆえにやはりこの状況には違和感を表明せざるを得ません。

男性ダンスボーカルグループの出演傾向については、Da-iCECITRUS」を例に上記ブログエントリーに記しています。この厳密な理由は不明でも、メディアが特定の芸能事務所におもねりすぎているという見方を抱くのは自然なことだと考えます。また上記ブログエントリーで紹介したデータを踏まえれば、その傾向はより明らかだと言えるでしょう。

(特定の芸能事務所に偏ることが決して悪いということではありません。きちんとライバルと言える方々が結果を出したならば、その方々もきちんと出していいのではないかというのが私見です。)

 

また一方で、メディアの問題は時代の移り変わりに即していないことにあるとも言えそうです。特にTikTokで人気を博した曲については、そのほとんどが今回選ばれていません。ビルボードジャパンソングスチャートでトップ10目前まで上昇したMAISONdes feat. 和ぬか & asmi「ヨワネハキ」は選ばれておかしくなかったはずと考えますし、和田アキ子「YONA YONA DANCE」も入ってよかったのではないでしょうか。

(上記「YONA YONA DANCE」は、フレデリックと共演したYouTube FanFest 2021 JAPANでのパフォーマンス動画。こういう共演シーンを地上波ゴールデン帯音楽特番で観てみたいというのは自分だけではないでしょう。)

ともすれば、ゴールデンタイムの音楽番組(通常回)の視聴率が好いと言えない状況を踏まえ、その打開のためにより”数字が獲れる”だろう歌手を呼ぶ傾向にあることが背景にあるかもしれません。一方でそのことが音楽特番出演歌手の硬直化を生むのだとしたら、それは非常に勿体ないというのが私見です。

 

 

その意味では、『NHK紅白歌合戦』が実は攻めているという印象を抱きます。ある紅白出演歌手がゲスト出演したラジオ番組にて”紅白は保守が好い”と唱えたのを偶然耳にしましたが、紅白は保守のみならず一方では革新も持ち合わせ、そのバランスが取れていると感じています。millennium parade × Belle(中村佳穂)「U」は紅白がメディア初披露の場となり、まふまふさんは紅白自体がテレビでの初パフォーマンスとなります。

その一方、個人的には紅白への出演を望みつつも叶わなかった藤井風さんやEveさん等について(両者とも他の音楽特番にも登場してはいないのですが)、NHKは『NHK MUSIC SPECIAL』という特別番組を用意し、そこで彼らをフィーチャーしています。

ともすれば紅白出演有無とは別に特別番組を用意することで、NHKは彼らとのつながりを高めていると言えるでしょう。そして彼らのヒット曲が可視化されたビルボードジャパンソングスチャートはあらためて社会的ヒットの鑑だと感じると共に、NHKは紅白と『NHK MUSIC SPECIAL』とで他局との差別化を図っていることを強く感じることができるのです。

 

最後に、紅白における演歌歌謡曲についてですが、今年リリース且つオリジナルの新曲を披露するのは純烈および三山ひろしさんのみという状況であり、また三山ひろしさんについては今年もけん玉企画と相俟っての披露となっています。演歌歌謡曲に純粋な大ヒットが生まれていないことは、はっきり言って危機的状況ではないでしょうか。演歌歌謡曲の売り方は、2年前に紹介したときから変わったとは言えないと感じています。

(後者のブログエントリーにて、今年の主な演歌歌謡曲のチャート動向を掲載しています。)

紅白は保守がいいと唱えた歌手は、今年の紅白にて今年リリースした曲を披露するのですが、おそらくは演歌歌謡曲の歌手においても今年の曲、そしてオリジナル曲を披露したいという思いがあったのではないでしょうか。ならば演歌歌謡曲という業界全体が危機的状況をシェアし、打開策を見つけ、ヒットを量産する体制にしないといけないでしょう。

 

 

なお、『NHK紅白歌合戦』においては今後歌手の追加が予想され、個人的にはビルボードジャパン年間ソングスチャートを制した優里さん、そしてAdoさんの追加発表を期待しています。両者とも1月にアルバムをリリースしますが、紅白が重要なプロモーションにも成り得ると考えれば出場は大きなステップになることでしょう。そして紅白はビルボードジャパンのチャートを確実に意識しており、出演を打診しているはずです。