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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】「初心LOVE」「Gifted.」「Rocketeer」…トップ3からみえてくる課題と解決策とは

毎週木曜は、最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。

11月8~14日を集計期間とする11月17日公開(11月22日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。フィジカル関連指標初加算に伴い、なにわ男子「初心LOVE」が初登場で首位を獲得しました。

(上記動画はショートバージョンとなります。)

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なにわ男子「初心LOVE」のフィジカルセールスは63万枚を突破。冒頭で紹介した総合ソングスチャート振り返り記事によると『昨今のジャニーズ発デビュー組の1stシングルの初週セールス結果は、2018年のKing & Prince「シンデレラガール」(622,701枚)、2020年のSixTONES「Imitation Rain」(776,836枚)、Snow Man「D.D.」(752,236枚)だった』とあり、先輩方と遜色ない売上だったことが見て取れます。

 

注目すべきはデジタル指標群の好調でしょう。動画再生指標は9→2位に上昇しましたが、デビュー日に行われた羽田空港でのパフォーマンスがYouTubeにアップされたことが大きいと言えます。

「初心LOVE」はストリーミング指標も前週に引き続き300位以内となり加算対象に。サブスク共々カウント対象となるYouTube Musicでの再生回数が多かったと言え、その点でもなにわ男子は先輩方と肩を並べたことになります。

なにわ男子の先輩にあたるSnow ManおよびSixTONESがそれぞれ、YouTube Musicの再生回数のみでストリーミング指標300位以内に入った経緯があり、しかもSnow Manにおいては次のシングル「Secret Touch」でも最新11月10日公開(11月15日付)においてストリーミング指標が加点されています。

一方で、上記11月13日付ブログエントリーでも記載しましたが、やはりデジタル未解禁は勿体ないと言わざるを得ません。前週総合首位を獲得したBE:FIRST「Gifted.」や同2位のINI「Rocketeer」はダウンロードとストリーミングで9千ポイント以上を獲得しており、18871ポイントを獲得したなにわ男子「初心LOVE」がデジタル解禁していならば、前週2曲が獲得した2万3千ポイントを大きく上回ることが容易に想像できるのです。

おそらくはフィジカルセールスこそ大事だという意識が、”CDデビュー”という打ち出し方や、SixTONESSnow Manのデビュー時には行われなかったレンタル解禁の遅らせ策に表れていると考えます。仮にデジタル解禁がフィジカルセールスに影響を及ぼしたとして、デジタル収益で補填可能だと考えますし、デジタルは廃盤がほぼないことも魅力です。CDの枚数にこだわるのは好いとして、こだわりすぎる必要があったでしょうか。

また、なにわ男子は圧倒的なメディア露出が行われていましたが、デジタルはその出演の度に刺激されたはずです。メディア出演によるデジタルへの刺激については、ビルボードジャパンのスタッフの方々がポッドキャストにて紹介しています(下記ブログエントリー参照)。その点においても勿体なく感じています。

 

 

さて、前週のトップ2は今週も熾烈な戦いを繰り広げました。冒頭の総合チャート振り返り記事では『BE:FIRSTの「Gifted.」とINIの「Rocketeer」。総合ポイントで509ポイントという僅差の結果となったが、(中略) 総合ポイント差も420と前週より近づく結果となった』とあります。しかしながら、2曲のチャートアクションははっきりとした特徴、違いが見て取れるようになりました。

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フィジカルセールスではINI「Rocketeer」(が収録された『A』)がBE:FIRST「Gifted.」の5倍近い売上を記録した一方、多くの指標では「Gifted.」が勝っています。動画再生指標に関しては前週もお伝えしましたが、追加動画の公開等スケジューリングの巧さが光る印象です。その一方で、前週大事なことと記した点については、改善されているとは言えないというのが私見です。

前週はこのような表を掲載した上で、「Gifted.」や「Rocketeer」の持つ偏りを指摘しました。

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BE:FIRST「Gifted.」のストリーミング再生回数に占めるSpotifyの比率は3.2%で、今年度最も低かった5月26日公開(5月31日付)におけるBTS「Butter」の8.8%を5ポイント以上下回っています。また表にはありませんが、INI「Rocketeer」においてはストリーミング再生回数に占めるSpotifyの比率が2.6%となっています。

ここからみえてくるのはストリーミング再生回数に占めるLINE MUSICの多さであり、LINE MUSIC再生キャンペーンの効果が極めて大きいということ。最新ソングスチャートにおけるストリーミング再生回数の多くがコアなファンによるものであると想像できるのです。通常ストリーミング指標はライト層の支持が大きいことから、キャンペーン後の動向は非常に気掛かりです。

最新ソングスチャートにおいて、BE:FIRST「Gifted.」のストリーミング再生回数に占めるSpotifyの比率は4.5%。LINE MUSIC再生キャンペーン(LINE MUSIC再生回数キャンペーン)が集計期間中に終了した影響でこの比率が高まったと言えますが、しかし引き続きLINE MUSICでの再生に偏っていることが想像できます。なお、INI「Rocketeer」は今回の集計期間中にSpotifyでデイリー200位以内を割り込んだため、比率は不明です。

一方で、最新ソングスチャートのストリーミング指標を制した優里「ベテルギウス」は、集計期間中にLINE MUSIC再生回数キャンペーンを行いながらもストリーミング再生回数に占めるSpotifyの比率は14.7%と高くなっており、ライト層の獲得も十分であると言えるのです*1。実際、最新ソングスチャート集計期間内にApple Musicでは首位に到達し、Spotifyでも次週の集計期間に当たる11月15日付で初制覇を果たしています。

 

ロングヒットを続けるためには、如何にライト層にリーチし、接触指標を安定させていくかが重要です。コアなファンが回していくことも勿論大切ですが、物理的には限界があること、新曲の登場でそちらに熱量が移行すればライト層がつかない曲のランクダウンが生じること等を踏まえるに、ライト層獲得は必須でしょう。

また、LINE MUSIC再生キャンペーンの影響でストリーミング指標と総合ソングスチャートの順位が乖離したこと、ストリーミング指標上位曲の急失速が増えたことを踏まえ、ビルボードジャパンがチャートポリシー変更に動く可能性があります。ならば尚の事、なのです。

 

 

とはいえ、ライト層獲得は簡単ではありません。メディア露出が欠かせないとして、アイドル的側面を持つ男性ダンスボーカルユニット(ダンスボーカルグループ)においては厚遇と冷遇とがはっきり二分される印象が拭えませんが、ひとつの打開策として、世界での人気を獲得し日本の業界に風を吹かせることを提案します。

ビルボードがこの秋新設したHot Trending Songsチャートはコアなファンの人気も大きく影響すると言えます。直近7日間および24時間のリアルタイムチャートはこちらのリンクから、また金曜起点となる1週間のチャートは過去の週間トップ20も含めてこちらから確認できます。

このHot Trending Songsチャート、最新11月20日付ではBE:FIRST「Gifted.」が15位に初登場。ローンチされた10月30日付で登坂広臣さんがØMI名義で発表した「You」が17位に登場して以来となる日本人歌手2組目のトップ20入りを果たしています。

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最新11月20日付Hot Trending Songsチャートについてはトップ3や上昇曲、初登場曲のいくつかについて米ビルボード公式YouTubeアカウントより紹介動画が配信されています。次週BE:FIRST「Gifted.」がチャートで上昇を果たすならば配信動画に掲載され、それを機に名前を世界に広めることも可能です。

(ただし最新チャートにおいて画像が未掲載であるため、所属レコード会社や所属事務所側が米ビルボードにアプローチする必要があると考えます。)

 

Twitter指標は米ビルボードソングスチャートの構成指標にはない一方でビルボードジャパンソングスチャートには含まれます。個人的にはツイートの加熱に違和感を覚える部分は否めませんが、ビルボードジャパンが今年度第4四半期にTwitter指標のウエイトを減少させ日本での影響力が弱まったこと、Hot Trending Songsチャートに日本からの分が活きるだろうことを踏まえれば、ランクインを目指すのもひとつの手段でしょう。

まして先述したような厚遇と冷遇の問題が発生しているだろう状況を踏まえれば、世界のチャートに載ることでメディア露出できていない状況の不自然さを際立たせ、メディアや音楽業界が出演に至らせる、またメディア等が自浄することにランクインが背中を押すという効果が期待できるかもしれません。

 

勿論ですが、Hot Trending SongsチャートにはBE:FIRSTのみならず、INIも、またなにわ男子もランクインを目指すことが可能です。ただし口コミをより効果的に拡げるためにはデジタル環境の整備は最低限必要であり、「初心LOVE」はその大前提に立たなければならないことをあらためて記しておきます。

*1:優里「ベテルギウス」におけるLINE MUSIC再生キャンペーンについてはこちらをご参照ください。