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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アデル「Easy On Me」が世界中でとんでもない勢い…その記録的な数字を紹介し、理由を分析する

一昨日リリースされたアデル「Easy On Me」が凄いことになっています。

"私に手加減してほしい" "お手柔らかに"を意味するこの曲は、11月19日にリリースされる4枚目のオリジナルアルバム『30』のリード曲。6年ぶりとなるアデルの帰還が、世界の音楽業界を轟かせています。

アデル「Easy On Me」は10月15日における世界でのSpotify再生回数が19,749,704回に達し(同日付チャートはこちら)、1日の再生回数における新記録を樹立しました。米ビルボードソングスチャート予想者による上記ツイートはクリスマスソングを含む最多再生回数ランキングですが、クリスマス当日に圧倒的な再生回数を記録する曲に勝るのは凄いことです。クリスマスソングを含まないチャートとなると、さらに圧倒します。

「Easy On Me」は米においても驚くべき数字を記録。

10月15日付米Spotifyデイリーチャートはこちら。アデル「Easy On Me」は6位。ドレイクが7曲、オリヴィア・ロドリゴが2曲ということでこの2組の強さが際立ちますが、アデルはダウンロードやラジオ等も突出している模様であり、10月15日を起点とする10月30日付米ビルボードソングスチャートでの首位登場が確実と言えるかもしれません。

 

この「Easy On Me」はアデルの出身地であるイギリスの解禁時間に合わせてリリースされたため、日本では10月15日午前、アメリカでは14日木曜夜に解禁。イギリスでは10月15日付Spotifyデイリーチャート(→こちら)で歴代新記録を樹立しています。

米では10月14日木曜において、わずか数時間の再生回数にもかかわらず「Easy On Me」が83位に登場(同日付米Spotifyデイリーチャートはこちら)。米ビルボードソングスチャートを予想するWinstonさんは、わずか5時間の米でのチャートインにより、日本で明後日発表予定の10月23日付米ビルボードソングスチャートで「Easy On Me」が100位以内に到達すると予想しています。

無論、16日以降の動向も把握しないことには断言できないものの、とんでもない記録となりました。

 

 

アデル「Easy On Me」が素晴らしい勢いを伴って帰還したのにはいくつかの理由があります。

まずはアデル待望論の醸成。これまでの3作品が世界中で高く評価され、グラミー賞においては『19』で最優秀新人賞、『21』および『25』は共に最優秀アルバム賞且つ収録曲(「Rolling In The Deep」および「Hello」)が最優秀レコード賞&最優秀楽曲賞を受賞と主要4部門のいずれかを受賞してきました(『21』以降では新人部門は獲れないため、実質独占と言えます)。ゆえに新作が待望されないわけがありません。

アデルが『Easy On Me」のリリースをアナウンスしたのは10月に入ってからですが、直前にはアルバムリリースを思わせる仕掛けもありました。まず上記ツイート自体が前の(リプライ以外での)ツイート(→こちら)から1年近く経過していること自体が仕掛け的と言えるかもしれません。

本来『30』がリリースされる11月19日にはテイラー・スウィフトが『Red』の新録盤『Red (Taylor's Version)』をリリースするはずでしたが1週間前倒ししています。そしてこの直後、アデルのSNSページのアイコンやヘッダー画像が切り替わり、世界各地に『30』の広告看板が掲示されました。アデルとテイラーにコンタクトがあったかは不明ですが、テイラーがアデルのカムバックを祝してエスコートしたとも言えそうです。

アデルのものと思われる広告看板は、テイラーのリリース変更発表の翌日に現れたため、テイラーのファンたちは、アデルのアルバムの発売日は11月19日で、もともと二人のアルバムが同日発売予定だったのではないかと考えている。

アデルのカムバックが確実視されたタイミングで「Easy On Me」がアナウンスされ、リリースに至ったわけで、リリース日の盛り上がりが最高潮に達したのは自然なことと言えるでしょう。

 

もうひとつは、デジタルとの前向きな付き合い方への変更にあります。アデルは前作『25』において、定額制音楽配信(サブスク)サービスでの解禁をリリースから半年以上経過したタイミングで行っていました。

「25」リリースから7カ月経ち、SpotifyApple Music、Amazon Prime、TIDAL、Google Play Musicで配信を始めたアデルと、制作を担当したインディーズレーベル「XL Recordings」(Beggars Groupのグループレーベルでレディオヘッド作品もリリース)は、発売当初から、発売と配信の時期をずらす「ウィンドウィング」戦略を行うことを明言していました。

先述したテイラー・スウィフトも含め、2010年代半ばまでは様々な理由により定額制音楽配信に後ろ向きな歌手が少なくありませんでした。しかしながら定額制音楽配信サービスのニーズが『25』リリース以降の6年間で俄然高まったのは明白であり、リスナーの接触行動が音楽業界を動かす大きな力に。米ビルボードアルバムチャートにも再生回数が反映されることもあり、現在ウィンドウィング戦略を採る歌手は多くありません。

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アデルは、公式YouTubeチャンネルにこれまでアップした動画の概要欄に、追加の文言やリンク先を掲載。そこからアデルの公式ホームページに遷移し、定額制音楽配信サービスで予約することが可能となっています。この動きは、今作『30』においてウィンドウィング戦略を採らないことの証明であると断定していいでしょう。

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さらにアデルはSpotifyの動画表示機能であるCANVASにて、「Easy On Me」のミュージックビデオにおけるあのドラマティックな瞬間を用意しています。定額制音楽配信サービス内の機能を活用し、さらに魅せることにこだわる姿勢は見事です。

 

 

ここまでブログを記載したタイミングで、米ビルボードが公式にアデル「Easy On Me」の凄さをアナウンスしました。

アデル「Easy On Me」は米では10月14日にリリースされ、解禁から5時間分が日本時間の明後日発表される10月23日付米ビルボードソングスチャートに反映。その5時間で「Easy On Me」は15000を売り上げ、ストリーミングは300万を突破。15日までの29時間にはダウンロードが42000以上を記録しています。2021年にダウンロード指標で4万を超えたのは5曲のみです(そのうち4曲がBTS)。

またラジオでは解禁後5時間のうちに、全ジャンルのラジオソングスチャートの対象となる250局(複数のフォーマットをカバーする1300以上の局を含む)で897回OA。これは総インプレッション数310万に相当し、翌日は24時間フル加算で4160回OA、総インプレッション数2100万に到達しました。15日OA分ではザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」の4114回OA、総インプレッション数1320万を上回っています。

開始5時間の310万という数字では10月23日付米ビルボードソングスチャートのラジオ指標で50位以内には入らないと思われますが、それでも驚異的な数字であることは間違いありません。

そして何より、米ビルボードがリリース直後の動向を公表するのは稀であり、その点からも如何にアデル「Easy On Me」がとんでもないヒットに成り得るかがよく解るのです。各指標を構成するプラットフォームの動向に注目しつつ、明後日発表の10月23日付米ビルボードソングスチャートにおいてわずか5時間の数字で「Easy On Me」が何位に到達するか、非常に楽しみです。