(※追記(2023年3月15日5時37分):はてなブログにてビルボードジャパンのホームページを貼付すると、きちんと表示されない現象が続いています。そのため、表示できなかった記事についてはそのURLを掲載したビルボードジャパンによるツイートを貼付する形に切り替えました。)
最新9月25日付米ビルボードソングスチャートは前週のドレイク寡占状態が薄れ、一度トップ10圏外に押し出された曲の大半が再浮上。その中で特に顕著な伸びを示したウォーカー・ヘイズ「Fancy Like」は、キャリア初のトップ5入りを果たしています。
元来TikTokで人気になったこの曲がさらなるステップアップに至れたのはケシャを招いたリミックスの投入でしたが、そのバージョンはリリース前、ふたりのTikTok公式アカウントにて音源が公開されているのです。
集計期間初日となる9月10日にケシャを迎えたリミックスが登場したことが躍進の契機となりました。
(中略)
ケシャ参加版リリースの3日前、ウォーカー・ヘイズそしてケシャそれぞれのTikTok公式アカウントにて共演動画が投稿。それぞれ180万、220万のフォロワーを抱えており、さらなるヒットにつながった形です。
@walkerhayesofficial ##duet with @kesha 😱😱😱😱hold up is this the real Kesha? Ok…I’m dead
♬ Fancy Like - Walker Hayes
@kesha I’m fancy like… @lowgy_ @walkerhayesofficial
♬ Fancy Like - Walker Hayes
TikTokから動画再生やストリーミングに火が付き総合でもヒットに至るというパターンは少なくありません。しかし「Fancy Like」のリミックスバージョンはそのリリース前にTikTokでプレビュー公開されています。リリース前のいわばチラ見せという戦略、最近のTikTokで目立っているように思うのです。今回はそれらの例を紹介します。なお、Instagramストーリーズの事例も一部含みます。
チャートにおいてTikTokチラ見せが大きな影響を及ぼしたといえば、ドレイク「Toosie Slide」でしょう。
昨年春に米ビルボードソングスチャートを初登場で制したこの曲は、前もってインフルエンサーに音源を渡し、独自のダンスを用意してもらった上でリリース前に投稿。チャート制覇のみならずチャレンジモノとしても成功を収めました。
さらにはダンサーで歌手のAyo&Teoがこの曲を使ったダンスをインスタグラムやTikTokで公開して話題に。ダンスチャレンジモノとして人気となったこと、そしてダンスの紹介の際にドレイクの未発表曲だと伝えたこと(実際に「Toosie Slide」のリリース前にAyo&Teoがアップしています)が、新曲へのニーズを高めたものと思われます。つまりはいわゆる”仕掛け”がチャート制覇に大きく寄与したのです。
@officialayoteo New dance called #toosieslide :) unreleased Drake too 🦉
♬ original sound - Ayo & Teo
リル・ティージェイ feat. 6LACK「Calling My Phone」は曲のプレビューをTikTokで公開。
リル・ティージェイはポロG「Pop Out」に客演参加し2019年6月に最高11位を獲得していましたが今作で最高位を更新、また6LACKにとってソングスチャート50位より上にランクインしたのは今回が初となります。ストリーミングは3400万を獲得し同指標制覇、ダウンロードは3000、ラジオは140万を獲得しましたが、ストリーミングの強さの理由はこの曲のプレビューをTikTokで公開したことにあります。
@liltjay SHAKING SHI* BACK UP 🔥🔥🥰 LOL I GOT A NICE VALENTINES DAY GIFT FOR YA #CALLINGMYPHONE FT (****?) DROPPING 2/12 ! 💖💖
♬ lil tjay unreleased snippet - Lil Tjay
今週金曜にはコールドプレイがBTSと組んだ「My Universe」がリリースされますが、レコーディング風景が双方のTikTokアカウントにて既に公開されています。
@coldplay ##MyUniverse // Coldplay X BTS // September 24th // ❤️♾⭕️ @bts_official_bighit ##bts ##coldplay
♬ My Universe - Coldplay x BTS
@bts_official_bighit ##ColdplayXBTS ##MyUniverse 🪐 Coming Soon..!
♬ My Universe - Coldplay x BTS
この動きは日本でも。たとえばWurts「分かってないよ」はTikTokで先行公開を実施。
ミュージックビデオでも工夫がみられる「分かってないよ」は5月にリリースされましたが、TikTokではすでに1月の段階で解禁されていました。
@nia_n_ ♬ 分かってないよ - WurtS
音楽家でもありながら研究者とも名乗るWurtsさん。『「分かってないよ」もTikTokを意識して作った』とのことですが、仮にTikTok人気の機が熟した段階で配信リリースしようと考えてスケジュールを組んだのならば、実に見事ですね。音楽ジャーナリストの柴那典さんによるコラムで、Wurtsさんについてまとめられています(『』内も下記コラムより)。
同種の事例は、meiyo(メイヨー)「なにやってもうまくいかない」でも。
来週月曜、この「なにやってもうまくいかない」でメジャーデビューを果たすmeiyoさん。実はこの曲、メジャーデビューのタイミングで初めてフル尺リリースされるのです。
2021年に入ってTikTokのアカウントを開設し、オリジナル曲「なにやってもうまくいかない」を7月に投稿。この楽曲は「TikTokで伸びるものにはいろいろ要素があり、研究をするも、TikTokで売れる曲に合わせると中々曲がつくれない」「売れる曲わからん。ダメだ。何やってもうまくいかない」という感情をそのまま曲に落とし込んだ1曲。
この楽曲がさまざまなクリエイターからの共感を得て、TikTok内での楽曲を使った踊ってみたや歌ってみた投稿は今や4万件を超え急上昇チャート1位をも獲得するほど話題となり、待望のフル尺配信リリースとなる。
@meiyo_music 縺溘□縺ゅ>縺輔l縺溘>da縺代↑縺ョ縺ォ #オリジナル曲 #音源使ってね #fyp #CapCut
♬ なにやってもうまくいかない - meiyo
Wurtsさん同様に研究しながらもうまくいかなかったmeiyoさん。ですが結果的にはバズが発生しメジャーデビューの道が拓けています。
さらには、「ドライフラワー」が今年度のビルボードジャパンソングスチャートで最上位を掴みそうな優里さんは、新曲「夏音」を今月19日のリリースに先駆けてTikTok等にて先行配信しています。
優里『夏音』🎆🎐
— 優里すたっふ (@yuuri_staff) 2021年9月12日
TikTok、Instagram・facebookミュージックスタンプにて先行配信決定☺️💫
9月12日(日)より順次配信スタートいたします❗️
詳細はこちら💁🏻♂️https://t.co/SOWZnFF0KU
是非チェックして頂けると嬉しいです🙇🏻♂️!
#優里_夏音 pic.twitter.com/IAh1LjVwsD
@yuuri_music_official 9月19日(日)「夏音」デジタルリリース!iTunesにてDL予約受付中です!TikTok.Instagram.Facebook<ミュージックスタンプ>も先行配信中!たくさん投稿してもらえると嬉しいです! コメントで感想も聞かせてください!##優里 ##夏音 ##優里_夏音
♬ オリジナル楽曲 - 優里
「夏音」はドラマ『ドライフラワー-七月の部屋-』(Hulu)のために書き下ろされた曲。ドラマは先月配信を開始したため、TikTok以前にドラマにて先行公開された形ですが、しかしTikTok等で機を熟してからのデジタル配信という点では共通していると言えるかもしれません。「夏音」は日本におけるSpotifyデイリーチャートで9月19日に120位に初登場、翌日は86位に上昇しています。
TikTokによってリリースから間もない曲が追い風を受けてヒットしたり、リバイバルヒットが生まれるのみならず、これからリリースされる曲がプレビュー(チラ見せ)を経てヒットするというスタイルが生まれつつあります。そしてTikTokには追い風となるであろう調査結果も報告されたばかりです。
日本の TikTok ユーザーは平均34歳、博報堂調査が示す実態 : 要点まとめ https://t.co/PUujHdlSSz
— DIGIDAY[日本版] (@DIGIDAYJAPAN) 2021年9月16日
この調査ではTikTokユーザーのコンテンツへの積極的な支出、ならびに主要プラットフォームの中でも年収が高いことが指摘されています。それゆえ、歌手側の自主的な工夫にとどまらずレコード会社や芸能事務所側が積極的に展開することも十分考えられます。
このTikTokを活かしたいとしてか、テイラー・スウィフトは突如「Wildest Dreams」の再録版(Taylor's Version)を先週金曜にリリースしました。
@taylorswift Someone said slow zoom makes you look like the main character I said make it Taylor’s Version pls ##wildestdreamstaylorsversion ##swifttok ##slowzoom
♬ original sound - Taylor Swift
ここ最近、スウィフティーズは数多くの嬉しいサプライズをテイラーから受け取っている。先週金曜日には、『1989』に収録されている「ワイルデスト・ドリームス」がTikTokでバズったことを受けて、再録ヴァージョンが突如解禁されていた。テイラーは、その際「ハーイ!みんながTikTokで“ワイルデスト・ドリームス”をトレンドされてくれたのを見ました。なので、私のヴァージョンをシェアしようと思いました」とツイートしていた。
テイラー・スウィフト、ファンのためにCDをサインし続けたため手が“ある状態”になってしまったと投稿 https://t.co/WS28RaTMnK pic.twitter.com/vCUD6cAXjx
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年9月21日
尤もテイラーにおいては原盤権がコントロール下になく、オリジナルバージョンの音源を使われるたびに苦しい思いをするゆえ「Wildest Dreams」を再録版のほうでバズらせたいとしてサプライズリリースに至ったとも考えられます。
元々2014年にリリースされていた『1989』の再録版がいつ出るかは不明ですが、本来はアルバムリリース前にリード曲(再録曲含む)を切りたかったはずです。「Wildest Dreams」が前倒しでリリースされたことを踏まえれば、テイラー・スウィフトにとってもTikTokの動向は無視できないと捉えることができるでしょう。