BTS「Butter」が全世界的に首位を記録しています。しかし、チャートを構成する指標をみると、世界や日本とアメリカとではその内容が大きく異なります。言い換えれば、米においては「Butter」が未だセールスに頼っているという側面が見て取れるのです。
日本でのヒットは最新6月16日公開(6月21日付)でも明らかなように、所有指標のダウンロード以上に、ストリーミングや動画再生といった接触指標群が牽引しています。
また、昨年秋に米ビルボードが新設したグローバルチャートでは、Global 200およびGlobal Excl. U.S.共に初登場で首位を獲得。2つのチャートにおいて、チャートを構成するダウンロード、ストリーミングの2指標共に最高記録を更新しています。初週の動向はリンク先をご確認ください。なお、ストリーミングは日本と異なり動画再生も含みます(米ビルボードも同様)。
では米ビルボードではどうでしょうか。
「Butter」の3連覇の要因はダウンロード以外にもあれど、滅多にないダウンロード10万超えが3週続く状況がとりわけ大きいのです。ストリーミングとダウンロードは金曜集計開始となりますが(ラジオは3日後の月曜開始)、2週目の集計開始初日に”Hotter”リミックスが、3週目の初日に”Cooler”および”Sweeter”という2種のリミックスが投入されており、それらが影響しているのは間違いないでしょう。
リミックスの多くはミュージックビデオも作成されていますが、ストリーミングではこれらリミックスの投入にも関わらず2週連続でダウン。ラジオについては初登場首位獲得時に50位以内に入る快挙を達成しているものの、リミックス投入が大きな伸びにつながっているとは言い難いかもしれません。
では、「Butter」のライバルであるオリヴィア・ロドリゴ「Good 4 U」はどうでしょう。
「Good 4 U」はBTS「Butter」が登場する前の週に米で初登場首位を記録。解禁の翌週にアルバム『Sour』が発表されたことで登場2週目は構成3指標を全て伸ばしながらも、「Butter」の後塵を拝する結果となりましたが、3週連続で2位をキープし首位奪還を狙っています。
首位獲得曲や目立った動きを示した曲以外は3指標すべての数字が明らかになるわけではありませんが、4週連続首位をキープするストリーミングでは「Butter」との差を拡げています。またラジオは初登場時こそ低いもののトップエアプレイゲイナーを2週獲得し、「Butter」を追い越しました。「Good 4 U」は最新週において2指標でリードしながら、ダウンロードで大差がつき総合では逆転を許しています。
指標には強みと弱みがあり、またアイドル(的人気の歌手)は特にダウンロードに強い傾向があります。ゆえにダウンロードが非常に強いBTS「Butter」が問題というわけではありませんが、しかし気になる点があるのです。
グローバルチャートはストリーミングとダウンロードから構成されていますが、その中身は米ビルボードと異なります。グローバルチャートは主要デジタルプラットフォーム(iTunes Store等)での売上に限定される一方、米ビルボードは歌手のホームページにおけるダウンロードやフィジカルセールスも含みます。そして、Global 200からGlobal Excl. U.S.を引いた分が米の分と推測可能です。
最新6月19日付Global 200における数値は不明ながらもGlobal Excl. U.S.の推移から察するに、米におけるダウンロードは27900と仮定できます。一方の米ビルボードでは同週のダウンロードが138400であり、10万を超える乖離が生まれているのです。米ビルボードとグローバルチャートの米の分におけるダウンロードの差は3週連続で10万を上回っています。
一方、「Good 4 U」が初登場で米ビルボードおよびGlobal 200を制した5月29日付では(Global Excl. U.S.は5位)、米ビルボードにおけるダウンロード、そしてGlobal 200からGlobal Excl. U.S.を引いた分共に12000となり、歌手のホームページでの売上はほぼないと推測できます。BTS「Butter」のホームページ上での売上が如何に大きいかが解るのです。しかも米記事にあるように、フィジカルセールスはまだカウントされていません。
BTS「Butter」がデジタルプラットフォームでも安価販売されていながら、歌手のホームページで購入するという心理とはどのようなものでしょうか。前者での購入ならばパソコンやスマートフォンの新調や紛失等の際、追加料金無しでダウンロード可能となり利便性がより高いはずですが、より直接的な利益になってほしい、もしくは万一の際に追加料金を支払うことをいとわないという心理が働いているのではと考えます。
仮にそうならば、この心理はコアなファンにこそ多いものと言え、ゆえに米におけるダウンロード指標の多くが歌手のホームページ経由で、ファンの熱量により買われていると想像することが可能です。強引な結論かもしれませんが、接触指標以上に所有指標が強いこと、その中にあって歌手のホームページでの購入分が大きいことから、米における「Butter」のヒットはコアなファンがより強く支えていると言えるのです。
コアなファンが支える所有指標が強い一方で接触指標が強くないという状況は、日本におけるフィジカルセールスに長けたアイドルと変わらない気がします。日本との違いは、複数バージョンを合算する米ビルボードやグローバルチャートでリミックス投入が有効に作用すること。リミックスは接触、所有どちらの指標も刺激しますが、3種のリミックスとインストゥルメンタル(現在まで)を投入した「Butter」は主に所有指標を刺激し続けることで、首位の座をキープしていると捉えることが可能です。
ただ、このリミックス施策については思うところがあります。
現在トップ10入りを続けるデュア・リパ「Levitating」ではダベイビーを、ザ・ウィークエンド「Save Your Tears」ではアリアナ・グランデを招いたリミックスが投入。後者はそのタイミングで米チャートを制しています。現在米で多く見られるリミックスは上記のような共演や客演の追加(差替含む)のほか、著名なリミキサーによるリミックスもあり、またリミックスの際にオリジナルのメロディを変更するものもあります。
しかし、先述した「Butter」ではその傾向がみられません。これは英語詞曲の前作となる「Dynamite」も同様と記憶しています。BTSは以前、韓国語曲「Idol」でニッキー・ミナージュを招いたバージョン(これもリミックスの一種と言えます)を用意していますが、英語詞曲ではこのような客演追加はみられません。
どんなリミックスを用意するかは自由であり、先述した3つの型(客演追加、リミキサーの起用およびメロディの差し替え)をなぞる必要はありません。しかし、複数のリミックスを投入しながらこれらの型がみられないならば、リミックス施策がチャートアクションをより重視したものと思われてもおかしくないのではないでしょうか。「Dynamite」は10前後のリミックスが投入されましたが、そのような施策を考慮し、以前のフィジカル施策同様に米ビルボードがチャートポリシー変更を行う可能性も出てくるでしょう。
今回の「Butter」の米におけるチャートアクションは、個人的には「Dynamite」をほぼ完全になぞるものと感じています。そして接触指標が強くない状態が続く以上、悲願のグラミー受賞もまだ遠いのではと思うのです。3月のブログエントリーで指摘した内容が改善されていないと思うゆえ、尚の事です。ラジオは前作より順調かもしれませんが、ストリーミングの強くなさが特に気になります。
【#イマオト ブログ更新】
— Kei (@Kei_radio) 2021年3月25日
グラミー賞後のチャートアクションを踏まえ、#BTS「#Dynamite」がグラミーを受賞するために米ビルボードでのチャートアクションはどうあるべきかを考えてみました。ライト層拡充(接触指標の充実)が最重要と捉えています。https://t.co/pz7Y9872XJ
今日のブログ #イマオト での #BTS「#Dynamite」記載は、以前noteに書いた内容を拡充したものです。https://t.co/5K3I9ypRzt その後、グラミー賞を逃した件に対し様々なリアクションが見られましたが、熱量の高さゆえに批判が非難になっていることが少なくないと見受けられたゆえ、今回記載しました。
— Kei (@Kei_radio) 2021年3月25日
#BTS は音楽の質の高さや人柄、社会活動等において、グラミー賞をいつか受賞すべき方だと考えています。その一方でチャートアクションからは、コアなファンと興味ない方との乖離が大きく、ライト層を作り上げることすなわち接触指標の強化が必須と考えます。それがグラミーにもつながるはずです。
— Kei (@Kei_radio) 2021年3月25日
また、日本でのチャートアクション(ビルボードジャパン)と米ビルボードとでは、前者が接触に、後者が所有に優れていることが解ります。ただし前者は所有指標も安定。この差が、日本人からすればBTSがグラミー賞を逃したことに違和感を覚える方が少なくないだろう理由かもしれませんね。
— Kei (@Kei_radio) 2021年3月25日
さらに、最新の米ビルボードとグローバルチャートの速報記事に対するインプレッションの差が大きすぎるのも気掛かりです。
.@BTS_twt's "Butter" glides to a third week at No. 1 on the Billboard #Hot100 songs chart. 💯https://t.co/ev6CKBvmvk
— billboard (@billboard) 2021年6月14日
.@Olivia_Rodrigo's "Good 4 U" adds a second week at No. 1 on the Billboard Global 200 and @BTS_twt's "Butter" spends a third frame atop the Global Excl. U.S. chart.https://t.co/icQLqtdNrg
— billboard (@billboard) 2021年6月14日
ブログ執筆時点で、BTS「Butter」が3連覇したことを紹介する米ビルボードソングスチャートのツイートに3万6千を超えるリツイートがついている一方、グローバルチャートのツイートは150RTにも達していません。「Butter」はGlobal Excl. U.S.を制した一方、「Good 4 U」がGlobal 200を制したオリヴィア・ロドリゴがカバーになっているゆえでしょうか。このRTが主にファンによる行動の結果ならば、厳しい物言いですがコアなファンの方々にはもう一歩先を見据える姿勢を持ってほしいと願います。
チャートを制したこと自体は素晴らしいことですがその中身を分析すれば弱点がみられ、接触指標の強くなさはコアなファンとライト層、もしくは興味ない方との乖離の大きさを示すに十分です。また大量のリミックス投入やその内容の独自性がチャートポリシー変更を促す可能性もあります。Global 200での首位脱落は残念ですが、そこから何を学ぶかを運営側と共に考えるきっかけにしていただきたいと思うのです。上記で示したリツイート数の大差には、正直なところ違和感を覚えます。
リミックスを複数投入しなくとも「Butter」は3週連続で米ビルボードでトップ10入りをキープできた可能性は高く、実はそれ自体凄いことなのです。ならばリミックスを投入する際によりヒットの実態に即したものを用意し、ライト層や興味ない方にインパクトを与えて欲しいと思います。そしてコアなファンの方々にはグラミー賞受賞の夢を果たすべく、ライト層等を刺激し接触指標を上げる方法を模索してほしいと願います。
最後に。米ビルボードおよびグローバルチャートのチャートの中身について、下記ブログエントリーで解説していますのでご参照ください。