イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ザ・ウィークエンドが判明に至らせた、米アルバムチャート換算方法の問題点

最新の米ビルボードソングスチャートでアリアナ・グランデを迎えた「Save Your Tears」が初制覇を果たしたザ・ウィークエンド。オリジナルアルバム『After Hours』(2020)からは3曲目の首位獲得曲輩出となります。

この「Save Your Tears」の動向が反映されたアルバムチャートに強い違和感を覚えたため、今回のエントリーを記載します。チャート分析者としてチャートを冷静に判断、問題点を指摘し改善を促すのは、チャートがより社会的ヒットの鑑になることを願ってのものです。

「Save Your Tears」はベストアルバム『The Highlights』にも収められています(ただし双方のアルバムに、アリアナ・グランデを迎えたリミックスは未収録)。

(上記は最初に登場した14曲収録のオリジナル版。) 

ベストアルバムはザ・ウィークエンドがスーパーボウルハーフタイムショー出演に合わせてリリースされたもので、両作品共にヒットを続けているのですが、この順位変動が気になるのです。

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『The Highlights』が安定しているのはベスト盤だからという見方もできますが、『After Hours』がここまで乱高下を繰り返すのはちょっと異様ではないかというのが私見。実は以前からこの件には疑問をいだいていたのですが、最新チャートの解説にこの原因が記載されていました。

7位には、ザ・ウィークエンドの『アフター・アワーズ』(39,000ユニット)がリエントリー。一方、先週8位にランクインしていたコンピレーション・アルバム『ザ・ハイライツ』は22位にランクダウンした。2作はいずれもザ・ウィークエンドの作品で、前者が昨年4月にリリースされた4thアルバム、後者は今年2月に発売されたキャリア10周年を記念したベスト・アルバムだが、両アルバムに収録されている「ブラインディング・ライツ」や「セイヴ・ユア・ティアーズ」など人気曲によるポイントは、その週アクティビティが多い方に割り当てられるため、「ブラインディング・ライツ」と「セイヴ・ユア・ティアーズ」のユニットは、今週アクティビティが多かった『アフター・アワーズ』に加算され、順位が入れ替わった。2月20日付チャートで『ザ・ハイライツ』がランクインして以降、この現象が繰り返されている。

アクティビティについての補足説明が必要でしょう。この点については米ビルボードの記事がきちんと示しています。

The Weeknd’s After Hours re-enters at No. 7 with 39,000 units (up 711%). Meanwhile, his best-of compilation The Highlights falls 8-22 with 20,000 units (down 49%). The two albums share a pair of songs, “Blinding Lights” and “Save Your Tears.” On the latest chart, the TEA and SEA units for both songs contribute to After Hours, as a song’s activity is assigned to the artist’s album with the most sales in a week. (After Hours sold 1,500 copies in the latest tracking week, while The Highlights sold 1,000.) A week ago, the TEA and SEA for both songs was directed to The Highlights (which in that frame outsold After Hours). In turn, with the songs’ activity reverting back to After Hours, the album rises re-enters at No. 7.

収録曲のダウンロード購入分におけるユニット換算分(TEA)およびストリーミング再生回数分におけるユニット換算分(SEA)は、より多く(アルバム単位で)売り上げたほうに加算される、というのが先の解説におけるアクティビティの意味。『After Hours』は1500、『The Highlights』は1000を売り上げたことから今週は『After Hours』に加算されたということになります。

(ビルボードジャパンの解説記事は単なる翻訳ではなく独自の解説も補足されているのですが、大事な部分を省かないでほしいということも記載しておきます。)

 

 

ビルボードアルバムチャートにおけるチャートのシステム(チャートポリシー)については、以前にも問題点を示しています。

曲数が多いほうが有利になるのが現在のアルバムチャートの特徴と言えます。またオリジナル版のリリース直後にデラックス・エディションが乱発されるのは現行のチャートポリシーを意識したものであり、この状況下ではオリジナル版を所有したライト層が損をしかねないという違和感を覚えたことが、上記エントリー記載の理由です(一方でコアなファンは購入し続けようという思いが強くあるものの、しかし負担が増える点でやはり問題と言えます)。

そして今回発覚したのは、複数のアルバムに収録されている曲のダウンロードやストリーミングをアルバムセールスの高いほうに全て加算するという問題。もっと言えば、そもそもユニット換算制度自体が問題ではないかとすら言えるかもしれず、現行のアルバムチャートにおいては質の高いアルバムが見えにくいのではないかと思うのです。

 

(自分は以前ブログ等にて、ビルボードジャパンに対しアルバムチャートにユニット換算方式を提案したことがあったのですが、現在の米ビルボードアルバムチャートの問題を踏まえるに、採り入れる必要はなかったものと考えます。)

 

ビルボードアルバムチャートのチャートポリシーを変更するならば、ユニット換算制度を残すにせよアルバム単位でのセールスのウェイトを上げる(TEAやSEAを下げる)、複数のアルバムに収録された曲のダウンロードやストリーミングをきちんと振り分けるようにすべきです。さらには一律ではなく収録曲数に応じたユニット換算方式に変更することも必要でしょう。このままではアルバムチャートが良質なアルバムを示す鑑ではなくなる一方だと思うのです。