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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

宇多田ヒカル「One Last Kiss」登場3週目の伸び悩みへの疑問…「廻廻奇譚」やYOASOBIと異なる点とは

最新3月29日付ビルボードジャパンソングスチャートで宇多田ヒカル「One Last Kiss」が首位を獲得しました。しかし登場2週目の勢いは、必ずしも良好とは言えないと考えます。

登場2週目におけるポイント前週比は65.8%。ダウンロードが前週比45.9%、ストリーミング再生回数が同88.3%と共に前週割れを起こしており、特にストリーミングにおいてはアニメ主題歌という立場が同じであるLiSA「炎」と大きく異なります(「炎」はCDセールス加算2週目でポイント前週超え…LiSAの勢いが凄まじい11月2日付ビルボードジャパンソングスチャートを掘り下げる(2020年10月29日付)参照)。

そして、登場3週目における動向についてみてみると、LiSA「炎」との勢いの差はよりはっきりしているのです。

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ストリーミング指標の基となるサブスクの中で日々の再生回数が明示されるSpotify、直近3月27日までの動向をみると宇多田ヒカル「One Last Kiss」の漸減が目立つのです。他方、LiSA「炎」のピークは4週目となる昨年11月3日でありまだ先のこと。それも「One Last Kiss」は先週、Spotify独自の機能を用いて"シン・エヴァンゲリオン"仕様にしたのですが、その効果が出ているとは言い難いのです。

ともすれば、この映像使用もネタバレになるとして敬遠する向きが一部にあったかもしれません。

タイムラインに飛び込んでくる感想は”観た” ”満足した”以上のものがほぼなく、観た方が他者と感想を共有する空間がないことが曲を押し上げる力を生みにくい理由ではないでしょうか。(中略)『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のネタバレを過度に嫌うという空気が、作品に元から興味がなかった方にとっては面倒くささを、興味はありながらも観たことがなかった方には入りづらさを感じさせるに十分であり、それが「One Last Kiss」の息切れにつながったひとつの要因ではないかと考えるに至っています。

ただ、今になってみると、「One Last Kiss」の伸び悩みにはそれ以外の理由も浮かんできます。

 

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宇多田ヒカル「One Last Kiss」やLiSA「炎」を含む8曲を抽出し、この2ヶ月間のSpotifyデイリー再生回数をチェックしてみると、「One Last Kiss」や星野源「創造」が初登場から間もなく漸減していることが解ります。なおSpotifyは平日から土曜、土曜から日曜にかけて上昇する傾向があるため直近(3月27日付土曜)は多くの曲で伸びています。

この中で、勢いが際立つのがEve「廻廻奇譚」。テレビアニメ『呪術廻戦』第1クールのオープニング曲はアニメの話題上昇に伴い総合ソングスチャートでもトップ10入りを果たしていますが、第2クール最終回となった3月26日に新たな映像を配信しています。

3月26日金曜そして27日土曜におけるSpotify再生回数は前週同曜日より共に1万回以上増加。『呪術廻戦』最終回のみならずこの動画も再生回数に大きく貢献したことは、動画概要欄にデジタルプラットフォームのリンク先を掲載していることからも明らかと言えます。

 

さらに、YOASOBIも大きく動いています。

「怪物」「優しい彗星」は共にテレビアニメ『BEASTARS』の第2クールオープニングおよびエンディング曲となり、ダブルAサイドシングルとして先週フィジカルリリース。上記ツイートでは他のデジタルプラットフォームで『再びチャート上昇中』と記されていますが、このリリースやテレビアニメが最終回を迎えたことも相俟ってSpotifyでも前週より数字を伸ばしているのです。さらに27日放送の『マツコ会議』(日本テレビ)出演も功を奏し、「夜に駆ける」は日本のSpotifyデイリーチャートにおいて1月22日以来となる2位に浮上しています。

 

Eve「廻廻奇譚」やYOASOBIの各曲から言えるのは、動画やフィジカルの投入が他指標の勢いにも波及しているということではないでしょうか。デジタルプラットフォームの一部を充実させることも勿論好い試みですが、他指標に波及しづらい施策はその効果が限定的か、むしろほぼ得にくいこともあると言えるかもしれません。その点で、たとえば昨夏このブログで何度か記載したLINE MUSICによる再生回数上位者へのプレゼントキャンペーンも、その他指標への効果の出にくさという点において似ていると言えるでしょう。

仮に宇多田ヒカル「One Last Kiss」がSpotifyでの効果を高めるならば、たとえばテレビ番組でのパフォーマンスや、パフォーマンスがなくともせめてメディアに露出することは必要だったでしょう。そのタイミングで"Canvas機能知ってますか?"と問いかけたほうがより好いのではないでしょうか。