イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

『ミュージックステーション』でも特集された2021年桜ソングの復活と、最新チャートの動向

昨日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)で、この20年間の桜ソングが特集されました。

昨年までリリースが下降気味だった桜ソングが2021年になって復活の兆しというのがその内容でしたが、自分が先月記した内容に近いのでは?とふと思った次第です。

自分のブログエントリーも音楽ナタリーの桜ソング記事を踏まえて自分なりに解釈したものであるため、なぞっているだけではと言われればそれまでですが、しかし音楽業界自体が桜ソングの興隆に注目していることが解ります。

 

ミュージックステーション』では2021年の桜ソング復活について、その理由は言及されていませんでしたが、YouTubeTikTokで人気の歌手(すなわちサブスクに強い歌手)が積極的に発信していることや往年の名曲が新たな動画等を投入していることが背景にあり、そしてその推進力にはサブスクや動画再生といった接触指標がチャート構成比の大半を占めるビルボードジャパンソングスチャートが今の時代のヒットの鑑であることが大きいと捉えています。

 

さて、桜ソングの今年の動向はどうでしょうか。

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昨日の『ミュージックステーション』でも披露されたあいみょん「桜が降る夜は」はポイント面でも5週連続で3千ポイント台後半を記録し、安定して推移。とはいえトップ10には及んでいません。今回のテレビ出演、ならびに今週東京で桜が見頃を迎えたことで、明日までを集計期間とする4月5日付ビルボードジャパンソングスチャートでは大きく伸びる可能性もあるでしょうが、新規桜ソングが来年以降も浮上できるよう認知度をさらに上昇させるべく、予算捻出の厳しさを承知でシングルCD化(フィジカルリリース)してもよかったのではないでしょうか。実際、昨年リリースされたSEKAI NO OWARI「silent」はフィジカルセールス加算直後にピークに達し、またクリスマスを過ぎた現在も100位以内にエントリーし続けています。

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一方、往年の名曲においても気になる動きが。

毎年この時期になると上昇する桜ソングのひとつがケツメイシ「さくら」。ですが、一昨年まで総合100位以内に復活していたこの曲が、昨年もランクインしながら最高100位にとどまっていました。

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上記は「さくら」の最新週まで150週分のチャート推移(CHART insightはこちらで確認できます)。2019年以前はより高い位置まで再浮上を果たしていた「さくら」のこの動き、実は森山直太朗「さくら(独唱)」にもほぼ当てはまるのです(「さくら(独唱)」のCHART insightはこちら)。

これら往年の名曲が今年の総合チャートでより高い位置に登場する可能性もあるでしょう。しかし、たとえば最新3月29日付ソングスチャート(→こちら)の100位以内の顔ぶれを見るに、サブスクや動画で人気の曲や人気映像作品の主題歌として大ヒットを記録した作品が長くとどまる傾向にあり、季節毎の名曲が上がりにくくなっているのではないかと捉えています。この理由は、サブスク再生回数のこの2年での急上昇による影響力の増大にあると考えてよいでしょう。

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さて、ロングヒットといえば2017年1月にリリースされたエド・シーラン「Shape Of You」が挙げられます。この曲は同年夏のドラマ挿入歌に用いられたことでさらに加熱、リカレントルールが設けられていない日本でより長くヒットするに至りました(リカレントルールは昨日のブログエントリー、グラミー賞前後のBTS「Dynamite」のチャートアクションも踏まえ、グラミー賞受賞への道のりを考えるでも触れています)。

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しかし、上記150週分のチャート推移をみると「Shape Of You」は昨夏以降総合100位以内に登場していません。この曲のロングヒットの要因については2年前にブログでまとめたのですが、その締めくくりにこのようなことを記載しました。

では仮に「Shape Of You」の勢いを阻止したいと考えるならば、必要なのは「Shape Of You」を上回る大ヒット/ロングヒット作品を生んで「Shape Of You」をチャートから押し出すこと、「Shape Of You」への興味を減らしていくことではないでしょうか。極めて難しいことは承知ですが、そのためにはストリーミングと動画再生という2つをきちんと解禁(後者においてはフル尺で掲載)し、「Shape Of You」と同じスタートラインに立つことが大前提となることは間違いありません。

無論楽曲自体の勢いの減退もあるでしょうが、この数年で日本の音楽作品が接触指標を充実させたことで「Shape Of You」が押し出されたと言えるのではないでしょうか。

 

先程はサブスク再生回数の推移を紹介しましたが、今のヒット曲の条件が接触指標の充実にあることはここからもよく解ります。往年の名曲にとってはこの部分をどう伸ばすかが必須課題であり、だからこそたとえばケツメイシ「さくら」においては新規動画を投入し、接触先の拡充と再生回数の獲得につなげようとしていることが解ります。

この接触指標充実策の結果については今後1ヶ月程度のチャート推移を見て判断する必要がありますが、これでも総合100位以内に復帰できない場合には、さらなる刺激策を導入する必要もありそうです。