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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ジャニーズ事務所所属歌手の"攻めの新曲"に注目が…チャートアクションを伸ばすにはどうすべきか

2月17日に公開されたSexy Zoneの新曲、好事家の間でも話題になっています。

ニューアルバム『SZ10TH』からの先行曲は2ステップを大胆に採り入れたUKガラージ。過去の弊ブログエントリーを用いてTwitterで言及されていた方がいらっしゃったのですが、なるほどこの曲の存在があったからなのですね。

 

音楽面については今後上がるであろう音楽評論家の方々等による記事を参照いただくとして、ここ最近はSexy Zoneをはじめジャニーズ事務所所属歌手の作品に攻めの姿勢がみられるという声が聞こえます。それで思い出したのがSixTONES「うやむや」でした。

「うやむや」は『MVも含めてボカロ以降のロックを意識したと思われる』曲(『』内はSixTONES、圧倒的な成績でチャートトップに アルバム『1ST』の聴きどころはシングル曲以外にも - Real Sound|リアルサウンド(1月16日付)より)。ライターで評論家のimdkmさんは曲自体に必ずしも肯定的ではありませんが、このようなボーカロイド的といえるアプローチをジャニーズ事務所所属歌手が行うこと自体かなり新鮮な印象があります。上記動画はアップされた直後、YouTubeチャートでトップ10入り直前まで上昇しており注目度の高さがうかがえます(【YouTubeチャート】女子高生ネットシンガーAdo「うっせえわ」が初の1位 | ORICON NEWS(1月20日付)参照)。

 

「うやむや」は1月6日にリリースされたSixTONESのファーストアルバム『1ST』の通常盤に収録。リリースから間もないタイミングで、弊ブログでは収録曲のチャート動向を紹介しました。

『1ST』は最新2月22日付ビルボードジャパンアルバムチャートで10位に入り、6週連続でトップ10内をキープしているのですが、ソングスチャートにおける収録曲の動向は必ずしも好調とは言い難いと考えます。

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上記は総合もしくは構成指標のいずれかが20位以内に入った曲の動向。最新2月22日付のビルボードジャパンソングスチャートにおいて、『1ST』収録曲では「NEW ERA」が99位に入ったほかは100位未満となりました。「うやむや」は動画再生指標が引き続き好調と捉えることが可能ですが、アルバム初登場週の97位が唯一の100位以内エントリーに。なおアルバム後の新曲として今週シングルCDがリリースされた「僕が僕じゃないみたいだ」も上記に記載していますが、動画再生指標がダウンするも4週連続で50位以内をキープ、最新週ではラジオ指標が初加算となったことで60位にランクインしています。

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以前のブログエントリーに倣い、『1ST』と同時リリースとなったYOASOBI『THE BOOK』収録曲等の動向をみてみましょう。YOASOBIがインストゥルメンタルを除いて発表しているのは9曲ですが、総合もしくは構成指標のいずれかが20位以内に入っていない「あの夢をなぞって」(今週54位)以外の8曲はいずれも最新2月22日付ソングスチャートで50位以内に登場しています。すべての曲において牽引しているのはストリーミング指標と言っていいでしょう。ここに、SixTONESとYOASOBIとの大きな差があるのです。

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アルバムチャートは『THE BOOK』が最新週で5位に。CDは限定盤がほぼ完売につきフィジカルセールス指標が弱いものの、ダウンロードおよびルックアップが好調。このルックアップはCDをインターネットに接続する機器に取り込んだ際にインターネットデータベースにアクセスされる回数のことで、購入者のみならずレンタルCDの取り込みも対象となります。上記チャート推移(CHART insight)では解りにくいかもしれませんが、『THE BOOK』は登場3週目以降ルックアップで首位をキープ。この3週目というのは集計期間の6日目にレンタルCD分が初加算されており、そこからレンタル需要の大きさがよく解ります。一方で『1ST』のルックアップ指標は1→1→2→2→2→3位となり、こちらも順調に推移していることが解るのです。レンタルの大きさ、つまりは接触数の多さが想像できると言えます。

 

ビルボードジャパンソングスチャートの構成8指標は所有と接触とに大きく分けられます。とりわけ大きなチャート構成比を占めるのがサブスク等の再生回数に基づくストリーミング、そして動画再生という接触2指標。無論、CDをはじめとするフィジカルセールスという所有指標も大きなシェアを占めるのですが、接触指標に比べれば勢いが持続しにくいのが特徴であり、またライト層は所有より接触行動を好む傾向があります。アイドル作品の中でオリジナルアルバムが勢いをキープしているのは珍しいことと言えますが、『1ST』が好調なのは先述した「うやむや」の評判も大きく影響しているでしょう。とはいえ、仮にサブスクが解禁されていたならば「うやむや」はネット発の楽曲に近い動きで推移し、総合チャートでの上昇は間違いなかったのではないでしょうか。さらには先行シングルの再浮上も十分考えられたはずです。

 

 

SixTONESの「うやむや」に代表される楽曲群も、冒頭で紹介したSexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」も、音楽面で好事家の関心を集めるに至っており、ジャニーズ事務所所属歌手の作品のクオリティの高さと攻めの姿勢を感じるに十分です。しかしそれが、同芸能事務所のデジタル未解禁という姿勢のためにストリーミング指標を稼げず、多くのライト層の需要を喚起できていないだろうことがチャート分析でみえてきます。CDで接触したくともレンタル店舗の減少によりレンタルという手段が採りにくくなっているほか、先述したミュージックビデオがいずれもショートバージョンであるため再生回数のさらなる増加につながっていないものと捉えています(このショートバージョンの問題については、たとえばMrs.GREEN APPLE「ロマンチシズム」がトップ10ヒットに至れなったことから考える、日本におけるミュージックビデオの位置付け問題(2019年4月21日付)等にて示しています)。アルバムの接触上昇は好いことですが、それが楽曲単位にも表れてこないのは至極勿体ないというのが厳しくも私見。先程も取り上げた記事でimdkmさんが語っている内容に、複雑な思いを抱くのです。

とはいえ、ダウンロード販売や、SpotifyApple Musicといったサブスクへの進出には相変わらず二の足を踏んでいるのがややちぐはぐなのだが。いじわるな見方をすると、2020年12月6日に行われたアルバム楽曲の「“ほぼ”全曲解禁」を謳った配信企画、「SixTONES broadcaST『666 1ST LiSTening』~アルバム“ほぼ”全曲解禁します~」も、楽曲の配信はしたくないが現代的なプロモーションを試みたい、という苦肉の策のように思えてしまう。

 

来週リリースされるKis-My-Ft2のシングル「Luv Bias」や、事務所は異なりますが本日より公開される映画『あの頃。』に登場するハロー!プロジェクトの曲もまたサブスク未解禁という事態。ライト層の拡充に至れず、ライト層をコアなファンへと昇華する可能性が減り、さらにはコアなファンにおいてもサブスク等が用いられずソングスチャート押し上げに貢献できないというジレンマが生まれます。これは非常に大きな機会損失だと思うのです。

巨大な芸能事務所、果ては音楽業界自体を動かすことは無謀なのを承知で、しかしながらチャートアクションを伸ばし、歌手の活動をさらに充実させるためにはデジタル解禁は必須だということを、あらためて提案したいと思います。