イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(訂正および追記あり) 来たる2021年へ向けて、日本の音楽業界への要望を記す

(※追記(20時39分):タイトルを”来たるべき2021年”→”来たる2021年”へ変更しました。)

(※追記(21時29分):松原みき「真夜中のドア ~ Stay With Me」について、ポニーキャニオン側がアニメーションによる公式ミュージックビデオをリリースしたとのご指摘をTwitter経由にていただきました。よって、②について訂正および加筆を実施しています。誤った情報の掲載についてお詫びすると共に、ご指摘いただいた方に感謝申し上げます。)

 

 

もうすぐ2020年も終わりますが、今年ほど奇妙な一年はなかったでしょう。新型コロナウイルスの影響を受けていない人はいません。マスク着用が当たり前になった、マスクが品切れした…マスクだけでも狂想曲が生まれていたわけです。

 

音楽業界をみるとライブやフェスが開催できない期間が長く、年末に向けて再び加速しています。まして、きちんと感染対策を採ったとしても過度なバッシングを受ける傾向がありました。閉店を余儀なくされるライブハウスも多く、他方で行政がエンタテインメント業界をきちんとケアしようとする姿勢が強くなかったと言えます。バッシングの空気に厳しく対処せず、それに乗っかったとすら感じるのです。 

そんな中で、コロナ禍から生まれた新たな試みも。新曲やニューアルバムを制作する方が多くテイラー・スウィフトは年に2枚もアルバムをリリース。リモートでのライブ開催や、自粛期間にTikTokYouTubeの人気が拡大し完全インディペンデントの作品がメジャー等に混じってフックアップされる環境が成熟。瑛人「香水」やYOASOBI「夜に駆ける」の大ブレイクはその最たる例でしょう。2曲とも『NHK紅白歌合戦』で披露されるわけで、勢いの凄まじさを感じずにはいられません。

世界に目を向けると、TikTokの人気継続は勿論のこと、世界中の流行を図る新たなチャートが米ビルボードで新設。Global 200およびGlobal Excl. U.S.はストリーミングとダウンロードから成る複合指標のチャートであり、K-Popやラテンが強い一方でJ-Popが強くないことが露呈しました。それでもLiSA「炎」がGlobal Excl. U.S.で最高2位を記録していますが、ダウンロードの圧倒的な強さと安定が好調の要因であり、たとえ日本でストリーミング記録を更新したとしても世界規模での同指標は高いと言えないのです。日本におけるサブスクサービス利用率の高くなさだったり、そもそもグローバルチャートがフィジカルセールスを加算していないこともあるでしょうが、理由は果たしてそれだけでしょうか。

TikTokの興隆とグローバルチャートの新設が(特に自分の中で)大きなキーワードとなった2020年。これらの影響力を踏まえ、では日本の音楽業界はどうすれば好いでしょう。それを【日本の音楽業界への要望】としてまとめてみます。

 

目次

 

① 新曲のデジタル解禁を徹底してほしい

日本市場では未だCDセールスを主軸とした戦略が目立っていますが、それら楽曲が未CD化のヒット曲よりも社会的な認知度が高くなく、ビルボードジャパン年間ソングスチャートでも低い傾向に。年を追う毎にその流れが加速しているのは間違いありません。

デジタルを解禁すればCDセールスに影響が及ぶという考えは旧態依然と言えるでしょう。タイミング良くリリースすれば(それが同時リリースだとしても)好い結果が出ることは、たとえばLiSA「炎」の一例だけでも十分な説得力があるはずです。現在におけるCD、特にシングル盤の購入はコアなファンによるものが大きいですが、デジタルをきちんと解禁すればむしろライトユーザーのCD購入、コアなファンになるという行動の昇華もあり得るはずです。

日本のサブスクサービス加入率は高いとは言えないでしょうが、仮に未解禁を続けていた方々が解禁に動いたならば、サブスクがより魅力的になり日本でのユーザー拡大と世界での再生回数の増加につながるはず。先述したように日本はダウンロード指標が他国より高いわけで、サブスクに伴うストリーミングが増加すれば今後J-Popのグローバルチャートトップ10入りも十分考えられるのです。そうすれば世界に推しの歌手の名が轟きますね。

 

 

② 旧譜のデジタルアーカイブも徹底してほしい

シティポップムーブメントが続く中、41年前にリリースされた松原みき「真夜中のドア ~ Stay With Me」がグローバルにおける12月27日付Spotifyバイラルチャートで首位をキープしています。実は以前、竹内まりや「プラスティック・ラブ」(1984)が世界中で人気になる事態が発生していますが、Spotifyではベストアルバム『Expressions』がようやく12月11日に配信開始、それまで未解禁だったわけで、人気拡大の機会を逸したと言えるのです。

昨年5月になって「プラスティック・ラブ」のミュージックビデオがアップされましたがショートバージョンであり、12月29日現在で再生回数は300万にも届いていません。しかしこれでもまだ好い方で、松原みき「真夜中のドア ~ Stay With Me」に至っては公式動画すらない状態…一方で松原みき「真夜中のドア ~ Stay With Me」は12月25日、遂にアニメーションによるリリックビデオが公式として公開されました。こちらはフルバージョンとなっています。

とはいえ、海外で盛り上がりをみせる前に公式動画がアップされていない事態について、日本の良質なシティポップを掘り下げようとする海外の方が日本の音楽業界に辟易するのは間違いないでしょう。

ツイートではフリートウッド・マック「Dreams」の例を挙げましたが、このヒットはインフルエンサーTikTok使用が起点であれど、メンバーが再現動画を投稿したこと、そして作品がきちんとデジタル解禁されていることがリバイバルヒットにつながっています。

TikTokのバズはいつ発生し、どの国のどの時代の曲がヒットするか判りません。しかし、逆に言えばいつ発生してもいいように体制を整えないといけないのです。

 

 

③ 歌手別にYouTubeアカウントを用意してほしい

言い換えれば、レコード会社によるアカウントからの公式ミュージックビデオの投稿は避けてほしい、ということ。

先の竹内まりや「プラスティック・ラブ」はワーナーミュージック・ジャパンYouTubeアカウントからアップされていますが、世界中でこの曲が気になった方はなぜ竹内まりやさんのアカウントがないのか理解できないのではないでしょうか、日本においてはおそらく、他の国よりも歌手自身のアカウントを持っている方が少なく、それがアプローチのしにくさとなり、探すことへの諦めを生んでいると思われます。これでは機会損失甚だしいと思うのです。

 

 

④ テレビパフォーマンス映像のYouTube配信を徹底してほしい

過去の音楽番組を歌手別にまとめた映像集にはこのようなものがあります。

たとえば米ビルボードの最新ソングスチャートでも上位進出した、クラシックなクリスマスソングの多くにおいては最近新たなミュージックビデオが作られていますが、以前は過去のテレビパフォーマンス映像を個人がアップロードしたものに、その動画の大半が違法アップロードであったとしてもレコード会社等が権利者登録を行うことで半ば公式化させ、ストリーミング指標に加算されるようになったのです。

ビルボードでもビルボードジャパンでも現在は公式動画のみストリーミング指標(日本では動画再生指標およびストリーミング指標)にカウントされるようになりました。過去の番組の違法アップロード動画にクレジットを付けても意味が薄くなった以上、過去のテレビパフォーマンス映像を放送局から受け取り、公式として掲載することが必要でしょう。これはビルボードジャパンソングスチャートの構成指標の獲得のみならず、テレビ番組のアーカイブ化という面でも非常に有効なはずです。なおアメリカでは以前から、各種音楽賞授賞式やテレビ番組でのパフォーマンス映像を、歌手のアカウント発(一部はその番組アカウント発ですが)にてアップすることも多く行われており、日本でも行うとするならばインターネット時代に即した著作権法等の改革が大前提だと考えます。

 

 

⑤ 金曜リリースを標準化してほしい

特筆すべき動きとして、宇多田ヒカルさんがスクリレックスと組んだ「Face My Fears」を一昨年初めの金曜にリリースしたものの、次回作『One Last Kiss』EPは来年1月27日水曜にリリースされます。「Face My Fears」のチャートアクションの乏しさも水曜発売にシフトする一因だったかもしれませんが、しかし「Face My Fears」については他にも様々な理由があったと捉えています。

水曜発売が多い状況は、おそらくはCDリリースを前提にしたものでしょう。しかし海外では今や金曜発売が一般的です。敢えて他の曜日に発表する作品もありますが、それらの曲はチャート上できちんと理に適った戦略をなぞっているのです。また米ビルボードのグローバルチャートでは起点が金曜となっており、日本が水曜リリースを貫いているうちは、いくら日本で解禁日のダウンロードやストリーミングが高かったとしてもグローバルチャート初登場時における上位進出がしにくいのです。

さらに、金曜リリースを標準とする海外の作品が日本のチャートアクションで好成績を収めにくくなる以上、たとえばプロモーションやライブでの来日を敢えて避けるパターンが登場するかもしれません。金曜を標準リリース日とし、CD店着も同日、さらにビルボードジャパンの集計期間を金曜からとしたほうが好いだろうことは、グローバルチャート対策としても、また週末の実店舗来客数の増加につながるだろう点においても有効ではないでしょうか。

 

 

⑥ 日本の音楽業界を代表する賞を創設してほしい

日本レコード大賞はダメだという声をよく耳にしますし、来年開催のグラミー賞においてはザ・ウィークエンドの不在に対する非難も多く聞こえますが、一方で好事家や音楽(評論)を生業とする方からはグラミー賞への文句はあったとして日本の音楽賞に対しては諦めからの無視が目立つ事態。これはあまりにも不健全ではないでしょうか。

日本レコード大賞の今年のノミネーションをみても、特定のレコード会社や芸能事務所の強さ、おそらくは当初から辞退者を盛り込まないだろうこと、そしてそもそも日本レコード大賞Twitterアカウントが音楽の日と同じものでありTBSの意向が強いこと等、様々な保身と呼べるものが透けて見える点において、客観性の極めて乏しい同賞が日本を代表するものとは言えないと考えます。

世界の音楽にアクセスしやすくなりグローバルチャートが登場した一方、日本で最も優れた作品はこれだと胸を張って提示できる賞がなければ世界進出にとっても大きな機会損失です。改善を求め続けることも勿論必要ですが、いっそのこと音楽関係者や好事家の皆さんがきちんとした賞を設けることこそ必要でしょう。

 

 

⑦ 邦楽のベストアルバムを提示する場所を用意してほしい

これは切実です。

日本のメディアでは、例えば一部の音楽誌がその誌面に掲載することはあっても、ネットにはまず登場しません。おそらくは雑誌を購入してほしいという考えが根本にあるのでしょうが、少なくともランキングと概要だけでも発表し、詳しくは誌面でと促したほうが興味を持つ方は増えると思います。雑誌側の保身と言えるかもしれないスタンスは、アルバムの重要性や良作であることが広まらないという点において至極勿体なく思うのです。

同時に、日本レコード大賞におけるアルバム部門の軽視とも言える扱いにも強い疑問を抱きます。歌手の皆さんは曲単位のみならずアルバム(もしくはEP)単位でも心を込めて制作しているはずです。今年のビルボードジャパン年間アルバムチャートでは14位までがオリジナルアルバムであったことを踏まえれば、そしてベストアルバムがサブスクのプレイリストで代替可能になっていく可能性(そしてそれゆえの売上ダウン)を考えれば、尚の事オリジナルアルバムの重要性に即した評価の場所を与えないといけません。

 

 

ビルボードジャパンはソングスチャートの構成指標等の見直しを行ってほしい

こちらについては先週別エントリーにて記載しました。

特に強く願いたいのはCDセールスおよびルックアップ指標のウェイトダウン、および動画再生の加算対象動画からショートバージョン等を除外すること(さすがに後者は無理があることを承知で、それでも記載しています)。オリジナルおよびリミックスバージョンの合算についても記しましたが、その他の希望を述べるならば公開時間の統一化とその時間を”祭りにする”こと。以前からここで申し上げていますが、音楽ランキングにおいて未だ認知度の高いオリコンが火曜もしくは水曜の週間チャート更新時刻を毎週同じにしているため、チェックを習慣化する方は少なくないはずです。その習慣化をビルボードジャパンでも作り、またチャート公開時間により多くの方がアクセスしてくださるべく、たとえば18時公開と決めたならばその30分前にポッドキャスト担当者等が生配信を行い最新チャートの概要を説明した上で公開時間までつなぐのも面白いかもしれません。そしてその模様を後でポッドキャスト化すれば収録の二度手間もありません。

ビルボードジャパンの認知度上昇については肌で感じていますが、CDセールスを未だ主体とし、その数字が(全く意味を成さないということでは決してありませんが、しかし確実に)認知度と乖離してきているにもかかわらず、オリコンが未だ多くの方にとって認知度最上位に浮かび上がる状況は違うと思っています。実直なチャート作りも勿論必要ですが、その魅せ方の工夫も重要になってくるはずです。

 

 

⑨ 行政がエンタテインメントを大事にする姿勢を持ってほしい

新型コロナウイルスは誰もが経験したことのない事態とはいえ、たとえば台湾の対策の徹底っぷりと比較しても明らかに日本の遅れが目立っていました。私見と前置きするならば、その遅れを認め謝罪することなく、自分たちの正しさの証明を他者を敢えて持ち出して非難することでしか行わない政府与党をはじめとする行政の長の態度が、新型コロナウイルスからの立ち直りをさらに遅く、悪化させていると思えてなりません。その根底には誤った自己責任という、自分たちは責任を取らない代わりに国民(住民)が責任を取るべきという、行政側の自己保身、責任逃れがあるはずで、たとえば今週の記事における作家の村上春樹氏による考えには深く頷くばかりなのです。

感染を抑えることができず、年末のイベントにも大きな影響が出ています。また唐突とも言える年末の鉄道運行差し止めという事態にも疑問が。本来ならばもっと早く要請してもおかしくなかったのではないでしょうか。

無論他の業界も影響を受けていますが、心のゆとりに大きく影響するにも関わらず生き死にに直結しないという理由で行政の軽視や一部市井のバッシングを受けたエンタテインメント業界はより大きな影響を受けてしまったと言えるでしょう。政策の失敗を認めず、それも自己保身という意味での自己責任論にすり替えることは止めてほしいと思いますし、きちんとした対策を打たないとならないと強く思います。

 

 

 

他にも思い浮かぶものがあれば追記していきます。

来る2021年、新型コロナウイルスが収束することを何より願いますが、しばらく時間がかかることを前提に動かなければなりません。その自粛期間中にTikTokが興隆しそこから多数のヒットが登場したことやYouTube視聴が伸びたこと等を踏まえ、デジタル環境の強化を行うことは何より重要でしょう。そしてエンタテインメント業界に対し行政が心を配ること、改心することを願うばかりです。