先週末に突如トレンド入りを果たした"Get Wild退勤"は音楽業界に大きなインパクトを与えていきそうです。
友達から退勤する時にドアを開けると同時にGet Wildを聴く「Get Wild退勤」を教えてもらって試したらマジでめちゃくちゃ良い仕事した気持ちになるし何なら後ろの建物(会社)が爆破してる脳内妄想が起こってオススメ。
— shotac (@shotac_) 2020年9月10日
きっかけとなった上記ツイートが先週木曜夜に発信され後にトレンド入りを果たすと、ダウンロードの購入やサブスクの再生回数が大きく上昇しているのです。iTunes Storeでは金曜22時のリアルタイムチャートでBUMP OF CHICKEN「Gravity」に次ぐ2位に到達。その後しばらくの間トップ10内をキープしています。
https://t.co/u1Q678YW7v
— iTunesRankingJP (@iTunesRankingJP) 2020年9月11日
2020-09-11 22:00
[1] Gravity / BUMP OF CHICKEN
[2] Get Wild / TM NETWORK
[3] 群青 / YOASOBI
[4] 夜に駆ける / YOASOBI
[5] 裸の心 / あいみょん
[6] いつだって僕らは / ノクチル
[7] To the Edge / 祖堅正慶
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そしてSpotifyでは日本のデイリーチャートにおいて、11日金曜には前日の200位圏外から61位に浮上。翌日は110位に急落しますが、出勤者が多くなる本日以降は再浮上の可能性もあるでしょう。
TM NETWORK「Get Wild」にはここ数年で幾度となく注目が集まっていました。9月6日に放送された『国民13万人がガチ投票!アニメソング総選挙』(テレビ朝日)では『シティーハンター』エンディングテーマのこの曲が8位にランクイン。この総選挙を制した高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」は9月14日付ビルボードジャパンソングスチャートのTwitter指標で47位に登場しているのですが、同日付ソングスチャートは放送日の6日までが集計期間であるため、総選挙ランクイン曲は明後日発表予定の9月21日付ソングスチャートにて、より大きく反映されるはずです。
「Get Wild」に話を戻すと、2017年に"すべて「Get Wild」"というコンピレーションアルバム『GET WILD SONG MAFIA』がリリース。また昨年映画『劇場版シティーハンター 〈新宿プライベート・アイズ〉』のエンディング曲に「Get Wild」が起用されたことで、昨年2月25日付ビルボードジャパンソングスチャートで23位まで上昇します。
上記チャート推移(CHART insight)は、昨年2月25日付を中心に前後30週分をキャプチャしたもの(詳細はこちらから確認できます)。総合ソングスチャートは黒の折れ線グラフで表示され、それ以上に高い順位となっているのが濃い紫色で示されるダウンロード指標であることから、所有指標が牽引していることが解ります。青色のストリーミング指標も緩やかな弧を描いていますが、しかし総合で最高位を獲得した週に急浮上した赤の折れ線が、翌週には100位圏外(300位以内)に急落。この赤の折れ線は、ストリーミング同様に接触指標である動画再生を示します。
この映画公開のタイミングで「Get Wild」はミュージックビデオをショートバージョンながら公開、上記ブログでも紹介したのですが後に削除されています(ブログ作成時に貼付できた動画やリンク先が後に削除されると、その跡だけが残ります)。おそらく貼り直したのでしょう、映画公開のちょうど2ヶ月後に下記動画がアップされたものですが、以前と同様ショートバージョンとなっているのです。
ミュージックビデオがショートバージョンで公開されることがビルボードジャパンソングスチャートにおいて大きく寄与しないことについては、先週Perfumeの新曲「Time Warp」がショートバージョンで公開されたタイミングでツイートしたばかりです(ツイートの一連の流れはこちらから確認できます)。
こういう指摘をすると『フルバージョンを公開してCDが売れなくなったらどうするのか』と批判を受けますが、ミュージックビデオの短尺版がチャートに寄与しにくいこと、そしてミュージックビデオは商品ではなく文化として捉えるべきということについてはブログに記載しています https://t.co/zIe8Is09Pn
— Kei (@Kei_radio) 2020年9月9日
"Get Wild退勤"に触れ、先週金曜にこの曲を聴きながら実際退勤してみようと思った方はどのようにして「Get Wild」に触れたでしょうか。CDショップは以前に比べて身近ではなくなり、またポータブルCDプレイヤーを持っている人は極少数だろうことを考えれば、CDを購入もしくはレンタルする方は少ないでしょう(レンタルするとして、それを実施するのは退勤後、職場もしくは自宅の最寄り駅周辺にあるレンタル店でという方が多いはずです)。ダウンロードの可能性は十分ありますし実際売れていますが、価格設定を考えればベストアルバム等のレンタルで代替しようと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。サブスクサービスに入っていればすぐに聴くことはできますが、実はサービスの未利用者がかなり多いのです(このことは昨年発表されたICT総研による"2019年 定額制音楽配信サービス利用動向に関する調査"から判ります)。となると認知度が高く、無料で楽しめるYouTubeで…という選択肢を採る方が少なくないとは思いますが、しかしその唯一の選択肢がショートバージョンとあっては、一度視聴したとして継続には至れないという心理が発生する気がします。
この聴取プロセスやショートバージョンと判った際のユーザーの心理は何も"Get Wild退勤"に限らず、気になる曲をすぐに聴きたいと思った際のベースにあるものではないかと思うのです。一昨日のブログではOfficial髭男dismのSNSにおける、テレビパフォーマンス後のフォローの上手さとそれが実際にチャートアクションにつながった例を書きましたが、サブスクをきちんと解禁しYouTubeもフルバージョンでアップしていることが接触の強さの大前提にあり、それが所有指標にもつながっていることは今年8月31日付ビルボードジャパンアルバムチャートで彼らの『Traveler』が推定売上40万枚を突破したことから明らかです。
"Get Wild退勤"はTwitter発のトレンドですが、TikTokやYouTube発でトレンド入りした曲は今年に入り大挙登場しています。その中には"2週間で10キロ痩せるダンス"のBGMであるフィッツ&ザ・タントラムズ「HandClap」やインターネットミームで用いられたイエス「Roundabout」等、数年から数十年前の曲が突如ブームとなることも少なくありません。以前とあるインタビューで、サブスクの興隆に伴い特に若年層は曲の新しさ/古さに関係なく聴いているというのを目にしましたが、たしかに古い曲だからといってブレイクしないということはありません。いつ何時、突如注目を集めてもいいように、特に接触媒体を充実させることがレコード会社や芸能事務所等には求められているのです。