毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を紹介します。 8月31日~9月6日を集計期間とする9月14日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)は、STU48「思い出せる恋をしよう」がシングルCDセールスを武器に首位を獲得しました。
【ビルボード】STU48「思い出せる恋をしよう」158,931枚を売り上げ総合首位獲得 YOASOBI新曲「群青」DL1位で総合10位に早くもチャートイン https://t.co/xv3z9R73Xi pic.twitter.com/yl8LtQEKTq
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2020年9月9日
一方で、チャート構成比を勘案するに、次週の急落は確実と思われます。
シングルCDセールスが全体の9割を超え、一方でダウンロード、ストリーミングおよび動画再生は300位未満のためにポイントは未加算。ルックアップは24位でCDセールスと大きく乖離しレンタル数やユニークユーザー数の多くなさが想像できることから、今週の所有指標の反動が次週如実に表れそうです。前作「無謀な夢は覚めることがない」はCDセールスに伴い今年2月10日付で首位を獲得しながら翌週は83位に急落しましたが、今作はどうなるでしょう。尤も、「思い出せる恋をしよう」のCDセールス自体が前作の半分に満たないのが気になります。
さて、米ビルボードソングスチャートで2連覇を達成したBTS「Dynamite」は日本において首位獲得には至れていないものの、3週連続でトップ10入りを果たしています。
BTS「Dynamite」の米チャートの動向において、特に所有指標であるダウンロードが強いことについては昨日のブログをご参照ください。
日本ではBTS「Dynamite」がCD未リリースのため、所有指標はダウンロードに限られます。ダウンロードでは3週連続トップ10入りを果たしているものの、25842(2位)→12420(10位)→8857(9位)とダウン。初週は金曜午後の解禁ゆえ2日半でこの売上を記録したことになりますが、上記チャート推移(CHART insight)における構成比率をみると、日本においては「Dynamite」が接触指標群に支えられており、とりわけストリーミング指標が強いことがよく解ります。
とはいえニュースには気になる文言が。
前週1位だった「Dynamite」は、前週比66%となる6,728,580回再生を記録し、順位は3位となった。
前週、YOASOBI「夜に駆ける」、NiziU「Make you happy」に次ぐ史上3曲目となる週間1千万再生を記録した「Dynamite」は、今週その再生回数が3分の2に。接触指標は所有指標より急落することが少ないためこの数値には驚かされたのですが、これは確実にLINE MUSICが実施する"沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する"再生回数上位対象プレゼントキャンペーンの反動と言えます。ちなみに日本のSpotifyにおけるデイリー再生回数の推移をみるとBTS「Dynamite」は高値安定していることから、LINE MUSICの影響はやはり確実だと思うのです。
日本のSpotify、この4ヶ月半のデイリーチャート上位曲の推移をグラフ化。#BTS「#Dynamite」の勢いが目立ち、#NiziU「#Makeyouhappy」も安定。#三浦春馬「#NightDiver」はCDリリースしたものの勢いに衰えが。先週末は台風の影響でしょう、通常土曜と同じか伸びるはずの日曜がダウン傾向に pic.twitter.com/MICxRlGc0L
— Kei (@Kei_radio) 2020年9月7日
キャンペーンの概要はこちら。
「Dynamite」解禁日を含む1週間、LINE MUSICで500回以上聴いた方の中から30名にメッセージ&サイン入り未公開フォトが当たるというのがキャンペーンの内容。ビルボードジャパンにおいては前週の集計期間のうち前半4日分が当該キャンペーンと重なっていたため、いわば"ブーストがかかった"状態になったのです。参加賞が用意されていることも再生回数増加を促した要因と言えます。そしてキャンペーン終了後はその反動が表れた形に。
8月より前からもみられていたこの"沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する"再生回数上位対象プレゼントキャンペーンは、先月に入りより多くみられるようになった印象があります。このキャンペーン実施曲のLINE MUSIC自体と、ビルボードジャパンストリーミングおよび総合の週間チャートを比較してみると、【キャンペーン対象曲はLINE MUSICチャートに登場するもののビルボードジャパンでの順位は高いとは言えない】そして【LINE MUSIC内でもキャンペーン終了後は週間順位が極端に下がる】という2つの特徴がみえてきます。その特徴の中にあって上位をキープするBTS「Dynamite」は素晴らしいとは思うものの、LINE MUSICでは週間1位(8月26日~9月1日)→9位(9月2~8日)とダウンしているのはやはりキャンペーンブーストの反動と言えるでしょう。
LINE MUSICについては先日、このようなインタビューが公開されています。
【インタビュー】瑛人・YOASOBIら“スマホ発のヒット”続出の理由は? LINE MUSIC×TikTokのキーパーソンに聞く #瑛人 #YOASOBI #りりあ。 #Rin音 #TaniYuuki #LINEMUSIC #TikTok
— リアルサウンド テック (@realsound_tech) 2020年9月5日
https://t.co/C1NM2IOikP
上記は前編のインタビューですが、特に後編に対し自分は強い引っ掛かりを感じています。
RTした記事については非常に興味深い内容が多いのですが、一点だけ問題と思う点を申し上げるならば、最近のLINE MUSICのチャートが"再生回数の多いユーザーが確実に、もしくは当選する確率が高いキャンペーン"対象曲で上位を占拠され、形骸化していないかというところですね https://t.co/V990kQKEqd
— Kei (@Kei_radio) 2020年9月6日
『LINE MUSICのユーザーはランキングから聴く傾向がある (中略) ランキングを入り口に曲をチェックして、自分が気に入った曲をライブラリに入れて聴くというサイクルが多い』『昨年まで無名だったアーティストの楽曲がTikTokでのバズをきっかけに、LINE MUSICのランキング上位に次々と入ってくる流れが生まれています』(後半の『』の部分はインタビュアーの問いかけですが、受け手が『まさにそうですね』と同意していることからLINE MUSICおよびTikTokの意見と受け取れます)…LINE MUSICのランキングの重要性がいわゆる中の人に強く認識されている一方で、そのランキングが"沢山聴いた方が当選もしくはその条件に該当する"再生回数上位対象プレゼントキャンペーンによって大きく変貌してしまったことをLINE MUSIC側はどう捉えているのか気になります。インタビューの時期は不明ですが仮に先月実施されていたとしたら、LINE MUSIC側はこのキャンペーンに伴うチャートの変化を少なからず理解していたのではないかと思うのです。
キャンペーン自体には良い点もゼロではありませんし、月間チャートでみるとまだそこまで目立っていないとは思いますが、しかし中長期的な視野で確認する必要があると思います https://t.co/qFjB5wkr2D
— Kei (@Kei_radio) 2020年9月6日
中長期的にランキングをチェックすれば、いやデイリー単位だとしても、LINE MUSICが他のサブスクサービスより若年層に支持される曲がランクインしやすい傾向にあることは、たとえば下記ブログエントリーにおける主要3サービスでの順位比較からも明らかです。
しかしながらそのチャートが極端になりすぎると、"この曲は本当に人気なのか?"という疑問が芽生え、不信感として育ちかねません。BTS「Dynamite」のように人気の曲がキャンペーン対象曲によって埋もれることも出てきます。LINE MUSICのキャンペーンは自らのチャートの特性(さらには他サービスにはないであろう、ユーザーがどれだけその曲を聴いたかが可視化される仕組み)を用いた点で面白い取組かもしれませんが、このキャンペーンの連発は"諸刃の剣"と言えるかもしれないと感じる自分がいます。