先週木曜、リアルサウンドへ記事を寄稿しました。
【執筆のご報告】チャーリー・プースが先月下旬にリリースした「Girlfriend」について書きました。今年はレノン・ステラに客演参加した「Summer Feelings」がラジオヒット中、また「See You Again」の再浮上で既に彼の作品を聴いている方は多いはず。ぜひ今年の夏曲プレイリストに加えてください https://t.co/V1AbU4JeCV
— Kei (@Kei_radio) 2020年7月9日
アップされた翌日には、「Girlfriend」のミュージックビデオが公開されています。
TikTokではチャーリー・プースが、赤ちゃんに変身できるフィルターを使い、”ベイビー・チャーリー”として「Girlfriend」を披露。そのかわいらしさもあってか、TikTokでの人気が上昇しています。
@charlieputh would you ever want to be my girlfriend?
♬ Girlfriend - Charlie Puth
日本のTikTokにおける人気曲を示すチャートでは先週金曜更新分で「Girlfriend」がトップ10入り。アメリカより一足早く日本でヒットする可能性が高いかもしれません。
(上記キャプチャは最新チャートのもの。TikTok JP HITS 30はこちらから確認できます。)
TikTokでバズが生まれ、動画再生やサブスクを経て総合的なヒットにつながるという傾向はここ最近定番化したヒットの形となりましたが、実は新しいと言えるかもしれないヒットの形も生まれつつあります。それが、TikTokで既に人気となっている曲をカバーやサンプリングするというパターン。それに着手したのがジェイソン・デルーロなのです。
@sanyuan_japan 7人集合囉!✨ ##居家打卡活動 ##居家扭扭舞 ##三原japan ##サンエン台湾 ##123japan ##おすすめにのりたい ##fyp ##foryoupage ##stayathome ##扭扭扭
♬ Laxed (Siren Beat) - Jawsh 685
台湾旅行を機に、台湾発のYouTubeチャンネルである三原JAPAN(日本向けにサンエン台湾というチャンネルもあります)を知ったのですが、彼らがTikTokに投稿した上記動画で使われているのがニュージーランドの高校生、ジョーシュ・シックスエイトファイヴ(Jawsh 685)による「Laxed (Siren Beat)」。昨年以降TikTokで人気になったインストゥルメンタルのこの曲を、ジェイソン・デルーロがカバーしています。ジョーシュが今月、地元ニュージーランドのテレビ番組に出演した様子はこちらで。
そしてジェイソン・デルーロ & ジョーシュ・シックスエイトファイヴによる「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」ミュージックビデオはこちら。
当初はジェイソン・デルーロがサンプリング許可を得ずに「Savage Love」の一部を公開したことで、ジョーシュ・シックスエイトファイヴのファン等から批判されていました。問題をクリアし、最終的には両名併記となった「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」は6月11日に正式リリース。当初の公開の段階で、ジョーシュはコロンビアと契約段階だった模様ゆえ、ジェイソンによるカバーバージョンは彼が所属するワーナーではなくコロンビア・レコードより発表されています。
「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」はジョーシュ・シックスエイトファイヴの地元ニュージーランドやオーストラリア、イギリス等でチャートを制し、アメリカでは7月4日付ビルボードソングスチャートで81位に初登場を果たすと、最新7月11日付では31位に躍進。特にTikTokと相性の良いサブスクにおいて、Spotifyの動向をみるとデイリーチャートではニュージーランドで1位、グローバル(世界全体)で2位を記録。アメリカでも7位まで上昇しているのです。これはオリジナルバージョンに比べて明らかな好成績であり、ジェイソン・デルーロの嗅覚の凄さや知名度の高さを感じずにはいられません。
そのジェイソン・デルーロはTikTokに公式アカウントを開設しており、「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」関連動画も複数投稿しています。
@jasonderulo Congrats @dixiedamelio on releasing her first song ##HAPPY
♬ Savage Love (Laxed - Siren Beat) - Jawsh 685 & Jason Derulo
ミュージックビデオの2分28秒あたりでも同種のダンスを見ることができるのですが、キレの良さは桁違い。ミュージックビデオからはジェイソン・デルーロのプロ意識が感じられるかのようです。
ジェイソン・デルーロは『Everything Is 4』(2015)以降、5年以上アルバムをリリースしていません。同アルバム後は「If It Ain't Love」(2016 米67位)、ニッキー・ミナージュとタイ・ダラー・サインをフィーチャーした「Swalla」(2017 米29位)、フロー・ライダーに客演参加した「Hello Friday」(2016 米79位)以外は米ビルボードソングスチャートで100位以内にランクインしておらず、ゆえに「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」は起死回生の一発と言えるかもしれません。ジェイソンはこれまでにも、ハリー・ベラフォンテ「Day-O (The Banana Boat Song)」の一節を用いた「Don't Wanna Go Home」(2011 米14位)やToto「Africa」を使った「Fight For You」(2011 米83位)など、ある種大胆な作品を用意しており、「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」もこの流れの一環と言えそうです。
そのジェイソン・デルーロは今月新たにシングルをリリースしています。
この「Coño」もまた、TikTokで人気となった曲をジェイソン・デルーロがカバーしたという、まさに「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」路線の曲なのです。
リリックビデオはダンスレクチャーも兼ねており、その戦略の巧さを実感します。勿論ジェイソン・デルーロは「Coño」を用いてTikTokに投稿を実施。
@jasonderulo Try this with your squad @brentrivera @benazelart @lexibrookerivera @mason_fulp @jeremyhutchins @pierson
♬ CONO . Jason Derulo x Purj x Jhorrmountain - jasonderulo
この曲もヒットに至れば、もしかしたらジェイソン・デルーロの次のアルバムはTikTok人気曲のカバー集になるのではないかと思うのですが、考えすぎでしょうか。
ちなみに、先述したワーナーミュージックの記事ではジェイソン・デルーロを『「キング・オブ・TikTok」の異名を誇る』と紹介。ジェイソンは新たな称号を得た模様です。
【Jason Derulo】
— ワーナーミュージック・ジャパン洋楽 (@wmj_intl) 2020年5月26日
ジェイソン・デルーロがスパイダーマンに変身⁉️
TikTokで今流行っている #wipeitdown チャレンジにジェイソンが挑戦‼️
彼のクリエイティブで面白いキャラが最高ですね😆
そんなジェイソンのTikTokフォロワー数がなんと2100万人を突破🤩
🎵 https://t.co/If3q1acW1Q pic.twitter.com/7ZhGtqZaSq
いろんなミームにトライしながら新しい音と出会っているように思いますし、発信を続けることでアルバムがリリースされていなくともジェイソンの名を常に轟かせることができるわけで、ジェイソン・デルーロ恐るべし、と感じています。
ただ今は世界情勢にTikTokが巻き込まれている状況であり、米でも規制される可能性があるのが気掛かりです。
アメリカのマイク・ポンペオ国務長官が、TikTokをはじめとした中国製アプリの米国内での使用禁止を検討していることを明らかにした。実際に禁止となれば、ポップカルチャーにも大きな影響を与えそうだけれど、果たして。
— フロントロウ編集部 (@frontrowjp) 2020年7月7日
【続きはコチラ↓】https://t.co/SRR0bram4g
TikTokが不自由になることでミームも、それに伴うヒット曲も生まれなくなるのは機会損失甚だしいと思うのです。またジェイソン・デルーロが取り上げたジョーシュ・シックスエイトファイヴ「Laxed (Siren Beat)」は、ジョーシュがサモアやクック諸島に先祖代々伝わっていた音を敷いたものであり、それが世界的な流行となることでサモア等への意識を高める方は増えるはず(故に、ジェイソンの最初の音源公開時に批判が高まったわけですが)。TikTokを政治的理由で封じることは、緩やかにでも着実に世界を知る機会を排するわけで、厳しい物言いを敢えて用いるならばインドや米等の方針は政治的な愚策とすら言えるのではないか、という私見を最後に添えておきます。