自分がスタッフの一員を務める『わがままWAVE It's Cool!』(FMアップルウェーブ 日曜17時)、昨日の放送ではDJたくみくんによるYOASOBI特集をOAしました。
曲目リスト
01. YOASOBI「夜に駆ける」
02. Ayase「ハッピーエンダー」
03. YOASOBI「あの夢をなぞって」
04. 幾田りら「おまじない」
05. 幾田りら「ラブレター」
06. Ayase「フィクションブルー」
07. Ayase「ラストリゾート」
08. YOASOBI「ハルジオン」
09. Ayase「夜撫でるメノウ (Ayase ver.)」
番組では時折スタッフ持ち込み特集を開催するのですが、たくみくんは「ラストリゾート」を偶然YouTubeで見かけて好きになった…つまりはYOASOBI結成前からファンだったとのこと。チャートを追いかけてこの数ヶ月でYOASOBIを深く知るようになった自分は感嘆しながら、たくみくんのYOASOBI愛に聴き入った次第です。
YOASOBIはコンポーザーのAyaseさんとボーカルのikura(幾田りら)さんによるユニットで昨年11月に結成。ソニー・ミュージックによるサービスで、題目に沿って小説やイラスト等の投稿を募る【monogatary.com】の中で”モノコン2019”なるイベントが開催され、そこでソニーミュージック賞を受賞した小説を楽曲化したのが昨年12月にリリースされた処女作「夜に駆ける」でした(原作は星野舞夜『タナトスの誘惑』)。以降今年1月に第2弾として「あの夢をなぞって」(原作:いしき蒼太『夢の雫と星の花』)、そしてサントリーのエナジードリンクZONeとコラボして生まれた「ハルジオン」(原作:橋爪駿輝『それでも、ハッピーエンド』)が5月にリリースされ、最新6月15日付ビルボードジャパンソングスチャートでは「夜に駆ける」が首位、「ハルジオン」が10位に入り、「あの夢をなぞって」も42位に上昇しています。Ayaseさんもikuraさんも音楽活動を開始したのが2010年代後半とのことで、その才能の開花の速さに唸らされます。
さて、ビルボードジャパンソングスチャートで「夜に駆ける」が3週連続で首位を獲得したことで知った方も多いであろうYOASOBIについて、その流行の理由を自分なりにまとめてみました。
① 楽曲表現の多角的な訴求
② ボカロやボカロP、歌ってみた系というジャンルの確立
③ 受け手が参加する姿勢
④ 運営によるファンとのエンゲージメントの徹底
楽曲表現の多角的な訴求については「ハルジオン」と『タナトスの誘惑』との相互関係に代表されるように、曲を聴いて小説を読む(その逆も然り)という流れが生まれます。またミュージックビデオは椎名林檎さんのツアー映像等を担当した藍にいなさんが務め、ビデオから曲の世界に入り込むという流れも生まれます。TikTokでも話題になっており、様々な媒体で表現されることで元の楽曲への注目度がどんどん高まっていく仕組み。”触れる”人の多さはチャートにも表れており、サブスクの再生回数に基づくストリーミング指標、およびYouTube等の動画再生指標といった接触指標群が3週連続首位となっていることからも明らかです。
Ayaseさんは昨年4月にボカロPとして「ラストリゾート」が初めて再生回数10万回に達したことでその名を広めています。また幾田りらさんは自身の音楽活動の他にいわゆる”歌ってみた”動画をアップしてきました。ニコニコ動画やYouTubeにアップされるボカロPや歌ってみた動画の投稿はこの10年ほどで醸成されています。「Lemon」で2年連続ビルボードジャパンソングスチャートを制した米津玄師さんがハチ名義で活躍したこともあり、間違いなくボカロやボカロP、歌ってみた系というジャンルの確立は今の音楽業界の礎になっているはずです。この文化について自分は恥ずかしながら疎いので、例えばこちらのnote等を参照いただければと思います。
このジャンルの確立は、今になっては制作側だけではなく受け手が参加する姿勢も徹底されてきています。ニコニコ動画でのコメント入力にはじまり、現在ではTikTokで誰でも気軽に歌ってみた等の様々な動画をアップ出来るようになりました(昨日ラジオで、「夜に駆ける」のインストバージョンも支持されていると聞きましたが、歌ってみた動画に使う方が多いとなるとインストを用意するのはたしかに納得します)。またmonogatary.comではユーザーがコメントのみならずポイントを付けて楽しむことが出来るのも特徴で、こういった気軽な参加型もまた「夜に駆ける」の波及の一因になったと考えます。
そして運営によるファンとのエンゲージメントの徹底については以前のブログエントリー(こちらやこちら等)でも書いた通り。曲は気になるけどファンというほどでもないというライト層を取り込み、さらに参加を呼びかけてコアなファン化させることに成功しています。
これら4つに加え、ソニー・ミュージックのSNS姿勢の巧さも挙げられるでしょう、YOASOBIはインディで曲を発信していますが、その結成理由も含めてソニー・ミュージックが背景にあるのはほぼ間違いありません。
MステでYOASOBI のCMが流れました🌝🌝 pic.twitter.com/GsKUurWtSh
— 幾田 りら (@ikutalilas) 2020年6月12日
6月12日放送の『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜21時)のCM、ソニー・ミュージック枠30秒の後半で流れたのが「夜に駆ける」のTHE HOME TAKEバージョン。このバージョンを発信した一発録り企画、THE FIRST TAKEシリーズの中でも高い再生回数を誇り、先に述べた楽曲表現の多角的な訴求につながっています。
実はTHE FIRST TAKEというYouTubeチャンネルもまたソニー・ミュージックが運営に関わっているのでは?という話を先日耳にしました。確証はありませんが、しかし出演者の多くがソニー・ミュージック系列に所属し、そして何より上記動画がCMに用いられるのは権利関係がクリアされた証拠と言えるでしょう。
とはいえソニー・ミュージックが背景にあることを責めるわけでは一切なく、純粋に凄いと思うのです。THE FIRST TAKEという企画の好さやmonogatary.comの盛り上がりを、ほとんどの方はその背景を知らずに支持しているわけです。ソニー・ミュージックに対しては1年以上前にこのような形で疑問を呈したのですが、一部解決されていない部分はあれども音楽の訴求方法については非常に巧くなったものと捉えています。
以上4点+αがYOASOBI躍進の理由と考えますが、如何でしょうか。
次回のチャート(6月17日発表の6月22日付ビルボードジャパンソングスチャート)からはシングルCDセールスが強い曲が毎週入れ替わる形で首位に立つことが想定され、YOASOBI「夜に駆ける」は首位を逃すことが予想されます。ただし順位は下がれどもポイント前週比でもってヒットしていることを判断してほしいと思います。他方、シングルCDセールスに長けた曲のチャート動向から真のヒットかを見極める方法については以前記載しています(→こちら)。
今回、スタッフのたくみくんがYOASOBI愛を語ってくれたことで、あらためて彼らの魅力、そして流行の背景を考えた次第。気付きをくれたことに感謝します。そして気になった方は是非YOASOBI、そしてAyaseさんやikura(幾田りら)さんの作品に触れてみてください。