イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

今年度のトップ10ヒットはわずか2曲…日本で洋楽がヒットしなくなった状況を懸念する

今年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)の出場歌手発表後、演歌枠の変化のなさ等を憂い問題提起したところいつも以上の反響をいただきました。何かしらのヒントになるならば嬉しく思います。

 

さて、演歌共々ちょっとピンチではないかと思うのが洋楽。K-Popはムーブメントが続き人気が常態化していること、韓国語版がリリースされても後に日本語版も登場しビルボードジャパンソングスチャートでは合算されるのでここで言うところの洋楽からは除きますが、一方でアメリカやイギリス等の作品がこのところあまりヒットしていないという状況には驚かされます。シングルCDセールス指標に係数が用いられはじめた2017年度以降、2017年度年間ソングスチャートでは50位以内に洋楽が5曲(2位にエド・シーラン「Shape Of You」、11位にオースティン・マホーン「Dirty Work」、21位にジャスティン・ビーバー「What Do You Mean?」、28位にザ・チェインスモーカーズ feat. ホールジー「Closer」、38位にブルーノ・マーズ「24K Magic」)だったのが、翌2018年度は14位に「Shape Of You」が入ったのみにとどまっています。そして今年は年間チャート50位以内に1曲も入らないのではないかと懸念し、今年度のビルボードジャパンソングスチャート、週間チャートで1週でも20位以内に入った曲を調べてみました。

 

・クイーン「Bohemian Rhapsody」(期間内最高11位)

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マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」(期間内最高16位)

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ダイナソーJr.「Over Your Shoulder」(期間内最高18位)

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アヴィーチー feat. アロー・ブラック「SOS」(期間内最高19位)

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・ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」(期間内最高17位)

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テイラー・スウィフト feat. ブレンドン・ユーリー(パニック!アット・ザ・ディスコ)「Me!」(期間内最高6位)

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エド・シーラン & ジャスティン・ビーバー「I Don't Care」(期間内最高10位)

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・メナ・マスード & ナオミ・スコット「A Whole New World」(期間内最高19位)

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・フィッツ & ザ・タントラムズ「HandClap」(期間内最高20位)

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調べる限り9曲が登場。動画再生指標の強いダイナソーJr.に関しては同曲が以前用いられていたバラエティ番組が違法アップロードされその動画にISRCが付番されていたこと、フィッツ & ザ・タントラムズTikTokの動画が人気になり日本のYouTuber等も投稿、そこに付番されていたことが理由と考えられます。

この中で年間チャート50位以内を狙えるのはクイーン「Bohemian Rhapsody」でしょうか。映画の大ヒットに伴い過去曲が(リバイバル)ヒットする状況は、動画再生指標の強い先述した2曲についても同様です。

ビリー・アイリッシュ「Bad Guy」については、客演有無やリミックスは別扱いとなるビルボードジャパンのチャートポリシー(ルール)により、ジャスティン・ビーバー客演版が別カウントとなっていました。これが加算されればもう少し伸びたわけで勿体無いと考えます。リミックス等は音楽の楽しさを増やす点において、また戦略という意味でも合算すべきと考えます。

一方、戦略を用いたのはテイラー・スウィフト。「Me!」が秋になってストリーミング指標が突如急伸したのは以下のキャンペーンに因るもの。

Taylor Swiftの楽曲「ME! (feat. Brendon Urie of Panic! At The Disco) (feat. Brendon Urie)」をたくさん聴くと、11/6(水)に開催される「Taylor Swiftスペシャル・ファン・イベント」へご招待!

(中略)

③Taylor Swiftの楽曲「ME! (feat. Brendon Urie of Panic! At The Disco) (feat. Brendon Urie)」をより多くLINE MUSICでフル尺再生で聴いた上位30名様が当選となります。

( キャンペーンは終了しています。)

上記キャンペーンはTwitterにてフォロワーの方より教えていただきました(この場を借りて御礼申し上げます)。「Me!」は11月4日付でストリーミング指標11位、総合44位に再浮上しましたが他指標が伴っていないこともあり、この不自然さは果たして社会的ヒットと言えるのかという違和感が拭えないのですが、逆に言えばビルボードジャパンソングスチャートの特性を活かした戦略とも言えますし(ならば他指標も同時に伸ばす戦略にしないと違和感を招くだけとは思いつつ)、そしてこういう戦略に至らない限り洋楽をヒットに至らせるのは極めて難しいのではないかと捉えています。

 

国内の大型フェスでは海外歌手が多く招聘され、またコーチェラ・フェスティバルをはじめ海外フェスの生配信も楽しめるようになった日本において、洋楽がヒットしていない状況は問題と考えます。洋楽が人気を獲得していない理由はいくつか考えられますが、たとえばラジオエアプレイの弱さも一因ではないでしょうか。

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これは昨年と今年の、ここ1ヶ月のラジオエアプレイ指標トップ10。洋楽は黄色で示しています。ラジオエアプレイは総合チャートとの乖離が大きく、またウェイトは高くないため影響力が強くないとはいえ、洋楽在籍率はさらに低くなり、今年度はトップ10に洋楽が不在という週も。ラジオ局が洋楽を推さなくなったこと、レコード会社側からの仕掛けが薄い(もしくはラジオ局を重要視しなくなった可能性も?)ことも考えられ、洋楽がさらにヒットしにくくなるのではという懸念を抱いています。今の洋楽をどうやってヒットさせるかをレコード会社は真剣に考えないと、フェスやキャンペーンを含む来日は減るのではないでしょうか。個人的には、いわばジリ貧とも言える状況にありながらしかし未だに洋楽CDのレンタル解禁を半年から1年後のままにしていることは機会損失だと思うのですが。