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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ゴスペルにラップは合わない? 米ビルボードゴスペルチャートからラップが除外されている問題

ゴスペル界、そしてヒップホップ界では先週末リリースされたカニエ・ウェスト『Jesus Is King』が賛否両論を呼んでいるようです。私見を述べるならば、伝統的なゴスペルとは呼びにくいものの、カニエの革新性ーカニエがゴスペルの新しい宗派を作っていると言ってもしっくりくるようなーは、11曲27分強という短さゆえに繰り返せば繰り返すほど染み込んでくるように感じます。

さて、ゴスペル界で活躍するラッパーはカニエ・ウェスト以前から存在しており、メディアは彼らに今回のカニエのアルバムについて感想を引き出しているのですが、2004年にアルバム『Real Talk』でデビューしたクリスチャンヒップホップラッパー、レクレーによるインタビューに興味深い一文が。

Traditionally gospel is seen as singing. Those of us Christians who rap were removed from the gospel charts on that technicality.

レクレーの言葉を訳すならば、『伝統的にゴスペルは歌うものとみられています。ラップする我々クリスチャンは、その専門性に関するゴスペルチャートから削除されました』でしょうか。つまり、福音を伝えるものが歌モノではないラップについては、ゴスペルチャートから削除されたというのです。

 

Wikipediaによるレクレーのディスコグラフィー(→こちら)をみると、2017年リリースのアルバム『Let The Trap Say Amen』以降は米ビルボードゴスペルアルバムチャートに登場していません。これまではクリスチャンアルバムチャートと共に登場していましたので、違和感が生じます。楽曲においても「Can't Stop Me Now (Destination)」(2016)以降は同様に、クリスチャンソングスチャートには登場してもゴスペルソングスチャートには登場しない状態です。

また、この10年におけるクリスチャンミュージック界を代表するラッパーといえるNFについても似た事態が発生(Wikipediaによるディスコグラフィーこちら)。アルバムについては『Perception』(2017)以降クリスチャンアルバムチャートから、楽曲については「No Name」(2018)以降クリスチャンソングスチャートからそれぞれ除外されています(ただし「No Name」は米ビルボードクリスチャンAC/CHRチャートには登場。以降数曲が同様の状態となっています)。総合チャート、クリスチャンソングスチャート共にランクインしたのが『Perception』収録の「Let You Down」(全米12位、クリスチャンソングスチャート1位)ですが、この次のチャートイン楽曲が「No Name」であることを踏まえれば、「Let You Down」がきっかけになっているのかもしれません。

 

レクレーによるチャート上の違和感の表明を記事にしたのがそのチャートを取り扱う米ビルボードというのが複雑な心境ではありますが。これを機に思い出したのがリル・ナズ・Xによる「Old Town Road」です。米ビルボードソングスチャートで19週連続首位となり最長記録を更新したこの曲は、当初その音使いからカントリーソングスチャートでもランクインしたものの、米ビルボードの方針転換により除外されたのです。それを不服としたベテランカントリー歌手のビリー・レイ・サイラスが客演参加したことで"よりカントリーっぽく"なり記録を達成したというのは痛快ではあるのですが。

ゴスペルチャートやクリスチャンスチャートにおけるラップの除外は、「Old Town Road」がヒットの兆しをみせたタイミングでカントリーソングスチャートから除外されたことと同様、「Let You Down」がヒットしたことでラップ×ゴスペルもしくはクリスチャンミュージックに違和感を覚え始めた人がそれを表明したことで米ビルボードがフレキシブルに対応したのかもしれません。ジャンル決めについてのチャートポリシー(変更)のアナウンスがみられないゆえ、楽曲毎の個別対応と捉えるのが自然でしょう。

(ただそうなると、スヌープ・ドッグが昨年リリースしたゴスペルアルバム『Snoop Dogg Presents Bible Of Love』収録曲が米ビルボードゴスペルソングスチャートにランクインしたこと(→こちら)の説明は難しくなりますが、ランクインした4曲は全て歌手が客演しているため、歌モノとして判断されたのかもしれません。)

 

個人的にはレクレーの違和感の表明を踏まえ、米ビルボードがきちんとチャートポリシーを表明してほしいですし、ヒップホップのジャンルレス化を踏まえていい意味でフレキシブルに応対してほしいと強く思います。ちなみに、ゴスペルとクリスチャンミュージックについては歌っているのが前者が黒人、後者が白人で分けられるという見方もありますが、それで全て分けて良いのかという疑問も拭えません。

 

カニエ・ウェスト『Jesus Is King』および収録曲の初週のチャート動向は日本時間の来週火曜に発表されます。ゴスペルソングスチャートにもランクインするのか、しっかりチェックしたいと思います。