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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

サカナクション「忘れられないの」をヒットに導いたタイムラグの短縮と接触指標の充実…7月1日付ビルボードジャパンソングスチャートをチェック

6月17~23日を集計期間とする、7月1日付のビルボードジャパン各チャートが昨日発表され、ソングスチャートは山下智久「CHANGE」スピッツ「優しいあの子」との接戦を制し首位の座を獲得しました。

この「CHANGE」、非常に面白い動きをしているのですがこちらについては近日中に取り上げます。

 

今日は5位に到達したサカナクション「忘れられないの」について。

「忘れられないの」は先週水曜にリリースされたサカナクション6年ぶりのオリジナルアルバム『834.194』からのリード曲。

アルバムチャートはKing & Princeのセルフタイトル作が47万以上のセールスを獲得し圧倒的に強かったものの、『834.194』は『初週82,500枚を売り上げてCDセールス2位、11,555DLを売り上げてダウンロード1位、ルックアップは2位とバランス良く』ポイントを稼ぎ総合2位に初登場(『』内は上記記事より)。 

このインタビューにあるように、前作『sakanaction』(2013)は最終的に20万枚を突破したそう。おそらくデジタルダウンロードを含む数字かと思われますが、今作が初週94000枚以上を売り上げたのならば、20万超えは間違いないですね。

 

この勢いの要因のひとつは、先週金曜に放送された『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜20時)だと言っていいでしょう。ミュージックビデオの世界観を踏襲したパフィーマンスが評判となり、Twitterではサカナクションがトレンド入り。「忘れられないの」のミュージックビデオにはない足元のスモークや字幕スーパーが『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ)を彷彿とさせ、80年代感をより濃いものにしていました。その結果「忘れられないの」は曲単位でもヒット。『ラジオ2位、ダウンロード4位、ストリーミング6位、Twitter2位、動画再生15位と、フィジカル以外の指標でポイントをバランスよく積み上げ総合5位』(【ビルボード】山下智久「CHANGE」が91,020枚を売り上げ、スピッツ「優しいあの子」を抑え総合首位獲得 | Daily News | Billboard JAPAN(6月26日付)より)に至ったのです。アルバムからのリード曲でありながらシングル的な立ち位置(菅田将暉まちがいさがし」等)ではない曲が6546ポイントを稼ぐというのは、アルバム共々立派な数字です。

 

それにしても今回。実に巧いなと思ったのがメディア展開でした。

この、ミュージックビデオの世界観をテレビで再現という手法は、「新宝島」(2015 アルバム『834.194』にも収録)でも行なわれていました。が、そのときはタイムラグが発生。

(ツイートにて個人の方が執筆するブログを勝手ながら紹介させていただきました。問題があれば削除いたします。)

このときの反響は大きかったと思われ今回の演出につながったのかもしれませんが、今回はタイムラグを1日以内に設定したことが功を奏しました。本来ならば「忘れられないの」のミュージックビデオをアルバムリリース日、もしくは集計期間を最大限に活かすべく月曜に入った瞬間にアップするのが最善かもしれませんが、金曜日にアップされたビデオを観たときのインパクト(いい意味での違和感)を残したまま『ミュージックステーション』を観ることでより強烈な印象となり、さらなる反響につながったのだと思われます。

 

ちなみに「新宝島」は、昨年リリースされたベストアルバム『魚図鑑』(2018)の発売前週に『ミュージックステーション』で披露されており、『魚図鑑』はその勢いもあってビルボードジャパンアルバムチャートを制覇。さらにそのタイミングで「新宝島」も圏外から38→10位と再浮上していました。

新宝島」は曲単位でもヒットを続けており、シングルCDの発売から常に300位以内をキープするどころか100位以内に入ることも多いのですが、最新7月1日付では38位に上昇。ニューアルバム効果もさることながら、今回曲を最も大きく牽引している指標がストリーミング(同指標23位)であることに注目。『834.194』収録曲が「新宝島」「忘れられないの」を含め実に10曲も、最新7月1日付ビルボードジャパンストリーミングソングスチャートの100位以内にランクインしているのは特筆すべきと言えます。

10曲以上もの同時ランクインは、あいみょん『瞬間的シックスセンス』およびONE OK ROCK『Eye of the Storm』が発売と共にストリーミングを解禁し大量エントリーを果たしたことが記憶に新しいですね。

その他10曲以上同時ランクインは宇多田ヒカルさんやMr.Childrenが達成していますが共に旧譜の大量解禁効果であり、あいみょんさんとONE OK ROCKはオリジナルアルバムの発売同時解禁によるもの。サカナクションは後者となります。ONE OK ROCKが海外進出の関係で、あいみょんさんはデビューのタイミングを踏まえればストリーミングが当然な環境と言えたかもしれませんが、サカナクションのストリーミング解禁は2017年11月(ドリカムから椎名林檎まで……ストリーミング解禁の背景は ジェイ・コウガミ氏に聞く|Real Sound|リアルサウンド テック(2018年6月5日付)参照)。アルバムは2枚組で曲数が多いゆえ大量エントリーしやすい側面があるかもしれませんが、ストリーミングで結果を示すことが出来たのは日本の音楽業界において転換点に成り得るかもしれません。発売と同時解禁であることの効果もさることながら、アルバムセールスが前作以上となる可能性が高くなり接触が所有を駆逐しないことも証明されるだろうことから尚の事です。『ミュージックステーション』でのパフォーマンスからストリーミングや動画再生に即座につながり、曲単位で購入し、満足度の高さからアルバム購入(レンタル含む)につながる…その流れをきちんと築き上げているのです。

なお、『ドリフ大爆笑』(フジテレビ)のオマージュが評判となった「新宝島」のミュージックビデオ、現段階でのYouTube再生回数は執筆段階で9947万回。1億回再生が確実になりました。

この再生回数の多さは4年前の『ミュージックステーション』効果~ベストアルバム発売も影響していることは自明であり、「忘れられないの」でも同種の効果が期待されます。またフルバージョンでの解禁は、サカナクションが”接触”について丁寧に考えていることの表れであり、とにかく全てがプラスの方向に作用しているように思います。

 

 

最後に、ひとつだけ改善策を提示します。これはサカナクションではなく日本の音楽業界にお願いしたいこと。今回取り上げた「忘れられないの」において、『ミュージックステーション』でのパフォーマンスをサカナクションの公式YouTubeチャンネルにアップ出来る体制が出来ていたならば、ミュージックビデオとの比較等が容易に出来、テレビ番組版の映像も動画再生指標のカウント対象となることで同曲の勢いはさらに増したことでしょう。アメリカでは音楽賞等、テレビ番組でのパフォーマンスがすぐさま歌手側の公式アカウントでアップされることが多く、メディアと音楽業界が密接にリンクし権利関係もクリア(ネット時代に向けて再構築)しているのが解ります。パフォーマンスの即時アップは著作権違反の動画の違法アップロードを抑える意味でも有効ですし、テレビでのフルバージョン披露につながり番組の質のさらなる向上が見込まれ、またテレビ番組の余分な字幕等の排除にもつながるだろうことを踏まえれば、歌手側にとって有益ではないかと。番組のYouTubeアカウントを用意しそちらでアップするのはまだ出来なくはないかもしれません。権利関係で厳しいだろうことは承知ですが、是非とも検討をお願いしたいところです。