イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンソングスチャート構成指標のひとつ、Twitter指標への見方が変わりつつあります

今週月曜、三浦大知「片隅」のビルボードジャパンソングスチャートにおけるチャートアクションについて分析した際、比較対象としてTwitterでのファンによるつぶやき活動、いわゆる”ブリ活”を取り上げました。

今月上旬に発表されたビルボードジャパンの上半期ソングスチャートにおいて、その「Blizzard」は13位にランクイン。

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「Blizzard」のCHART insightのうち総合チャート(黒)とTwitter指標(水色)のみを抽出したのが下記。「Blizzard」は各指標バランスよく獲得しロングヒットに至りましたが、特に長期間ランクインしたひとつがTwitter指標で、15週連続を含む16週間トップ20内に在籍したこともあり、ブリ活が重要な役割を果たしていただろうと考えています。このファンによるTwitterでのつぶやき活動においては他にも様々な取り組みがあり、これまでは好例として取り上げてきました。

しかし、ここ最近のTwitter指標トップ20の顔ぶれをみると大きな変化がみられ、”好例”と捉えて良かったのか、疑問を抱いています。

 

「Blizzard」が最高位となる2位を獲得した2018年12月31日付以降、毎月最終週のソングスチャートにおけるTwitter指標上位20曲の歌手をまとめてみました。

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アイドル、K-Pop、声優やネット発の歌手、LDH所属等、シングルCDセールスが突出したジャンルの歌手の上位占拠が進んでいるのが解ります。特に際立つのがK-Popであり、またNEWSは調査対象日付全てでランクインしています。そのNEWSにおいてはさらに、最新週がシングルCDセールス初加算週であったとはいえ、ダブルAサイドシングルCDの表題曲2曲に加えてリリースされた3形態全てのカップリング曲もランクインし、1~4位と6位の5曲全てが登場しています。

 

たとえばK-Popの強さはアメリカも同様で、SNSでの歌手名の記載数を示す米ビルボードのソーシャル50チャートの顔ぶれからも理解出来ます。

最新6月29日付ではBTSが通算132週目のトップを獲得した他、K-Popの活躍が際立っていますが、日本でもそれに似たことが起きている気がします。なぜK-Popが大量に呟かれているのかは不明ですが、しかし日本においては心当たりがないとはいえません。

 

自分は以前から、先述したブリ活や、星野源さんの「アイデア」「Pop Virus」におけるTwitter活動の成果について、好例としてブログに記載してきました。

これらブログエントリーが、アイドルやK-Popのファンの方々に複数回引用されています。もしかしたら弊ブログが何かしらのヒントになったのかもしれない…と思うのは自惚れかもしれませんが、きっかけのひとつになった可能性はゼロではないでしょう。たとえばブリ活を実施した三浦大知さんファンが今回の「片隅」でもつぶやき活動を行ったことは想像出来ますが、同曲のシングルCDセールス初加算週におけるTwitter指標が16位だったことを踏まえれば、つぶやき活動がそこまで活発ではなかったことも考えられつつ他の歌手のファンによる活動が盛んになり全体のレベルが底上げされたことで埋もれた可能性も否定出来ません。だとすれば、まさかここまでファンのつぶやき活動が活発になるとは…という驚きでいっぱいです。

しかし、気になったことがあります。たとえば自分のブログエントリーを引用されたあるアイドルファンの方が”ビルボ活”という言葉を用いていたのがそのひとつ。調べてみると、その方が好きな歌手が2週前にシングルをリリースしたことを機にビルボードジャパンソングスチャートで上位にランクインさせるべく、集計期間終了日までの期限を設けてつぶやき活動しようというものでした。一見ブリ活と同種に見えるものの、ブリ活が長期間続いた一方でビルボ活はシングルCDリリースの初週で終了という文言が。ネーミングからビルボードジャパンソングスチャートでのチャートをより強く意識しただろうことも想像出来、瞬発的な上昇をよしとすると思しき考え共々、その施策を疑問視しています。瞬発的なヒットは真のヒットには当たらないということをシングルCDセールスのみが際立つ楽曲のチャートアクションから提示したことがありますが、つぶやき活動も瞬発力のみではやはり真のヒットとは言えないと断言していいでしょう。

他にも様々な歌手のファンが、ビルボードジャパンソングスチャートでのTwitter指標上昇を第一義に動いている姿が見え、Twitter指標の存在への疑問が芽生えてきた自分がいます。

 

 

ビルボードのソングスチャートではTwitter指標は加算対象になっていませんが、一方日本で導入された理由について、ビルボードジャパンでチャート・ディレクターを務める礒崎誠二氏はこのように語っています。

僕らはツイッターのデータから『楽曲がどれくらい話題になっているのか』を測っています。その回数から、レコード会社やメディアやアーティスト、そしてユーザー自身による発信がどのようにリアクションを集めているかを測定することができる。

説得力を失ったヒットチャートを復活させる方法|ヒットの崩壊|柴那典|cakes(ケイクス)(2016年11月14日付)より

ファンによるつぶやき活動がライト層(歌手のファンというわけではないが曲や歌手に好印象を抱いている方)に届き、動かす可能性があるということもチャート設計時の考えだと思われますが、先に挙げたTwitter指標を瞬発的に上昇させたり、内々のファンの盛り上がりにとどまっていると思われておかしくない活動は当初の設計思想とやや乖離してきているのでは…という疑問を抱いた次第。いや、他指標に比べてTwitter指標のウェイトは高くない可能性があり問題ないのかもしれませんが、最近同指標で上位に登場する曲をみるとTwitter指標だけで1000ポイント以上稼ぐ曲も表れています。仮に他指標が伴わず、またつぶやき活動が瞬発力ではなく恒常的に行なわれていたならば年間5万以上稼ぐ計算となり、そうなると社会的ヒットとは言えなくとも年間チャートで上位に登場する可能性も。ならば、ファンによるつぶやき活動がここ半年で急激に勢いを増したと言えるTwitter指標のウェイトは見直していいのではないかというのが今の自分の見方です。

 

日本のソングスチャートにおけるTwitter指標の導入理由においては、たとえば『ミュージックステーション』の存在が大きいものと思われます。

特に『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜20時)時に関連ワードが相次いでTwitterトレンド入りを果たしています。番組の(リアルタイム)視聴率は決して高いとは言えないものの、業界的にもSNS上でも無くてはならない番組と言えます。

またこれは穿った見方でしょうが、日本ではストリーミングやデジタルダウンロード未解禁の歌手は少なくありません。米では大半の歌手がストリーミングも解禁済ゆえ、テレビでパフォーマンスを観た方がダウンロードしたりストリーミングで曲に触れることでチャートに反映されますが、日本ではストリーミング等に直結しにくい現状があります。もし大半の歌手がデジタル解禁すればTwitter指標はなくなることこそないもののウェイトは減少するかもしれませんが、それに至っていない現状においてTwitter指標はストリーミング等の代替としても機能しているだろうというのが私見です。

ビルボードジャパンソングスチャートにおいてTwitter指標が盛り上がる理由を考える(3月22日付)より

『テレビでパフォーマンスを観た方がダウンロードしたりストリーミングで曲に触れることでチャートに反映され』る例は今日発表のビルボードジャパンソングスチャートでその好例が出現することが予想されます(その際は週内に記載予定です)。しかし日本ではまだまだそういった例や、そもそもストリーミング未解禁は多く、特に『ミュージックステーション』に毎週出演するジャニーズ事務所所属歌手は総じて該当します。彼らがチャートでより高い位置に付くためにはTwitter指標に頼ったほうがいい一方、逆にLDH所属や一部K-Pop歌手以外の男性アイドル(的立ち位置の)歌手は同番組に出ておらず、彼らはストリーミング等解禁していても強固な話題性を得られないことからやはりTwitter指標を有効活用せざるを得ない側面があるといえます。となると、男性アイドル歌手はほぼ全てTwitter活動にこだわらざるを得ないことになり、それがつぶやき活動をより強固なものにさせ不健全さを招きかねない要因につながったと考えていいのかもしれません。

だとすれば、『ミュージックステーション』が広く歌手を呼び寄せる(様々な”枷”(があることが想起されますが)を取っ払って出演させる)こと、ジャニーズ事務所所属歌手がきちんとデジタル解禁することが解決策となり、そうすることでTwitter指標に頼りすぎることがなくなりチャートの健全化につながることでしょう。理想論と言われればそれまでですが、つぶやき活動が急速に普及しこれまで好い動きと思われていたものが偏りを持ち始めてきたゆえ、強く提案した次第です。全ての歌手がデジタルを解禁すればゆくゆくはアメリカ同様にソングスチャートの加算対象からTwitter指標が外れるということはさすがにないとは思いますが、しかし次のチャートポリシー変更の際はTwitter指標のウェイトを落とすことは議論していいと思います。